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グリーン・インパクト  作者: 未来が見えない
序章 始まりの血脈

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第十四話 食糧問題ー3

  ――ゲンは高らかに笑っていた。


「大丈夫なんじゃろうな、ゲンよ……。」


 ヤンガは腕を組み、深い皺を刻んだ顔でそう言った。

 これまでに失ったものが多すぎたヤンガは、村長であるその責任を自分が背負っていると感じていた。


「爺さん、大丈夫だ。今回の狩は、なにも怪物を狩ろうってわけじゃあねえ。でかい魚さ。」


「お主のう……。まあ、お主が出来ると言うなら信じておるが、一人でも欠けたら――。」


 ヤンガはゲンを睨みつける。


「――わしは、お前を許さんぞ。」


「わかってる。」


 ゲンは真っ直ぐに目を返した。


「爺さん、それは俺の命を賭けて……いや、必ず全員守る。」


 その言葉に、ヤンガは小さく鼻を鳴らしただけで、それ以上は何も言わなかった。


 ◇ 


 集まった村人たちは、北東の水源地近くで野営をしていた――。


 前回のバガール討伐に出た狩猟班とは違い、今回は経験値にばらつきのある構成だった。

 だが、人数が少ない分、動きは軽い。


 ゲンは先頭に立ち、地形を見極めながら進軍する。


「大型の痕跡あり。右に回れ。」

「足元、落ち葉の下は湿地だ。踏み込むな。」


 その的確な指示に、村人たちは無駄な混乱もなく従っていた。


「しっかし、ゲンの旦那は指揮が上手いっすね。」


 サブが感心したように言う。


「途中で装岩虫(ダンガンムシ)の群れが出た時は、もう終わったかと思ったっす。でも一瞬で陣形を組み直して……最後は旦那が形態変化で一刀両断。あんな硬いの、ゲンさんしか切れませんっす。」


「褒めても何も出ねえぞ。」


 ゲンは肩をすくめた。


 その後、一行は水源地へと辿り着く。


 幅広の川。流れは緩やかだが、ところどころ水面が不自然に揺れている。


「……いるな。」


 ゲンが低く言った。


「シクティスだ。群れで来る。」


 作戦の確認が行われる。


 両岸に村人たちが伏せ、ツルで織り込んだ網や、形態変化で作った銛状の武器を構える。

 そして――。


「ソウ!!」


「……わかってるよ。」


 ソウは一歩前に出た。身体を変化させるよう、頭の中で強く思考する。


(宿れ、フライバエ……。)


 次の瞬間、体が軽くなり、背中から羽音が広がる。

 フライバエへの形態変化。


 ソウは低空を飛び、川の中央へ向かう。

 あえて高度を落とし、片脚を水面へと浸した。


(来い……。)


 水中に影が走る。


 次の瞬間、水面が爆ぜた。


 巨大な魚影が跳ね上がり、鋭い歯が脚へ迫る。


「――っ!」


 ソウはギリギリで脚を引き抜き、空へ跳ねた。


「今だァ!!」


 ゲンの号令と同時に、村人たちが一斉に飛び出す。

 網が投げられ、銛が突き立ち、数匹のシクティスが岸へと引きずり上げられた。


「やったわ!」

「よっしゃあ!」

「捕れたぞ!」


 水源地に歓声が上がる。


 ソウは荒い息を吐きながら着地した。


(……模擬戦、ね。)


 脚が、まだわずかに震えていた。


 ◇ 


 十分な量を確保し、一行は帰路についた。


 だが――森に入って間もなく、ゲンが足を止める。


「……止まれ。」


 空気が変わった。


 地を這う、粘つくような音。

 枝が、何かに噛み砕かれる鈍い響き。


 茂みが大きく揺れ、その先――

 大木にとぐろを巻くように、異形が姿を現した。


 巨大な顎を持つ、規格外の蛇。

 紅い目。節足のような外殻に覆われながら、所々に蛇のような肉質を覗かせている。


 顎虫蛇(アギトスネーク)


「……経験者は?」


 ゲンの問いに、誰も答えなかった。


 サブが唾を飲み込む。


「……見たこともないっす。戦ったのは、もちろん初めてっす。」


 ソウは拳を握りしめた。


(帰り道が、本番かよ……。)


 顎虫蛇(アギトスネーク)が、ゆっくりと顎を開く。


 森が、静まり返った。


 赤い目が、一行を舐めるように見渡す。

 巨大な顎が擦れ合い、湿った音が空気を震わせた。


「……距離を取れ。」


 ゲンが低く言う。


「囲まれるな。無理に攻めるな。経験の浅い者は下がれ。」


 ゲンに呼応し、ラルクが村人全員に聞こえるよう声を張り上げる。


「各自、隊列を維持しろ! 勝手に動くな!」


 だが――。


「……チッ。」


 一歩、前に出た影があった。


 レイだ。


「ッッス、待――。」


 サブの声を背に、レイは前へ出る。


「いつまでも、守られてるだけだと思わないで。」


 低く、噛みつくように言った。


「シクティスの囮だって、危険だったでしょ。だったら――。」


 レイは深く息を吸い、己の腕を睨む。


「……宿れ。」


 その瞬間、レイの腕に異変が起きた。


 皮膚の上を這うように、虫の外殻が浮かび上がる。

 肘から先が、刃のように鋭利な形状へと変化していく。


 刃虫(ハムシ)――

 金属光沢を帯びた、生きた刃。


「……っ。」


 だが、変化は不完全だった。

 刃は形成されたものの、動きが鈍い。


「まだ……馴染みきってない……!」


 その隙を、顎虫蛇(アギトスネーク)は逃さなかった。


 地を滑るように距離を詰め、顎を大きく開く。


「レイ!!」


 次の瞬間――。


 羽音が、森を切り裂いた。


「――どけ!!」


 ソウだった。


 フライバエの形態変化で一気に間合いへ飛び込み、

 レイの前へと割り込む。


 顎が空を噛み、地面を抉る。


「なっ……!?」


 レイの目が見開かれる。


「無茶すんな! 形態変化はできても――慣れてねえだろ!」


 ソウは叫ぶ。


 以前、自分自身も形態変化に悩まされていた。

 そして、野営中にレイが黙々と練習していたことも、ソウは知っていた。


「できるかどうかは、生き延びてからだ!」


 顎虫蛇(アギトスネーク)が標的を変え、ソウへと向き直る。


 レイは一瞬、唇を噛みしめ――

 刃虫(ハムシ)の腕を、強く握った。


「……借り、作っただけだから。」


 悔しそうに、しかしはっきりと言う。


「次は、私も前に出る。ちゃんと“使える”状態で。」


 ソウは一瞬だけ振り返り、ニッと笑った。


「その時は、背中任せる。」


 ゲンが、静かに形態変化し、分厚い装甲の大剣を構え、ラルクは漆黒の鋏腕を前に突き立てる。


「――よし。お前ら連携を取るぞ。後衛は任しとけ。」


 顎虫蛇(アギトスネーク)が咆哮を上げ、森が震えた。


 戦いは、今まさに始まろうとしていた。


いつもお読みいただきありがとうございます。皆さまからのブックマークや高評価が、執筆の大きな励みになります。これからも楽しんでいただけるよう精一杯書いていきますので、引き続き応援よろしくお願いします!

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