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グリーン・インパクト  作者: 未来が見えない
序章 始まりの血脈

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第二十話 模擬戦トーナメント

 休息を終えた翌日――部隊は模擬訓練場へと足を踏み入れた。


 強化ガラスで構成された巨大なドーム。外光を鈍く反射するその建造物は、まるで惑星標本のように孤立して佇んでいる。内部は白く無機質。しかし床下には無数の光導ラインが走り、淡い青の脈動が規則正しく明滅していた。


 ここでは、あらゆる戦闘環境を再現できる。


 仮想空間戦闘シミュレーター。山岳、都市廃墟、深海、真空、重力変動区域――地形も気候も、物理法則さえも書き換え可能だ。装着者の神経接続デバイスが脳波を読み取り、視覚・聴覚・触覚へと直接信号を送り込む。


 受けるダメージは物理的損傷ではない。だが痛覚信号は現実と区別がつかない精度で再現される。脳に「傷ついた」と誤認させることで、極限状態での精神耐性を鍛える仕組みだ。


 要するに――

 自分自身と酷似したアバターで、本気の殺し合いを体験できる。


 ハウメアは片目に展開された情報ウィンドウを流し見ながら、組み合わせの最適解を弾き出していた。視線の動きに連動して数式が走り、勝率予測、成長曲線、心理負荷、戦闘傾向が幾重にもレイヤー表示される。


 格上との衝突による覚醒。

 拮抗戦による技術洗練。

 敗北経験による精神補正。


 あらゆる変数を統合し、未来予測を何千回と回す。


「――なるほどな。悪くない」


 ハウメアは静かに笑った。


「今回はトーナメント形式だ。敗北者から順に前線へ投入する。一人ずつになるが、逃げ場はないぞ」


 片目のウィンドウを指先で摘まむようにして外す。次の瞬間、それは映画館のスクリーンほどの大きさに拡張され、隊員たちの前へと投影された。


「先遣隊は五名。うち一名はシード枠。正直、ここが一番悩んだ。シミュレートした結果――これが最適解だ。異論は認めない」


 表示された名前。


 ガニメデ vs トリトン

 イオ vs エウロパ

 シード――ハウメア


 一瞬の沈黙が落ちる。


「チッ……」


 舌打ちを鳴らしたのはガニメデだった。肩を鳴らしながらスクリーンを睨みつける。


「イオの泣き顔を見るつもりだったんだがな。まさかトリトンとかよ」


 その視線の先。赤目の金髪ショート――イオが、冷え切った目で見返す。


「ゲスが」


 低く、感情のない一言。


 隣で、青いロングヘアを右へ流した中性的な青年――コードネーム、トリトンが、わざとらしく鼻を摘んだ。


「困ったなあ。臭気がこちらまで漂ってくる。精神衛生上よろしくないね」


「このオカマ野郎……!」


 ガニメデの額に血管が浮き上がる。


「お前とだけはやりたくなかったんだよ。気色悪ぃ」


 空気が軋む。


 次の瞬間には斬り合いが始まりそうな緊張が、ドーム内部を満たした。


 そのやり取りを、少し離れた位置から眺めている小柄な影がある。


 コードネーム――エウロパ。


 猫耳フード付きの反重力駆動衣(Gスーツ)を纏った、前髪ぱっつんの無表情な少女。重力制御フィールドの微振動が衣服の縁をかすかに揺らしている。


「……」


 彼女は何も言わない。


 視線はスクリーンを通り越し、どこか遠くを見つめている。


 ハウメアが歩み寄った。


「エウロパ。お前はなぜ志願した?」


 低く、しかし威圧を含まない声。


「その年齢で、ここに立つ必要はなかったはずだ。志があるのか?」


「…………」


 無言。


 瞬き一つせず、感情の揺れも見せない。


 だがその瞬間、彼女の周囲の重力場がわずかに歪んだ。床の光導ラインが一瞬だけ乱れる。


 ――抑えている。


 何かを。


 その時だった。


 天井から無数の光粒子が降り注ぎ、中央空間へ収束する。デジタルノイズを伴い、半透明の人型が形成された。


『レディース・アンド・ジェントルメン!』


『可愛いあの子も、カッコいい君も、みんな大好きトオォーナメントォ!!』



 過剰なテンションの音声が響く。


 カラフルな幾何学模様を纏った擬似人格体――トーナメント進行AIが出現した。


『本日のメインイベント! 勝者には栄誉を! 敗者には地獄の追加訓練を!』


「おい、結局追い込むのかよ!」


 ガニメデが吠える。坊主頭に血管が浮き上がる。


 床が発光し、フィールド生成が開始される。


 空間が歪む。


 重力が反転し、水平線が捻じ曲がる。観客席代わりの防護壁が上昇し、ドーム内部は瞬時に戦場へと書き換えられていった。


『第一試合――ガニメデ vs トリトン! フィールド設定:重力変動型廃都市!』


 瓦礫と化した高層ビル群が出現する。


 空は紫色に染まり、浮遊する破片がゆっくりと回転している。上下の概念が曖昧に揺らぐ世界。


 ガニメデが拳を鳴らす。


「いいぜ。ぶっ壊してやる」


 トリトンは微笑む。


「乱暴だね。でも――嫌いじゃない」


 二人の身体が光に包まれ、仮想世界へと転送された。


 残されたハウメアは腕を組む。


「見せてみろ……お前たちの現在地を」


 戦闘開始カウントダウンが鳴り響く。


 5

 4

 3

 2

 1――


 重力が崩れ、戦火が弾けた。

いつもお読みいただきありがとうございます。皆さまからのブックマークや高評価が、執筆の大きな励みになります。これからも楽しんでいただけるよう精一杯書いていきますので、引き続き応援よろしくお願いします!

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