第四十八話 生存者の確認
まずは、ここに避難している他の生存者を確認する必要がある。そのためには、俺一人だけでは足りない。この家にいる、まだ動けそうな奴を二人ほど連れて行きたい。
「俺は一階に避難している村の民から二人ほど選んで、生存者の確認をする。二人はソウの面倒を見てて欲しい。」
「む、確かにな。お主が行くなら適任じゃわい。お主、代わりに村長するかの? わしよりも向いておる。」
爺さんはジョウロの杖で俺を指すように向けた。
「おいおい、やめてくれよ爺さん。それに誰しも適任ってもんがあるんだよ。」
「ふむ、そうかの? わしもまだまだ現役でおれるのか。ならばゲンよ、お主は村の救世主となるであろう。わしらを導いてくれぬか。わしには先を読む力がないのでな。」
「爺さんの思いは分かった。俺が導いてやるか。そうだな、名付けるなら――レベル1の村から始まる王国攻略物語って感じか。」
「なんじゃあ? そのレベル1っていうのは……。ふむ、まあよかろう。お主に任せれば問題はないじゃろ。」
ヤンガの爺さんは、額をポリポリと掻きながら疑問を呈したが、すぐに興味を失ったようだった。
「ゲンの旦那ぁ、おれッチも行きたいけど流石に足が……」
「サブ、大丈夫だ。お前は無理すんな。」
「旦那ぁぁぁ、優しいッス!」
「怪我人を酷使するほど、俺も鬼じゃねえよ。」
そして俺は二階の部屋を後にし、カツカツと階段を降りて一階へ向かった。
下の部屋には、椅子に腰掛けている者や、地べたに横になっている者たちがいる。痛々しい傷を負っている者も多いが、緊急というほどではないらしく、この部屋で待機しているようだ。別の部屋では看病されている者もいるようで、被害の大きさがよく分かる。
それでも、見渡してみると何人かは動けそうな者もいた。少し安心する。
今いるこの部屋は大広間のようになっており、数十人がいてもぎゅうぎゅうに詰まったような狭苦しさはない。だが空気は重く、誰もが不安と疲労を抱えているのが伝わってきた。
俺は軽く息を吸い込み、声を張り上げる。
「あー、みんな聞いてくれ。頼みたいことがある。この場から二人ほど俺と一緒に、この村の状況を確認しに行きたい。どうだ? 行けそうな奴はいるか?」
するとすぐに手が上がった。
「俺、行けます!」
「僕も行けます!」
大きな声で返事をくれたのは青年二人だった。
一人は少し目つきが悪いが、どこか爽やかな印象を受ける黒髪の青年。もう一人は少し小柄だが、賢そうな茶色いおかっぱ頭の青年だ。
逆にこのバランスは丁度いい。
パワー担当とインテリ担当。そして俺が統率する。
うん、このメンバーで決定だ。
「よし、よく言ってくれた! 確かお前らの名前は……えーっと――」
「俺はキバ。」
「僕はアイズです。」
「ああ、悪いそうだったな。俺、人の名前を覚えるのが苦手でよ。」
二人は顔を見合わせて少し笑う。
「よし、じゃあキバとアイズは俺の後ろについて来い。そして周囲を確認しながら、生存者を用心深く探すんだ。いいな?」
「「了解です!!」」
俺は二人を先導し、扉を開けた。
村長の家をあとにする。外に出ると、空気の匂いが変わった。焦げた木の匂い。血の匂い。土煙。
村はまるで嵐が通り過ぎた後のように荒れ果てていた。
倒壊した家屋、砕けた柵、地面には戦闘の痕跡が無数に残っている。
「……ひどいな。」
アイズが静かに呟いた。
「油断するなよ。リザードマンがまだ残ってる可能性はある。」
俺は周囲を警戒しながら歩く。
キバは大きな体を少しかがめて歩き、アイズは周囲を細かく観察していた。しばらく進んだときだった。
「……ん?」
キバが足を止める。
「どうした?」
「なんか聞こえた気がする。」
俺たちは耳を澄ませる。
すると――
「……ぅ……」
かすかな声。
「子供の声だ!」
アイズが言った。確かに、小さい子供の声が響いてきた。二人は崩れた家の裏へと走る。俺も後ろからついていく。
瓦礫の隙間を覗くと、そこには小さな女の子がうずくまっていた。泥だらけの服。震える体。
「大丈夫か?」
キバが優しく声をかける。幼女はビクッと肩を震わせた。
「もう大丈夫だ。俺たちは村の人間だ。」
アイズがしゃがみ、目線を合わせる。すると幼女は泣きながら頷いた。
「……こわかった……」
「よしよし、もう平気だ。」
キバが幼女を抱き上げた。その様子を見て俺は少し安心する。
だが――
その時だった。
ドォォォン!!!
遠くから巨大な衝撃音が響いた。
まるで何かが激しくぶつかったような音だ。
俺は瞬時に顔を上げる。
「……まだ戦ってる奴がいる。」
音の方向を睨む。リザードマン達は全員撤退した訳じゃなかったのか?残党がのこっているということか。確かに村の入り口の方は確認していない、そこで戦っている村の民がいるかもしれない。
「キバ、アイズ。」
「「はい!」」
「その子を村長の家に連れていけ。俺は音の方を見てくる。」
「えっ!? 一人で行くんですか!」
アイズが目を見開いて驚く。
「問題ねえよ。こういうのは俺の役目だ。」
俺は軽く笑った。リンやソウ村のためならなんだって体を張れる。俺らしくないからな、くよくよなんてしていたら、リンにどやされちまう。
「それに、あっちには多分――まだ戦ってる奴がいる。」
キバは少し迷った顔をしたが、やがて頷いた。
「……分かりました。ゲンさん気をつけてください。」
「ゲンさん、無理はしないでください!」
「ああ。悪いなお前ら。せっかく、色々と教えようと思ったけど、まあ任せた。」
俺は背中を向ける。
そして音のした方向へ走り出した。
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