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グリーン・インパクト  作者: 未来が見えない
第一章 交錯する世界

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第三十六話 ファーストコンタクト

 朦朧とした意識の中、誰かが語りかけている気がした。

 暗い、暗いまどろみの中で、俺はわずかに目を開ける。


 誰かが、呼んでいる。


 闇の奥で、朧げな光がじわじわと集まり、やがて一つのシルエットを形作った。


『私の声が聞こえますか? 私の名前は……です。……の子孫を……止めねば……なりません。私の……が聞こえる……あなたの……たす……必要が……あります……』


 頭が痛い。

 誰かが深層意識の奥深くから直接語りかけてくる。


 少女のような、女性のような輪郭だけは分かる。それ以外は曖昧だ。

 声も途切れ途切れで、はっきりとは聞き取れない。だが――助けを求めていることだけは分かった。


 困っている人を放っておけない。

 それが俺だ。


 助けてやりたい。


 体は動かない。だが、どうやら口だけは動かせるらしい。


(ああ……助けてやるよ)


『!?』


『よかった……ボクの……を……ありがとう……』


 少女の光り輝いていたシルエットが、ふっと黒い粒子へと変わる。


 先ほどとは打って変わって、禍々しい気配が漂う。

 黒い粒子は渦を巻き、俺を呑み込むように集まり、体を埋め尽くしていく。


(なんだ……!? 一体どうなってやがる……!)


 顔まで覆われ――そこで、俺の意識は完全に途切れた。


 ◇


「おーい、ゲンさん。聞こえてっかー?」


 俺の名前を呼ぶ声。草原で救出してくれた男だ。


 さっきの出来事が夢だと分かり、俺はほっと息をついて返事をする。

 辺りを見渡すと、どうやら村まで戻ってきたらしい。見慣れない部屋だが、おそらく男の家だろう。


「ああ、平気だ。変な夢を見たくらいだな」


「夢? まあ、二日も寝てりゃ見るか。どうせリンさんにどやされる夢だろ?」


「いや、そんなんじゃねえよ。……そうか、二日も寝てたのか」


 十分眠ったおかげか、体の調子は驚くほどいい。


 男を何気なく見る。茶髪で長身、きりっとした一重が特徴的な顔立ち。

 村の仲間で、俺と同い年の――イバだ。


 気さくに笑うイバの顔を見ると、体に残っていた緊張がすっと抜けていく。

 どっと疲れが押し寄せた。


 そこへ――


「あら、気がついたのね!」


 明るい声とともに入ってきた女は、籠を抱えている。中には果物がたくさん詰まっていた。甘酸っぱい香りが鼻をくすぐる。


 黒髪の――ラナだ。


 ラナはイバの伴侶で、いつも狩りでは行動を共にしている。

 あのとき草原で会ったのも、狩りの帰りだったのだろう。


 奴があの場にいてくれて、本当に助かった。

 でなければ相当な被害が出ていたはずだ。狩猟班が全滅まではいかなくとも、大きな痛手になっていたに違いない。


「そういえば、お前ら子供が生まれたって言ってなかったか? なんで二人して狩りに出てたんだ?」


 二人には、俺の息子ソウと同じくらいの子供がいるはずだ。


「今日は娘の誕生日なの。二人で最高のご馳走を届けようと思ってね。近所の人が“面倒は見るから行ってきなさい”って」


 ラナは満面の笑みを浮かべる。

 隣でイバが腕を組み、うんうんと頷いた。


 なるほど。だからテーブルには果物やパイ、こんがり焼いた肉が並んでいるのか。


「それは助かるな」

「ゲンさん。単刀直入に聞くが、あの場で何があった?」


 イバが真剣な顔になる。


「ああ。俺とサブが散歩がてら森林を歩いていたら、でかい鳥もどきに出会った。見たことのない種類だったから平原近くまで確認しに行ったんだ。生態調査のつもりでな。そしたら岩場にバガールの死体が山積みになってた。見に行った瞬間、橙色の牙の竜に待ち伏せされたってわけだ。たぶん、あいつが原因で鳥もどきや他の生き物も逃げてきてたんだろうな」


「そうか……本当に生きててよかった」

「二人とも血塗れだったんだから。本当に……」

「こちらこそ、助けてくれてありがとうな」


 しんとした空気が流れる。

 俺は耐えきれず話題を変えた。


「そういえば、サブは?」

「怪我が酷くて、村長が直々に治療してるわ」

「そうか。様子を見てくる」


「えっ、もう動くの!?」

 ラナは驚きで声が上ずる。


「まだ安静にしてたほうが――」

「いや、すこぶる調子いいぞ?」


 イバが目を見開く。


「待て。あんた複雑骨折してたんだぞ。……って、治ってる!? 形態変化も無しに再生したってのか!? 何者だよあんた!」


「いやいや、褒められてもな。元は同じ一族だろ? そのうちお前らもできるんじゃね?」


「「えええええ!?」」


 イバとラナが同時にのけぞる。

 目が飛び出さんばかりの勢いだ。


 いや、そのリアクションのほうがすごいだろ。


「まあ、とにかく看病ありがとな。今度埋め合わせする。娘ちゃんの誕生日、邪魔しても悪いしな」


 俺は手をひらひら振り、扉を開けて外へ出た。


いつもお読みいただきありがとうございます。皆さまからのブックマークや高評価が、執筆の大きな励みになります。これからも楽しんでいただけるよう精一杯書いていきますので、引き続き応援よろしくお願いします!

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