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グリーン・インパクト  作者: 未来が見えない
序章 始まりの血脈

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第十六話 食糧問題ー5

 地上に降り立ったソウは、浮かない顔をしていた。

 ゲンに追いつけると思った矢先、さらに大きな力の差を見せつけられたからだ。


 トボトボと重い足取りで、村人たちが安息している場所へ向かう。


「ソウ、無事だったのね!」


 真っ先に声をかけてきたのは、意外にもレイだった。

 茶色いポニーテールが揺れ、近づくにつれて甘酸っぱい香りが漂ってくる。


 しかしソウは、その心配に素直に応える気にはなれず、冷えた態度を取ってしまった。


「悪い。今は、そんな気分じゃないんだ」

「何よ、それ。せっかく心配してあげてるのに、その反応はないでしょ?それに、敵だってあんたのお父さんが倒したじゃ――」


(ザッ)


 ソウは、まるで何も聞こえていないかのように踵を返し、その場を離れていく。


(何よ、あの態度……。あの時、私を庇うように前に出て止めてくれたあなたは、偽物だっていうの?私は、何もできない自分が嫌いだから……。それに、ありがとうのお礼だって、今のあんたじゃ聞いてくれそうにないし……私だって、変に借りを作るのは嫌なのに……)


 レイは、知らず知らずのうちにソウを意識し始めていた。

 顎虫蛇(アギトスネーク)にやられそうになった時、本当は震えていたこと。痩せ我慢で、必死に戦っていたこと。


 そして何より――

 レイ自身がまだ誰にも打ち明けていない“形態変化”のことを、ソウは密かに知っていて、身を案じてくれた。


 その優しさに、心から感謝したかった。だが、勝気な彼女は、そんな振る舞いをしたことがない。するつもりもなかった。


 そのチグハグさが、レイの胸を静かに揺さぶっていた。


「よーう、お前ら、集まったな!

 こいつも解体して運ぶぞ。肉質は柔らかそうだし、脂身もある。

 干し肉にして備蓄するにも、重宝しそうだ。

 この顎は……さすがに食えなさそうだがな。

 とりあえず、村への手土産は十分だ。やったな!」


(村人たちの歓声)


 想定外の食糧の増加に、皆が沸き立っていた。

 サブやラルクも肩を組み、歓喜の声を上げている。


 その横で、ゲンは顎虫蛇(アギトスネーク)を、慣れた手つきで捌いていた。


「ゲンの旦那、早速ッスね」


 横からサブが割り込むように覗き込んできたが、ゲンは気にも留めず刃を進める。

 肉厚な蛇肉は、筋肉質な部分と脂身がはっきり分かれ、美味そうに光っていた。


 そこへ、ラルクも手伝いにやってくる。


「ゲンさん、手伝いますよ。

 さっきの、凄かったですね。あれは……形態変化ですか?

 それと、ソウの様子が、ちょっと変で……」


 ゲンは、捌いていた刃物を一度置いた。


「あれは、“御身を宿す儀式”を行った者にしか出来ん。

 我ら一族の祖先と繋がるための儀式だ。

 そして――“彼女”の声を聞くことが、前提条件になる」


 低く、淡々と語る。


「それがなければ、力を引き出そうにも制限がかかる。

 ……枷のようにな。俺は、その儀式に成功した唯一の人間だ。少なくとも、彼女からはそう聞いている」


 一瞬、言葉を切り、続ける。


「ソウのことだが……あいつは、俺を越えたいんだろう。だがな、易々と越えさせるつもりはない。この壁は……」


 ソウの名が出た瞬間、ゲンは首飾りを握り締めた。

 そこには、誰かを想うような、複雑な表情が浮かんでいた。


「……ええ、そんな儀式があるなんて。ゲンさん、あんた、凄すぎますよ」


 ラルクは素直に感嘆する。


「ソウのことも、なんとなく分かってましたけど……

 ゲンさん、あんたも、もう少し気にかけてやってくださいよ。あいつ、まだ子供なんですから」


「ふっ……そうだな。

 まぁ、お前も俺から見れば、まだ子供だがな」


 ラルクは、苦笑した。


「祖先って、声が聞こえるんスか?

 それ、普通の形態変化と違うんスね。

 立ちくらみ……みたいなのはありましたけど」


 サブは、いかにも間の抜けた顔で首を傾げる。


「それは、共鳴しているだけだ。

 完全には使いこなせていない。

 言ってみりゃ……その立ちくらみこそが、枷だな」


「なるほどっス」


 サブは、分かったような分からないような顔で頷いた。


 やがて村人たちは、それぞれ捌いた食糧を持って集まってくる。

 その中に、レイとソウの姿もあった。


「よし。今度こそ、村に帰るぞ」


 一行は、シクティスと顎虫蛇(アギトスネーク)の肉を手押し車に積み、帰路についた。


◇ 


 ――村へ到着。


「お主ら、無事じゃったか!」


 ヤンガは、出立した狩猟班の帰還を心配して待っていた。


「爺さん、みんな無事だ!それに……これを見てくれ!」


 そこには、これまでに狩ったシクティスと、山のように積まれた蛇肉があった。


「なんじゃああああ、これはあああ!」


 あまりの量に、ヤンガは驚愕し、膝はワナワナ、腰はガクガクと震え、今にも倒れそうになる。


「っと、爺さん。驚くのも無理はないな。

 ……はぁ、ヤンにも、この光景を見せてやりたかった」


 ラルクは、しみじみと呟いた。


「じゃあ、今日は宴ッスね!」


 サブはノリノリで踊り出す。

 それを見たレイは、


(こんなのが親代わりなんて……馬鹿みたい)


 と、冷ややかな視線を向けていた。


 その一方で――ソウは、まだ答えの出ない問いを、ずっと頭の中で繰り返していた。


 なぜ、自分はゲンに勝てないのか。


いつもお読みいただきありがとうございます。皆さまからのブックマークや高評価が、執筆の大きな励みになります。これからも楽しんでいただけるよう精一杯書いていきますので、引き続き応援よろしくお願いします!

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