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グリーン・インパクト  作者: 未来が見えない
序章 始まりの血脈

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第十九話 先遣隊

 Doctor.J――通称、博士の話は、いつものように終わる気配を見せなかった。


 広大な研究施設の中央ホール。

 無機質な白壁に囲まれた空間で、博士の声だけが幾重にも反響している。


 誰一人として口を挟まない。

 そこに立つ者たちは皆、無表情のまま直立し、ただ言葉を受け止めていた。


 沈黙を破ったのは、助手のラウアだった。


「そろそろブレイクを取られてはいかがですか。話し始めてから三時間二十七分が経過しています。ドクターのお身体が心配です」


 淡々とした声音。しかし、その瞳にはわずかな気遣いが宿っている。


 長時間の講義には慣れている。

 だが、以前、話し過ぎて喉を潰し、咳き込みながら倒れたことがあった。

 あの時、医療班が駆け込むまで誰も動けなかったのだ。


 博士は軽く顎に手をやり、満足げに息を吐く。


「ふむ……時間を忘れていたか。さすがの私も脳を酷使し過ぎたようだ。ブレイクとしよう。諸君、持ち場へ戻りたまえ」


 指先が宙をなぞる。

 空間に幾層にも展開されていた情報ウィンドウが、粒子となって分解し、静かに消えた。


 α―A部隊は一糸乱れぬ敬礼を行い、研究施設を後にする。


 外気に触れた瞬間、数名が深く息を吸った。

 張り詰めていた神経が、わずかに緩む。


 その空気を乱したのは、低く荒い声だった。


「ったく……あの博士、宇宙の始まりから語らねぇと気が済まねぇのか? 任務説明だろ、今日の。俺らは講義受けに来たんじゃねぇ」


 水色の坊主頭、巨躯の男。

 コードネーム――ガニメデ。


「起源がどうとか、原初生命がどうとか……で、結局“危険です”で終わりかよ」


 彼は肩を鳴らしながら吐き捨てる。


 そして、にやりと笑った。


「まあ、退屈凌ぎはあったけどな。あの助手――ラウア。あの無表情であの胸は反則だろ」


「本当に反吐が出るな」


 冷たい声が刺す。


 金髪ショート、紅い瞳の女。

 コードネーム――イオ。


「脳まで筋肉で出来ている貴様に、彼女の価値は理解できまい」


 ガニメデは鼻で笑う。


「価値? ああ、あるだろ。視覚的価値がな」


 わざとらしく両手を広げる。


「お前は胸はねぇが……」


 視線が下に滑る。


「尻は悪くねぇ。叩けば良い音がしそうだ」


 空気が凍る。


 イオの紅い瞳が、ゆっくりと細められた。


「今この場で、貴様の脊椎を一節ずつ引き抜いてやろうか? 神経を残したまま宇宙空間に放り出せば、貴様の悲鳴は真空で永久保存されるぞ」


「はっ……物騒だな。黙ってりゃ可愛い顔してんのによ。少しは愛嬌持てよ」


「貴様に向ける愛嬌など、細菌一匹分も持ち合わせていない」


 殺気が膨れ上がる、その瞬間。


「そこまでにしておけ」


 低く、重い声。


 二人の間に立ったのは、年長の男。

 コードネーム――ハウメア。


 鋭い目。無駄のない体躯。

 右目には半透明の情報ウィンドウが静かに展開され、戦術データが流れている。


 知性と実戦経験の両方を備えた、隊の要。


「ここは戦場ではない。だが、もうすぐ戦場になる」


 二人の視線が集まる。


「今回の任務は遊びではない。我々は先遣隊だ。本隊到着までの生存確率は20パーセント」


 ガニメデの笑みが薄れる。


「……半分以下か」


「ああ。帰還保証はない。この星に骨を埋める覚悟を持て」


 一瞬、静寂。


「だが報酬は破格だ。任務開始と同時に手付金が振り込まれる。成功すれば、生涯遊んで暮らせる額だ」


 ガニメデの口角がわずかに上がる。


「……激ヤバだが、夢はあるってわけか」


 イオが腕を組む。


「夢で死ぬのは御免だな」


 ハウメアは部隊をゆっくりと見渡す。


「だから明日模擬戦を行う。実戦強度でだ。手加減はしない。神経を緩めたまま降下すれば、三秒で死ぬ」


「三秒か」


「長く見積もった」


 その言葉で、空気が完全に変わった。


 遊びは終わり。

 彼らは戦闘部隊だ。


 遠くで、研究施設の巨大扉が閉じる重い音が響く。


いつもお読みいただきありがとうございます。皆さまからのブックマークや高評価が、執筆の大きな励みになります。これからも楽しんでいただけるよう精一杯書いていきますので、引き続き応援よろしくお願いします!

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