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グリーン・インパクト  作者: 未来が見えない
第一章 交錯する世界

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第三十話 ゲン散歩

俺の名前はゲン。中世代、村育ちの三十三歳だ。


 歳だけ聞けば、立派な大人らしい。だが中身はどうだろうな。最近じゃリンのやつに「なんか臭い」と言われる始末だ。


 臭い、だぞ。


 昨日も風呂代わりの川浴びをしてきたばかりだってのに、だ。


「最近ちょっと、親父臭い」


 そう言って鼻をつまむ仕草までされた。あれは地味に効く。胸にくる。


 自分の匂いなんて、自分じゃわからない。腕を上げて嗅いでみたが、俺にはいつもの俺の匂いしかしない。汗と土と薪の煙。それが俺だ。村の男は皆そうだ。


 だがリンは違うらしい。あいつは妙に鼻が利く。


 俺が本当に親父臭くなったのか。それとも、ただからかわれているだけなのか。


 ……まあ、どっちでもいい。


 愛されていれば問題はない。問題はないのだ。


 そう自分に言い聞かせるが、胸の奥にわずかに引っかかる棘みたいなものは消えない。


 ソウが生まれてから、日々は目まぐるしく過ぎていく。


 朝は薪を割り、畑を見て、狩りに出る。戻ればリンが怒鳴り、ソウが泣く。抱き上げれば笑い、泣き、眠る。夜は泥のように眠る。


 気づけばまた朝だ。


 時間というやつは、いつからこんなに速くなったんだろうな。


 昔は一日が長かった。日が沈むまでが果てしなく思えた。だが今は違う。まるで流れる川のように、止まることなく俺を運んでいく。


 実感はない。ただ、過ぎ去っていく。


 それでも俺は思う。


 何千年でも生きてやる、と。


 根拠はない。ただの願望だ。だがそう思っていると、本当にそんな気がしてくるから不思議なものだ。


 何千年も生きるつもりでいると、今日の小さな悩みなど、砂粒みたいなものに思えてくる。


 リンに臭いと言われた?


 だからなんだ。


 時間が早い?


 それがどうした。


 長く生きるつもりなら、いちいち一喜一憂していられない。


 悩む暇があるなら薪を割れ。憂う暇があるなら腹を満たせ。


 一日、飯を食って、働いて、眠る。


 それだけでも十分だ。


 それだけでも、人は幸せになれる。


 ……たぶん、な。


 まあ、結局何が言いたいかって?


 今日は村の少し先にある森まで歩こうと思う、というだけの話だ。


 理由なんて特にない。強いて言えば、川の流れを見ながら頭を空っぽにしたい気分になったからだ。


 俺は川のほとりに腰を下ろし、石を拾って水面に投げる。


 ぽちゃん。


 輪が広がる。


 その広がりをぼんやり眺めながら、俺はさっきから一人でぶつぶつ喋っていたらしい。


「……何千年か。はは、笑えるな」


 独り言は、川に吸い込まれていく。


 と、そのとき。


「ゲンの旦那ぁ」


 背後から間延びした声が飛んできた。


「誰に向けて川のほとりでベラベラ喋ってるんですか。精霊とでも会話してるんで?」


 振り返ると、見慣れたモヒカン頭が立っている。


 サブだ。


 無駄に体格がよく、無駄に声がでかく、無駄にモヒカンがある、そして無駄に愛嬌がある男だ。


「うるせぇな。考え事だ」


「考え事ぉ? 旦那が? 珍しいこって」


「殴るぞ」


「やめてくださいよぉ。せっかく散歩に誘ってくれたのに」


 サブは肩をすくめながら笑う。


 こいつは20代前半、モヒカンが鋭く尖ってるのが象徴的だ。そのモヒカンも昔から変わらない奴がそばにいると、時間が流れているのか止まっているのか、わからなくなる。


 ……それも悪くない。


「行くぞ」


「どこへ?」


「森だ。村の先のな」


「なんか出ますかねぇ」


「出たらお前が前だ」


「ひどいッス!」


 ぎゃあぎゃあ騒ぐサブを連れて、俺は歩き出す。


 森へ続く小道は、昼の光を受けて静かに揺れていた。

いつもお読みいただきありがとうございます。皆さまからのブックマークや高評価が、執筆の大きな励みになります。これからも楽しんでいただけるよう精一杯書いていきますので、引き続き応援よろしくお願いします!

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