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グリーン・インパクト  作者: 未来が見えない
序章 始まりの血脈

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第二十六話 不穏な気配

 エウロパとイオは笑っていた。その様子を見つめる三人がいる。ガニメデ、トリトン、ハウメアだ。彼らは訓練場を囲む観客席のベンチに腰を下ろしていた。


「アイツら、あんなに仲良かったか?」


 ガニメデは訝しげに目を細める。


「んーん、さあ。でも美しいですね。友情というものでしょうか」


 トリトンは、ガニメデのぼやきに淡々と応じた。


「はっ、何が友情だか。これから死ににいくかもしれねえってのに」


「まあ、あなたのその粗末な脳ミソでは、いくら考えたところで理解できないでしょうね」


 トリトンは青いロングヘアをかき上げ、芝居がかった仕草で言う。


「ああ? カマもやしが。ぶっ殺してやるからな」


「あははは。んーん、散々私にこっぴどくやられたのに、よく吠えますね。滑稽です」


「クソが、まだ本調子じゃねえんだよ!」


「はいはい、そこまでにしといて。二人とも彼女らを見習うことだね」


 ハウメアが割って入り、静止する。


「ハウメア、なぜこんな野蛮な猿と戦わせたのですか? 私はあなたと戦いたかった」


 トリトンの瞳が妖しく光る。


「言っただろう、これが最適解だ。あと、君は私と何度戦えば済むんだ。その度にやられているだろう? 戦闘馬鹿になっているのも分かるが、たまには違う相手と手合わせするといい。演算結果でも、今回の戦いは成長曲線に良い数値が出ている。それに君だって、ガニメデの右フック、かなり効いていたじゃないか」


「……んーん、まあ確かに、あれは本気を出すしかありませんでしたね。ただ、同じ手は食らいませんが」


「あ? そうかよ。もう一発食らっとくか? 俺は本気じゃなかったからな。次はそのウザってえ髪ごと氷漬けにしてやるよ」


「いくら吠えようが、叩きのめしても、その筋肉脳ではシワが足りなさすぎて覚えられませんか?」


「あ? 誰がシワだと!」


(ガニメデとトリトン、罵り合い中)


 ハウメアは深いため息をつき、こめかみを押さえる。仲裁に入ったはずなのに、状況はさらに悪化していた。戦略を得意とする彼でさえ、この二人の衝突は制御不能だった。


「…………」

「騒がしいな」


 治療を終えたエウロパとイオが観覧席へ戻ってくる。


「とりあえず一回戦は今日で終わりだ。明日は二回戦。トリトンとイオはしっかり備えろ」


「ああ、相手はトリトンだからな」


「んーん、イオとは久々ですねえ」


 トリトンはどこか楽しげだ。


「相変わらずお前は、ガニメデとは違う気持ち悪さがあるな」


「あんな野蛮なものと一緒にしないでください。私は純粋に戦闘を楽しんでいるだけです」


「はっ、そうかい」


 イオは手をひらひらと振り、颯爽と居住区へ向かって歩き去った。


 ◇ 


 ここ―― 連邦中央エネルギー(Eー)統合管理研究所(CTRL)


 特殊部隊、警備部隊、研究員、各関係者が働く巨大複合施設。居住区や商業施設、インフラまで完備された、ひとつの都市のような場所だ。


 他の四人も、それぞれ自室へと戻っていった。


 だが一人だけ、居住区とは逆方向へ足を向ける者がいた。


 ――ガニメデである。


 敗北の鬱憤を晴らすように、彼は歓楽街へ向かった。ホログラムの看板が乱立し、まるで新宿歌舞伎町のような煌びやかさが広がる街。欲望が霧のように漂い、人々はそれに絡め取られている。


挿絵(By みてみん)


 ガニメデが入ったのは、仮想擬似体験ができる店だった。


 受付のAIロボットと事務的なやり取りを済ませ、部屋を選ぶ。


「ベッドが広い部屋で……」


 相手のキャラクターメイク、性格設定、外見の微調整を終えて、指定した部屋へと赴く。


「これだよ、これ」


 ドアを開けた先にいたのは――メイド服姿のイオ。


 もちろん本物ではない。精巧に造られたアンドロイドだ。だが瓜二つだった。違いは、誇張された身体の曲線だけ。


「お帰りなさいませ、ご主人様」


 無機質な声。


 ガニメデは満足げに笑う。


 彼は衝動のままに触れ、人工皮膚の感触を確かめる。アンドロイドはプログラム通りの反応を返す。現実のイオが決して見せない表情と声音。


 やがて彼はベッドに倒れ込み、欲望を満たす。


 ――夜は、彼の妄想のためにあった。


 一仕事終えたかのように煙草をくわえ、天井を見つめる。


(任務に期限はなかったな……)


 思考が歪んでいく。


(俺一人で先に手柄を立てればいい。どうせ一回戦で負けたんだ。先に行って成果を持ち帰れば、あいつらより上だ。イオだって俺を見直す。そうだ……きっと惚れるに決まってる)


 彼は、イオが自分を心底嫌っていることに気づいていない。拒絶を、歪んだコミュニケーションだと誤認している。


 妄想は甘美な夢へと変わる。


 隣で横たわるイオそっくりのアンドロイド。その頭部を、彼は衝動的に鷲掴みにする。


 ――バキンッ。


 金属が砕ける鈍い音。


「クク……かははは……俺の時代が来るな、こりゃ」


 砕けた頭部を無造作に部屋の隅へ放り投げる。


「そうと決まれば、ラボだ」


 ガニメデは反重力駆動衣《Gスーツ》を着用し、夜の街へと飛び出していった。


 その背中には、焦燥と妄執だけが張り付いていた。

いつもお読みいただきありがとうございます。皆さまからのブックマークや高評価が、執筆の大きな励みになります。これからも楽しんでいただけるよう精一杯書いていきますので、引き続き応援よろしくお願いします!

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