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グリーン・インパクト  作者: 未来が見えない
第一章 交錯する世界

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第四十九話 希望を胸に

 向かう先は、先ほど響いた衝撃音の方角――村の入り口側だった。あの辺りは村の中央から少し距離があり、さっきまでは視界にも入っていなかった場所だ。もし誰かが残っていたとしても、奥にいる限り気づくことはできない。嫌な予感が胸の奥でざわつく。


 俺は足を速めた。いや、駆け足というよりほとんど全力疾走だ。焼け落ちた家々の間を縫うように走り抜ける。地面には、さっきまでの戦いの名残が散乱していた。砕けた結晶、血に濡れた地面、折れた武器。


 やがて、視界の先に動く影が見えてくる。


 ――やはり、まだ終わっていない。


 村の入り口付近で戦闘が続いていた。どうやらリザードマンの残党が残っているらしい。数は三体。恐らく、あのガニメデの野郎が最後の悪あがきでよこした奴らだろう。あいつのやり口からして、撤退する際に村を荒らすための捨て駒を残していった可能性は高い。


 そして、そのリザードマンとやり合っているのはヤンダとロドの夫婦、それにジャンヌとシエルの夫婦だった。俺はその光景を見て、思わず肩の力を抜いた。あいつらならそう簡単にはやられない。ヤンダはヤンガの娘で、金髪が特徴的な女だ。父親譲りの気の強さで、昔から村の若い連中を引っ張ってきた。ロドはその夫で、顎髭をたくわえた大柄な男だ。あの髭はいつ見ても整っている。戦闘の最中でも形が崩れていないあたり、普段から手入れしているのがよく分かる。


 ジャンヌは癖の強いロングヘアの男で、少し線が細く見えるが形態変化の扱いが妙に上手い。そしてその妻であるシエルは、黒髪のボブショートで華奢な体格の女性だ。だが判断力は鋭く、後方支援では村でも指折りの腕前を持っている。


 四人とも形態変化をそこそこ使いこなしているが、俺はその戦い方を見て違和感を覚えた。リザードマンは三体。数だけなら四対三でこちらが有利なはずだ。だが、よく見ると戦い方が後手に回っている。


 リザードマンは杖の結晶を掲げ、宙に結晶を生やしてそれを飛ばすように攻撃している。四人はその結晶攻撃への対処に意識を取られ、本体への攻撃が甘くなっていた。特に問題なのはシエルだった。リザードマンの狙いは明らかで、体格が華奢なシエルを標的にしている。


 一体が結晶を飛ばし、もう一体が接近し、残る一体が側面から回り込む。完全な分断戦術だ。それを見て、ヤンダ、ロド、ジャンヌの三人はシエルを守るように立ち回っている。結果として常に防御主体の戦いになってしまい、主導権を握れていない。このままでは決着がつかないどころか、先に消耗するのはこちらの方だろう。俺は小さく息を吐き、一歩前に踏み出した。


「おい、お前ら!」


 声を張り上げると四人が一斉にこちらを振り向いた。


「そいつらの結晶攻撃に翻弄されすぎだ。本体は大したことねえ。シエルは後方に回れ、隙を窺って攻撃するんだ。あとは俺の後ろから支援しろ!」


 シエルは一瞬目を丸くし、状況を理解できていない様子だったが、すぐに驚いた表情に変わった。


「ゲンさんじゃないですか!!」


 その声を聞き、ロドがリザードマンの攻撃を腕で受け止めながらこちらを見た。


「なっ!?ゲンじゃねえか!あんた無事だったんだな!こいつら逃げたかと思えば、また戻ってきて襲ってきやがった!」


 俺は軽く笑った。


「おお、ロド。相変わらずその髭、分かりやすいな」


「馬鹿言ってねえで、コイツらどうにかしてくれよ隊長さんよぉ!」


「そうだぜ、ゲン!」


 ジャンヌも叫ぶ。


「ほんとよ、もっと早く来ればいいのに」


 ヤンダが不満げに言う。


 俺は肩を鳴らした。


「悪いな。ちょっと別の化け物と遊んでてな」


 三体のリザードマンはすでにこちらを睨みつけていた。どうやら新しい獲物が現れたと思っているらしい。俺はゆっくり歩き出し、軽く首を鳴らす。


「いいぜ。その遊び、俺が相手してやる」


 次の瞬間、地面を蹴った。身体が一気に加速し、一体目のリザードマンの懐へ踏み込む。反応するよりも早く拳を叩き込むと、鈍い衝撃音とともにリザードマンの体が吹き飛んだ。続けざまに二体目が結晶を射出するが、そんなものは見えている。腕を形態変化させて弾き、そのまま間合いを詰める。


「遅え」


 一閃。刃が走り、リザードマンの腕が宙を舞った。最後の一体が逃げようと振り返った瞬間、背後からヤンダの刃が突き刺さる。


「終わりよ!」


 リザードマンは短い悲鳴を上げ、そのまま崩れ落ちた。戦いはあっけなく終わり、辺りには静寂が戻る。ロドは大きく息を吐きながら肩を落とした。


「はぁ……助かったぜ」


「危なかったですね……」


 シエルが胸を押さえながら言う。俺は周囲を見渡した。もう敵の気配はない。


「とりあえず村長の家に戻るぞ」


 四人が頷き、俺たちは村長の家へ向かった。


 ◇


 村長の家の扉を開けると、中では二人の子供が木の棒を持って稽古をしていた。ラルクとヤンだ。二人は窓から見たのか先ほどの戦闘の話をしているらしく、興奮気味に言い合っている。ラルクは強がるように木の棒を振り回し、ヤンはそれを軽く躱していた。やがてジャンヌがラルクを注意し、ヤンダがヤンを叱る。


 ロドとシエルは苦笑しながら二人を宥めていた。そんな光景を横目に見ながら、俺は二階にいるであろう村長のところへ向かった。そこには、ここを出る時にいた青年二人がいた。キバとアイズだ。どうやら二人は無事に幼女を連れて帰ってきていたみたいだ。良かった。本来ならもっと俺が指揮をしなければならないが、助けられた。


「お前ら、ありがとう。どうだ?」


「さっきの幼女は酷く落ち込んでいるようで、別の部屋で寝かせています」


 アイズは言う。


「それに、あの子以外にも取り残された人がいて、ゲンさん達が戦っている付近以外は俺達でくまなく探して避難させることができました。あの場に化け物が来なくて本当に良かったです。流石に守れないですから」


「お前たち、マジでナイスだ!流石インテリパワーコンビ!!俺の目に間違いはなかった!」


「「いや、それほどでも」」


 二人は頭をぽりぽりとかき、恥ずかしそうにしている。


 俺は二人に感謝し、近くにいたヤンガの爺さんに話しかける。


「村の被害は想像以上だった。焼け落ちた家は多く、負傷者も少なくない。このままここに留まり続けるのは危険だと判断せざるを得ない。追手もまだいた。村を移そう、爺さん」


「ふーむ、そうじゃのう。名残り惜しいが、そうするしかないな。建て直すにはちと時間が掛かるしの。逃げるが勝ちじゃな」


「ああ、そうだ。爺さん、次の村になる場所の目星はついているんだ」


「ほう?そうじゃったのか?」


 俺は爺さんに、記憶の中にある地形を思い出しながら事細かく説明した。爺さんに承諾をとった俺は村の民を集結させるよう、声を張り上げて集合を呼びかけた。


「大事な話があるんだ!みんな、一階に集まってくれ!」


 すると、部屋にいた者や二階にいた者らが何事かと集まり、一階の広間に全員が集まった。


「良いか、よく聞いてくれ。反対意見はなしだ。これは今後に関わるからな。責任は全部俺にある」


 俺は一度息を整えた。


「村を移す」


 その言葉に全員の視線がこちらへ向く。俺はゆっくりと言葉を続けた。「リザードマン達が王国へ逃げ帰ったとすれば方角は北西だ。ならば俺たちはその逆、南西へ向かう。以前狩りに出たとき、巨大な鳥型の魔物を森で倒し、平原で恐竜を倒した先に水源が微かに見えていたのを思い出す。前にも行った狩場だ。バガールの群れも通るから、水場はあるだろう。」


少し息を継いで語る。


 「恐らく川も近い。水があるなら生活できるし、周りは森もある。隠れ潜むにはもってこいだ。俺はそこを新しい村にするつもりだ」


 しばらく沈黙が流れたが、最初に口を開いたのはロドだった。面白そうに笑いながら「いいじゃねえか」と言う。ヤンダも腕を組みながら「アンタが言うなら間違いないでしょ」と頷き、ジャンヌは見晴らしの良さを評価した。ヤンとラルクはまだ木の棒で戦い合っている。その横でシエルは静かに微笑みながら「野営ですね」と言った。サブは松葉杖をつきながら「ゲンの旦那、どこでも付いていくっス」と拳を突き上げている。正直こいつに至っては、モヒカンで涙顔なのが怖い。


 だが、皆が賛同してくれて良かった。俺は頷き、まずはそこまで移動すると告げる。窓から焼け残った村をもう一度見渡す。ここでの生活は終わるかもしれない。だが、まだ終わりではない。村の民はまだ希望を心の内に持っている。諦めない、ここからだ。クヨクヨなんて俺らしくないからな。みんなをまとめ上げる、見ててくれリン…。俺たちは新しい村を目指して動き出すことになった。

いつもお読みいただきありがとうございます。皆さまからのブックマークや高評価が、執筆の大きな励みになります。これからも楽しんでいただけるよう精一杯書いていきますので、引き続き応援よろしくお願いします!

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