第四十七話 戦火の傷跡
俺は、以前と違う村の残骸を見て唖然としていた。
見渡すと、リザードマンと村の民があちこちで倒れており、家からは火が上がっていた。幸い、家は間隔が空いており燃え移ることはなさそうだ。しかし、パチパチと燃えている様を見ていると、これまで暮らしてきた村の民が悲鳴を上げているように思えた。そこには村の民が生活していたはずなのに、今ではまったく面影がなく、ただの灰と化している。
俺はリンの亡骸を抱き、ソウをおんぶした状態で、変わり果てた村の様子を眺めながら村長の家へとたどり着く。
「開けてくれ! 俺だ! ゲンだ!」
――キイ。
扉はゆっくりと、徐々に開かれていく。村長であるヤンガが恐る恐るこちらを覗いていた。後ろには村のみんなが避難している様子が分かる。
「大丈夫じゃったか……おぬしたち……。ん、それはリンか!? どうやら、そういう訳でもなさそうじゃな……」
ヤンガは、俺が抱えているリンの死体を目にしてトーンを落とした。ヤンガは何が起きたのか察した。ただ、そこにいるリンを見て視線を俺へと向け、
「申し訳ない」
と謝った。
俺は別にそんなつもりもないし、爺さんが謝ることではないと思った。ここにいるみんなは、むしろ被害者なのだから。奴ら王国の者がすべての元凶であり、俺らに非はない。
「爺さんは謝らなくていい。謝らなければいけないのは王国の者だ。」
「お、王国とな!?」
「リザードマンなる人型の蛇竜を率いていた巨躯の男が言っていた。だから間違いないと思う。伝承は本当だった。」
「そ、そうじゃったか。まさか人ならざる者が現れるとはな。リザードマンはここにも来たから、なんとかワシらで倒したが、見たこともない攻撃をしてきおった。まるで生き物のようなあの結晶。無機物とは思えない動きをしておったのじゃ。災い来たれり、と言った感じじゃな。立ち話もあれじゃから、そこの机の椅子に座るのじゃ。」
「悪い。その前にリンをどうにかしてやりたいんだが……できれば静かなところで落ち着かせたい。」
「そうじゃの。死傷者を床に寝かせている部屋がある。後で身内確認して弔うための部屋じゃ。ちゃんと枕と毛布をかけて寝かせておる。そこでなら彼女も幾分かマシじゃろう。」
ヤンガはジョウロを杖代わりにしており、コツコツと地面を確かめるように突いた。
「すまない、助かる。リン……もう少し待っててな。寝かせてあげるから。」
「ねんねだよー」
ソウは小さい手でリンの頭を撫でた。
なぜかそれを見て、光がぽわっと蛍のように舞ったように見えた。そして、温かい空気が流れたような気がした。リンはまだそこにいるのか? 見ていてくれているのか。
抱えている彼女は冷たく、生命を感じない。だけど、側にいる気がした。
「ほっほっほ。お主らはこの村の希望じゃ。ささ、入るのじゃ。」
俺はリンを抱えて中に入る。ヤンガが二階の部屋を案内する。その間際に、傷だらけで避難している村の民の姿が目に入り、辛い気持ちになる。痛々しい。
「ここじゃ。窓を開けた景色はここがええんじゃ。死んだ者たちも、薄暗い地下の中より、本当は高いところにいたいじゃろ? じゃから、この部屋にしたんじゃ。」
そうか、そんな思いがあったんだな、爺さん。
俺はリンの体を下ろし、枕元に頭を優しく乗せる。
すると、部屋の扉を開けた者がいた。トサカのような髪を生やした男、サブだった。サブは松葉杖をついてこちらにやってきた。
「旦那無事だったんすね。良かったっス……おれっち、てっきりやられたんじゃないかって……あ!? り、リンさん? そ、そんな……」
「馬鹿言え。俺はこんな所でくたばらねえよ。リンは……俺たちに託したんだ。この村の未来もな。」
「そうじゃ。この村は、かの伝承の王国と戦わねばならぬのじゃ……奴らは断じて許すことはできんのじゃ。わしの大事な村の民を……」
ヤンガは怒りで震えている。
「ああ。だが、奴らのことは俺たちは知っているようで何も知らない。だから今から攻めたって死に急ぐだけだ。」
「じゃが、村の民の気持ちはどうするのじゃ。怒りで打ち震えておる。わしもそうじゃ。何も奴らにしていないのにこの戦火、おかしいじゃろう。」
「そうっすよ! ゲンの旦那、ここは一気にこちらから行きましょうよ! 幸い準備すれば、おれっちらだけでも向かえるっすよ!」
「そうじゃの。民の恨みを晴らさねば。」
俺は頭を抱える。
駄目だ、まるで分かっていない。策を練るということを何も分かっていない。確かに今までの俺だったら、この二人みたいな考え方をしていただろう。
狩猟に重きを置いているばかりに、ターゲットとなる敵の力量差を考えていない。
確かに今、追えば時間差をかけず潜伏しながら接近することは可能だとは思う。ただ、それは俺たちがいつも相手をしているバガールなどに限った話だ。
現実を見ていないんだ、二人は。理想と現実とのギャップが大きいことに気づいていない。だからそんな言葉が出てくる。これは深刻な問題だというのに。
「あのな、まず今、追うにしてもどこにいるかも分からないんだぞ? それに奴らは相当な手練れだ。バガールみたいな生き物とは違う。俺らは負傷者数が多い中、また奴らがやってきたらどうする? 残った者を見殺しにするようなもんだからな。」
「「!!?」」
二人は衝撃を受けている。俺の話を聞いて、村の民を危険にさらすということにどうやら気づいたようだ。
「じゃあどうするっスか? ゲンの旦那ぁ。」
「そうじゃよ、お主。どうすればええんじゃ。わしは老いて何も考えられんぞい。」
「まあ、そうだろうな。まずやることは、なるべく早くこの村から移動することだな。」
「「い、い、移動??」」
二人は声を合わせて呆けた表情で聞く。
「そうだ。ここから離れる。そして新たに村を築く。あとは狩猟班の編成、索敵、村の民の強化をやっていく。ここはもう場所を知られているからな。追手に気づかれないようにしないとな。」
「考えておるのう。じゃが、そんなに時間を掛けても大丈夫かの?」
「ああ、大丈夫だ。奴らもすぐに追手を出すことはないだろう。一旦、王国に連絡するはずだ。そして、リザードマンを率いたガニメデを俺が追い込んだから、あっちとしても痛手なはずだ。ガニメデは当分出てこれないだろうしな、あの体じゃ。その間に新たに村を築けばいい。できれば周りが森林で、水源が近い場所がいい。水流で囲えば奴らも探すのに苦労するだろう。」
さあ、ここからは新しい村づくりと弔いをやるぞ。
泣いている暇なんてない。
今いる村の民を最大限に守り、強くするんだ。
いつもお読みいただきありがとうございます。皆さまからのブックマークや高評価が、執筆の大きな励みになります。これからも楽しんでいただけるよう精一杯書いていきますので、引き続き応援よろしくお願いします!




