表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎明のデシリア  作者: 中條利昭
第六話「新たなヒーローの誕生を」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/70

第六話「新たなヒーローの誕生を」-4-

「マイム。後ろから援護をお願い」

 それだけ伝え、リアハイリンはメルキーヴァへ向かって駆けた。

 真正面から渾身の拳をぶつける。

 メルキーヴァは余裕を持った表情でそれを弾く。

 パンチ、キック、肘打ち。

 さまざまなバリエーションの連続攻撃を叩き込んでいく。

 しかし、そのどれもが、メルキーヴァの巨体に掠りもしない。

「力任せに殴っても、動きが読みやすくなるだけだよ」

 その瞬間。

 メルキーヴァの拳が、リアハイリンの腹部にめりこんでいた。

「……っ!」

 内臓が揺れ、意識が一瞬だけ途切れる。

 その一瞬で。

 メルキーヴァはもう一度拳を突き出していた。

 防げない——。

 本能の絶望。

 しかし、衝撃は来なかった。

 リアハイリンの胴体を、水が包んでいたから。

 メルキーヴァは水の鞭を貫けずに弾かれていた。

 リアハイリンの身体は、鞭に包まれたまま後方へ吹き飛ばされた。着地すると、隣にリアマイムが立っていた。

「ハイリン。頭に血が上りすぎてると思う。一度落ち着こう」

「ごめん。それはちょっと無理な相談かも」

 リアハイリンが顔を引き攣らせながらはにかむと、リアマイムは「仕方ないなあ」とリアハイリンの額にゆるくデコピンをした。

「いてっ」

「了解。わたしが精一杯サポートするから。好きに暴れちゃって」

 リアマイムはウインクをする。

 そのかわいらしい仕草に、リアハイリンの表情が緩まる。

「……ありがと、マイム」

 深呼吸をする。肩から力が抜けていく。

 確かに、これまで肩に力が入りすぎていたようだ。

 落ち着いた心で、メルキーヴァへと冷静な瞳を向けた。

「私はね、ヒーローも好きだけど、ヴィランもそれなりに好きなんだ。悪には悪なりの信念があってかっこいいからね。ヒーロー側を成長させて、強くさせてから闘うキャラも観たことある。——それはそれで好きだったけど、自分が当事者だったら、こんなにムカつくんだね」

 メルキーヴァは、他人事のような涼しい顔だった。

「以前さ。君たちを試す、って言ったよね。何を試されているか、分かった?」

「決まってるでしょ」

 リアハイリンは、吐き捨てるように言った。

「あなたに何度も逆らったせいで、周りの人たちが次から次へとスレイヴにされていった……そういうことでしょ?」

 メルキーヴァは答えない。

「そんなことで私は折れない。言ったでしょ。増幅させる黒感情の種がなくなるまで、助け続けるって。その言葉に、二言はない」

 それまでリアハイリンの後ろにいたリアマイムが、確かな意志を持って一歩前へ出た。

「そもそも、みんなを好き勝手にスレイヴにしたのは、あなたでしょう? ……あなたさえいなければ、誰もスレイヴになることなんてなかった」

「都合のいいときだけ、責任を私たちになすりつけないで!」

 リアハイリンが駆ける。

 渾身の右ストレート。メルキーヴァは片手で受け止める。

 しかし、

「!」

 メルキーヴァの目が驚愕で見開かれる。

 彼女の小さな拳が、巨体を押していたのだ。

「……『あなたさえいなければ』、ね。こっちの世界に来ても、それを言われる運命なんだな、俺は」

 メルキーヴァはどこか寂しげに呟くと、掴んでいたリアハイリンの拳を、さらに強く握りしめ、押し返していく。

「強いね、君は。無の邦の者は、誰も彼も貧弱に見えたけど、心は俺の祖国の連中より強いのかもね。——それとも、お嬢ちゃんたちが特別強いだけなのか」

「強くなんかないよ。ただ、心の強い人に憧れて、そうなりたいって、その背中を追いかけて行動してるだけ……!」

 リアハイリンはさらに拳に力を加える。

 拮抗した力と力によって周囲の空気がビリビリと震えていた。

「簡単に言うけど、自分を信じ続けるなんてそうそうできるものじゃないよ。特に、俺のように歳を無駄に重ねていくとね。君たちはいつまで、その純粋な心を信じ続けることができるのかな?」

「仲間がいる限り」

 即答と同時、押す力を引く力に変える。

 バランスを崩したメルキーヴァの懐へ、鋭い肘打ちを叩き込んだ。

 しかし、そのアクションは熟練の傭兵には想定内だった。

 彼は身体を翻し、彼女の攻撃を避けて背後へ回ろうする。

 しかし、その背中に水の壁が触れる。

「!?」

 回避を阻まれたメルキーヴァの胸に、リアハイリンが渾身の一撃を叩き込む。

 メルキーヴァが、とうとう顔を歪めた。

 そのまま追撃をしようとするが、手を振り払われた。彼は大きく後退する。


「仲間がいる限り……」

 メルキーヴァはリアハイリンと距離を取って一息つき、彼女の言葉をそのままなぞった。

「若いね。そういうの嫌いじゃないよ。昔の自分を思い出す」

 思い出したくもないけどね——。

「昔の自分?」

「俺もね、小さい頃から自分を信じて必死で努力してきたのさ。今の君みたいにね。そのまま一国の軍の将軍にまで上り詰めた。でも、ある日気づいたんだ。その努力に見合うものを、俺は何も手に入れられなかった、って。自分を信じ続ける価値なんて、まるでなかったんだ。君もいつか気づく」

「よく分からないけど、あなたに何を言われたって、あなたを倒さない理由にはならない!」

 リアハイリンが再度突撃してくる。

 メルキーヴァは腕を交差させて盾を作り、リアハイリンのパンチを正面から受けとめた。

 衝撃で十歩分ほど後退させられる。

 再び、リアハイリンが飛び込んでくる。

 あまりにも愚直な動き。

 同じように腕で防ごうとするが、リアハイリンがやや軌道を変えた。

「!」

 彼はようやく気づく。

 すぐ斜め後方に柱があることに。

 攻撃を受け止めたものの、背中を石柱へと強かに打ちつけた。

「やるじゃん」

 そのまま石柱に身体を預ける。息が切れ始めていた。

 リアマイムが、静かに問いかけてくる。

「ねえ。教えてほしいのだけど、わたしたちが勝ったときのメリットは何? あなたはデシリル・ジェムとアンプを奪えて念願が叶うのだろうけど、わたしたちが勝っても、また外であなたが襲いに来るんだったら不公平じゃない?」

「確かにその通りだね。いい着眼点だ。……じゃあ、お嬢ちゃんたちは何が欲しいの?」

 リアハイリンとリアマイムは顔を合わせ、目で短い会話をし、頷き合った。

 リアハイリンが答える。

「もう二度と、私たちの前に現れないで。デシリアの力のことは諦めて、自分の故郷に帰りなさい」

「それ、ヘヴン全体に対して言ってる? だったら、俺にそんな権限はないなあ」

「あなただけなら、どう?」

 リアマイムが鋭く切り返す。

 ふっ、とメルキーヴァは笑う。

「故郷に帰られるかは、俺の一存ではなんとも言えないけど、いいだろう。了解した。君たちが勝てば、俺は全部諦めてどこかに去るよ。俺は二度と君たちの前に現れない。どう? それで満足かい?」

「分かった。それでいい」

 リアハイリンが拳を突き出す。

 逃げ場のないメルキーヴァは、腕で弾いて軌道を逸らした。

 その瞬間、目の前に水球が現れる。

「なっ!?」

 リアマイムの死角からの狙撃。

 頬に直撃し、後頭部を石柱に強打する。

 魔人が、ついに膝をついた。

「……今のは、効いたよ」

「その程度? スレイヴならそろそろ声が聞こえてくる頃合いなんじゃない?」

「俺をスレイヴ扱いか。愉快なこった」

 メルキーヴァは、血の混じった唾を吐き捨てながら、立ち上がった。

 ——あー、結構ダメージ食らっちゃったな。

 思っていたよりも追い詰められていることに、笑えてきた。

 リアハイリンが問う。

「そういえば、スレイヴが相手のときは浄化して終わりだったけど、あなたの場合はどうなるの? どうなったら終わり?」

「俺が君たちに『負けました』と負けを認めれば、君たちの勝ちだ。逆に、君たちのデシリル・ジェムとアンプが、すべて俺の手に渡れば、君たちの負け。理解した?」

 メルキーヴァは肩を竦めてみせた。

「じゃあ、あなたは私たちを倒さずとも、盗むだけでも勝ちってこと? 卑怯じゃない?」

「そんなことはしないから安心しな。君たちが『お願いです、渡すので許してください』って泣きながら懇願しない限り、デシリル・ジェムとデシリル・アンプを受け取る気はないよ」

「するわけないでしょ」

 リアハイリンは、きっぱりと言い放った。

「いつまでそう言ってられるかな」

「この手の敵キャラって、毎度撤退してるくせにそういうセリフ言うよね」

 メルキーヴァは、小馬鹿にするようにフッと鼻で笑った。

「リアハイリン。この間、君と手合わせした時に俺がこう言ったこと覚えてるかい? 俺はまだ半分しか力を出してない、って」

「ああ、ボスキャラテンプレみたいなハッタリね。それがどうしたの」

「……ハッタリじゃないんだなあ。それが」

 メルキーヴァはそう言うと、リアマイムの方へと大きな手のひらを向けた。

 ——次の瞬間、リアマイムの身体が砲弾に撃ち抜かれたかのように、後方の柱へと叩きつけられていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ