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魔力ゼロで追放されましたが、氷の魔法士から寵愛をゲットしました。  作者: あけはる


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前編

 王立学院の大広間で、私――エリーザ・エヴァンスは一人立っていた。


「エリーザ・エヴァンス。貴様との婚約は、本日をもって破棄する!」


 そう嬉々として宣言したのはアレクセイ・スミルノフ。

 スミルノフ王国の第一王子である。

 王族席から、不遜な態度でエリーザを見下ろしている。


 エリーザはここで来たかとある意味、諦めに似たため息をついた

 理由は、今さら聞くまでもない。


 魔力測定結果、ゼロ。

 

 眠る間も惜しんで勉学に励み成果を出しても、どれだけ王子妃教育で評価を得ても。

 結局、魔力が無い貴族なんて価値がない。


 ただそれだけのことだった。


「魔力を持たぬ女など、王家の恥だ!」


 大広間に集まった貴族の誰かが、くすりと笑う。

 たくさんの視線が、私の身体を値踏みするように滑り、あちこちから嘲笑が聞こえ始める。


(……やっぱり、報われなかった)


 胸の奥が、すうっと冷える。

 驚きはなかった。

 期待すること自体、無駄だと心の奥では気づいていた。


 私は、生まれた家でも同じ扱い。

 0歳の時の魔力測定で、”ゼロ”をたたき出した。

 エヴァンス侯爵家の長女として、蝶よ花よと育てられていた日々は、その日を境に暗転した


 エリーザも最初は、わが身に怒ったことが信じられず、魔力が宿るように毎日欠かさず教会に通って祈り、王立図書館で調べつくした魔力が増強されるという方法を見つけた限り全て、やった。

 そして1年後に迎えた再測定。


 測定器に示されたのは無情にも、”0”。


 努力しても、祈っても、結果は変わらなかった。

 両親の期待はすぐに妹アリョーシャに移り、一方でエリーザは冷遇されるようになった。


 そんな中、17になるこの歳まで第一王子であるアレクセイと婚約を続けられたのは、おそらく、

 妹アリョーシャが婚約できる年齢、つまり13歳になるのを両親が待っていたからだ。


 後日、アリョーシャとの婚約が発表されるのだろう。

 先日もエヴァンス侯爵邸にアレクセイがお忍びで来ていたのを見かけたし、アリョーシャと連れ立って庭を散歩していたのも見た。


 夜、帰宅したエリーザに、


「家名に泥を塗る娘はエヴァンス侯爵家には必要ない、出ていけ」


 侯爵家当主である父はそう言って、私を、勘当した。

 妹が適齢になった今、もう”代役”は必要ないのだ。

 だが婚約破棄された長女がいるのに、次女の婚約を進めるのは世間体が悪い。

 

 体の良い追放。

 家が何より大事な両親は、長女を切り捨てることを選んだのだ。


 もう、私を守るものは、何もない。


 大広間の去り際、誰かに言われた

「無魔力令嬢」

 その言葉が、エリーザの胸を静かにえぐる。

 父の判断に抵抗する気力すら、残っていなかった。


 ――――こうして私は、辺境へ、ある貴族の妻として、送られることになった。


◇ ◇ ◇


 辺境。

 氷と静寂に閉ざされた王国北方の地。


 そこに建つのが、通称”氷の魔法公”アルヴィス・シュヴァリエ公爵の屋敷だった。


 シュヴァリエ公爵家の当主であるアルヴィスは、王国随一の魔力量を持つ優秀な魔導士。

 

 だが、

 王都から遠く離れた北の地に、半ば厄介払いのように押し込められている。


(……疎まれたと、聞いたわ)


 馬車の中で、以前学院で聞いた噂を、思い出す。


 銀髪にアイスブルーの切れ長の目がたいそう美しく、すらりと長い手足が映え、

 数々のご令嬢の熱い視線を独り占めした社交界でも評判の美丈夫。


 一方で、制御できないほどの膨大な魔力に悩まされ、

 アルヴィスは幼い頃から度々暴発を起こしていた。


 北の辺境に追いやられることになったのには決定的な出来事があった。


 ある時王都で開催された王妃主催のパーティーにて、多くの貴婦人や令嬢に付きまとわれたアルヴィス少年は、暴発を起こしてしまったのだ。

 王家専属の優秀な魔法士が何人も急いで駆け付けたが、アルヴィスの魔力は強すぎた。

 抑え込むのに数時間もかかった上、会場は損壊し散々な状態となった。


 その場に参加していた貴族から、瞬く間に噂が広がった。


 アルヴィスは、王族をも凌ぐのでは―――

 そう囁かれるようになるのは必然だった。


 だから、遠ざけられた。

 先代のシュヴァリエ公爵は北の寒さで持病が悪化し早逝、公爵夫人も後を追うように亡くなり、

 アルヴィスは若干20歳で公爵家当主となった。


 強靭な精神力と、重ねた厳しい鍛錬のおかげか現在は暴発はかなり少なくなっているというが、

 重要行事以外は王都に出て来ないアルヴィスの情報は少なく、エリーザには真相はわからない。


 雪が静かに降り続けている。


 (・・・これからここで暮らすのね、シュヴァリエ公爵の妻として)


 堅牢な城門をくぐり抜け、石造りの広い玄関前に留まった馬車をおりる。

 

 迎えに現れたアルヴィスは、噂どおり感情のない瞳をしていた。


 「君が、追放された令嬢か」

 

 低い声の問いかけに、背筋が、自然と伸びる。


 (・・・取り繕う必要なんてないわ)


 「……はい」


 短く答える私を、彼は一瞥した。


 そこに、興味はない。

 同情も、憐れみも。


 淡々と低く冷えた声が落ちる。


「俺は不要なものは嫌いだ」


 胸が、きゅっと締め付けられる。


(……ここでも、同じ)


 役に立たなければ、居場所はない。

 分かっていたはずなのに、ほんの少しだけ――期待していた自分が、情けなかった。


「使えるかどうかは、()()()()判断する」


 それだけ言って、彼は背を向けた。


 冷たいけれどなぜか――――

 エリーザの胸には少しの安堵があった。



 その夜。

 突然、屋敷の空気が、音を立てて軋んだ。

 屋敷の外壁に張りついた氷が、ぱきり、と大きな音を立てて割れる。


 息を吸うだけで、肺が痛むほどの冷気がエリーザの部屋に入り込む。


(まさか・・・!)


 魔力暴走。

 当主を継いでからはおきていないと、昼間に侍女から聞いていたが―――


 使用人たちの足音が、慌ただしく遠ざかる。


 私は、まさかの事態に動けずに立ち尽くした。


 (怖い―――)

 

 王都の建物を損壊させるほどの魔力。

 子どもの頃でそれなのだから、大人になった今、暴発したのなら―――

 身体が、震えそうになる。


 それでも――

 

 状況を確かめようと固まる体をなんとか動かし、部屋を出て大広間へ向かう。


 すると。


 広間の中央で膝をつき、歯を食いしばって一人で耐えているアルヴィスの姿。


 目が離せなかった。


 床をつたって壁へ、アルヴィスから四方に氷が無秩序に広がっていく。


 誰も近づけない。 


 誰も、近づかない。


(……ずっと、こうして一人で)


 胸の奥が、痛んだ。


 役立たずと、家族にも見捨てられたエリーザ。

 そんなエリーザをなぜか受け入れてくれたアルヴィス。

 

(この人の妻になるのだから・・・!)

 

 自分がアルヴィスの役に立つのかどうかは、正直わからない。

 ただ、目の前で苦しんでいるのに、見ないふりはできなかった。


 ――考えるより先に、体が動く。


 駆け寄ろうとするエリーザに気づいたのか、

 

 「来るな……!」


 苦し気な荒れた声で拒絶するアルヴィス。


 けれど、エリーザの足は止まらなかった。


 氷の網を搔い潜って必死に伸ばした細い手が、アルヴィスの腕に触れた瞬間。


 暴風のようだった魔力が、音を失った。


 凍てつく冷気が、すっと引いていく。


 氷の網が砕けて消えた。


 ――――あまりにも、突然の静寂。


 アルヴィスは信じられないものを見るように、目を見開く。


「……は?」


 掠れた声。

 そこには、驚きと、大きな困惑が混じっていた。


「何を、した・・・?」


 突然のことにエリーザも事態を飲み込めず


「わかりません……」


 と答えながら、初めて気づいた。

 ――手が、震えている。


「ただ昔から・・・触れてあげると、落ち着くことが・・・魔力が不安定な時期の子どもとか・・・」


 言葉が、途切れる。

 心臓が、遅れて激しく打ち始める。


(……私、何を、しようとした?)


 今さら、恐怖が押し寄せた。


 もし、間違っていたら。


 もし、暴発が止まらなかったら。


 足元が崩れそうになる。


 それでも。


 もう苦しんでいないアルヴィスを見て、

 

 (良かった・・・)


 そう思ってしまった。


 アルヴィスはまるで太陽に輝く宝石を見つけたかのように、エリーザを眩しく見つめていた。 

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