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グリーン・インパクト  作者: 未来が見えない
序章 始まりの血脈

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第十八話 Doctor.J

 ーーそして、中生代(約2億年前)から未来へ。


「博士、本当にあの部隊を出動させるのですか?」


 そう問いかけたラウアは、反重力駆動衣(Gスーツ)を身に纏っていた。

 全身は装甲で保護されているが、頭部のみは露出しており、端正な目鼻立ちがはっきりと見える。髪は頭頂が淡い水色、毛先に向かって白へと溶けるようなグラデーション。上半身の装甲は胸元がV字に開いた構造となっており、機能性の中に妖艶さを帯びたデザインだった。


「ああ、もちろんだよ、ラウア君」


 Dr.Jこと博士はそう言って、愉快そうに口角を上げた。


光遡行α-A部隊(αーA部隊)には、“アレ”を回収してもらわねばならない。あれさえ手に入れば、我が国は救われる。やがては――このエイジア連邦国が、世界そのものを掌握することも可能になるだろう」


 博士は、緩くパーマのかかった長髪を揺らしながら、視界に浮かぶホログラムを操作していた。右腕は精巧なメカニクス義手で、指先の動きに合わせて情報ウィンドウが展開される。


 彼は空中から小型デバイスを取り出し、軽く放った。

 そのデバイスは重力に逆らうように浮遊し、滑るようにラウアの前へと届く。


「博士……これは?」


「回収装置だ。空間収納技術が施されている。ただし、使用は一度きり。保管する対象は慎重に選びたまえ」


 彼は肩をすくめる。


「もっとも、私はあまり期待していないがね。どうせ、回収対象は塵と化している可能性の方が高い」


 デバイスは黒を基調とし、赤いラインが脈動するように光っていた。

 だが博士は、それ以上の価値があるとでも言うように、両手を広げ語り始める。


「それよりもだ。私はこの惑星を“希望の星”へと変えられると確信している」


「ラウア君、“エネルギー記録装置”という概念を知っているかね?

 それは物質ではなく、量子場の揺らぎそのものに情報を刻み、エネルギーとして保存する装置だ。文明、環境、歴史――無限とも言える情報をだ」


 彼は愉快そうに笑った。


「エネルギーは劣化しない。時間にも縛られない。理論上は完璧だ。

 ……もっとも、現代の科学技術では実現不可能だがね」


 ラウアは無表情のまま、彼の言葉を受け止めている。


「そこでだ。この情報エネルギーコア(IEコア)だが――これはあくまで“貯蔵庫”に過ぎない。情報を保管することはできても、処理には別の機構と莫大なエネルギーを要する。コストばかりが膨れ上がり、研究は何度も頓挫した」


 彼は一瞬、遠い目をした。


「この惑星で生まれ、蓄積されてきた膨大な情報を、簡易かつ低コストで保存する方法など存在しない……そう思っていた。だが、ある時、気づいたのだよ」


 博士は、指を一本立てる。


「最も長く、最も安定して情報を保存してきた存在――それは“生命”そのものではないか、とな」


 彼の語りは止まらない。


「遥か昔、恐竜が支配していた時代。巨大隕石が地球に落下し、彼らは滅んだ。

 その後、人類が進化の果てに誕生した……と、一般にはそう考えられている」


「だが私は違う見解を持っている。人類は、隕石衝突以前から存在していた。しかも、我々を遥かに凌駕する形で、だ」


 彼はホログラムを操作した。


(黒いホログラムが展開される)


 それはやがて、炭化した黒い球体へと変化する。


「これは、海底一万一千メートルで発見された物体だ。用途は不明。しかし、成分分析、AIモジュール測定、あらゆる解析の結果――私は確信した」


「これは生体核(バイオコア)だ。我々が知る生体エネルギーと同系統の力を用いている」


 彼は高揚した声で続ける。


「構造は我々のコアと似ているが、それは進化の収斂に過ぎない。ははは……驚いたよ。しかし、いくら解析しても“表層”しか読み取れない。内部へアクセスするための鍵が存在するのだろう」


「それがDNAなのか、あるいは別の何かなのか――まだ分からない。さらなる解析が必要だ」


 彼はふっと笑った。


「もっとも、彼らは既に滅び去っている。文明の記録も、歴史も、今は深海の底だ。

 生体技術という異なる進化の道を選んだがゆえに、隕石という理不尽に敗れた……皮肉な話だ」


「だが時代は巡る。深海探査が容易となった今、このコアは再び日の目を見る。これも必然なのかもしれないな」


「そして残念ながら――我々は、その“系譜”(けいふ)ではない」


 一拍置いて、彼は不敵に笑う。


「だが、希望はある。極秘裏に開発してきた“光遡行システム”が、ついに完成したのだ」


光遡行空間移動装置(タイムマシン)――長い年月、代々受け継がれてきた叡智の結晶だ」


「ふはははははは! 今日は実に良い日だ!」


光遡行α-A部隊(αーA部隊)には期待している。回収が叶わずとも、君たちには果たすべき“役目”がある。――決して忘れるな」


(ハッ!)


 反重力駆動衣(Gスーツ)にさらなる強化を施した、黒い装甲と多重デバイスを備える兵士たちが、一斉に敬礼した。


いつもお読みいただきありがとうございます。皆さまからのブックマークや高評価が、執筆の大きな励みになります。これからも楽しんでいただけるよう精一杯書いていきますので、引き続き応援よろしくお願いします!

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