表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グリーン・インパクト  作者: 未来が見えない
序章 始まりの血脈

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/52

第二十三話 ラウアの推し活

 Dr.Jこと博士は、光遡行α-A部隊(α-A部隊)の動向を、幾層にも展開された情報ウィンドウ越しに監視していた。


 空間を埋め尽くす半透明のホログラム。

 過去の戦闘ログ、演算予測モデル、脳波同期率、出力推移グラフ。

 それらが幾何学的に重なり合い、博士の義手がわずかに動くたび再構築される。


「ラウア君、彼らは模擬戦をやっているようだね」


 静かな声。

 だがその瞳は、未知のデータに出会った研究者特有の光を帯びている。


「はい、そのようですね……ガニメデの出力が想定値を上回っています。トリトンも即応補正を」


 ラウアは冷静に答える。

 デバイスの光が彼女の輪郭を青く縁取り、水色と白のグラデーションのセミショートが揺れる。

 理知的で近寄りがたい補佐官――それが普段の彼女だ。


 しかし。


 二人きりになると、空気は変質する。


「それでね、博士……あの、あのね……」


「なんだね?」


 視線はまだウィンドウに向けられている。


 ラウアは一歩近づく。


「頭を撫でて欲しいの……」


 沈黙。


 博士はパーマの髪をぼさぼさとかき、溜息を吐く。


「はあ……君って人は……」


 義手が高速でデータを処理し、不要なウィンドウが消えていく。

 そして空いた手が、彼女の頭にぽん、と置かれた。


 よしよし、と軽く撫でる。


 その瞬間。


(ハウ♡ドクター……私は幸せです♡

 エイジア学術論であなたを特集していたあの日から、

 私はずっとあなたを追いかけてきました……♡

 呆れた顔も最高です……推しに撫でられるなんて……あ゙あ゙幸せえ゙え゙え゙え゙♡)


 ラウアは必死に平静を保っている。

 だが内心は限界を突破していた。


「……これで満足かね?」


「はい……十分です……♡」


 声が少し震える。


 博士はそれ以上深く考えない。

 彼にとっては、優秀な部下への軽い労いに過ぎないのだ。


 ――シュイン。


 自動ドアが開く。


「な?え?」


 エネルギー管理課の一般研究員が固まった。


 目の前の光景。

 氷のように無表情なはずのラウアが、博士のすぐ傍らで目を細めている。


 世界のバグ。


「あ、えと、コホン。これは博士が私の戦闘データの読み取りを行っていたのですよ」


 一瞬で切り替わる。


 声は冷静、瞳は無機質。


 博士はわずかに困惑した。


「しかし、ラウア君……」


「そうですよね!博士!」


 圧。


 博士は観念する。


「ああ、そうだ。先程、ガニメデとトリトンの模擬戦で興味深いデータが取れた。

 実に良い日だ。ラウア君の補助が必要だったのだよ」


 研究員は数秒考え、やがて納得したように頷いた。


「なるほど……博士に報告があります。瞬間積層技術のデバイス組み込みが完了しました。

 これで周囲の元素情報を解析し、必要物質を再構成できます」


 空気が変わる。


 博士の目が鋭くなる。


「ついに完成したか……これで向こうの時代でも彼らのライフライン構築が可能になる、自給自足も理論上成立するって訳だ。」


 未来は莫大なエネルギー不足、永続的なデータの保存に悩む。

 だからこそ、過去へ遡る。この計画は、人類存続の最後の選択肢だ。


 研究員が去り、再び静寂。


「すみません、話を合わせてもらって」


 ラウアは素直に言う。


「まあ、君が私を尊敬しているのは分かるがね。私はデータにしか興味が沸かないからなあ」


 博士は再びウィンドウを展開する。


 ラウアは微笑む。


「それでも、いいんです。博士がデータを見ている横顔が好きですから……♡」


 博士は聞いていない。


「お、ラウア君見たまえ。イオとエウロパだぞ!

 この二人が模擬戦をするのは初めてだ。相関演算が大きく変わる可能性がある。

 良い、実に良い日だ」


 少年のように目を輝かせる。


(ハアア♡目を輝かせてる博士かわいい♡

 ああ、やっぱり私はこの人が好き……♡)


 ラウアは胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じながら、

 同じウィンドウを見つめた。


 推しの隣で、未来を覗き込む。


 それだけで――


 今日は、彼女にとっても、実に()()()だったのだ 。

いつもお読みいただきありがとうございます。皆さまからのブックマークや高評価が、執筆の大きな励みになります。これからも楽しんでいただけるよう精一杯書いていきますので、引き続き応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ