第8話:つぶらな瞳を持つ獣の咆哮
マスターの「温泉を探してきて!!」という指示をガン無視し、俺は森の中を散策していた。そして、毛むくじゃらのそいつと出会った。
そいつは、つぶらな瞳をしていた。ついでに、鳴き声やちょっとした仕草も可愛かった。だから、油断した。そう、俺は油断していたんだ・・・。
「みぎゃ~~~~っ?!」
毛むくじゃらの頭を撫でようとした俺の手は、そいつの持つギザギザな牙によってガジガジされていた。控えめに言って、滅茶苦茶痛いんですけどっ?!
「うぎゃ~~っ?!放せぇ~~~~っ?!」
俺は慌ててそいつの牙から逃れようとするけど、それは叶わない。そいつの顎の力はとんでもなく強く、もう本当にどうしよう誰か助けて?!
「くそがっ!こうなったらこうだっ!!」
俺とそいつの距離は近い。何しろ現在進行形で手をガジガジされているのだから。でも、だからこそ決断できた。俺はそいつの顔へと自身の顔を近づけ、そして・・・。
「うにゅにゅ?!ペッ!!」
俺の口から漏れ出した火の粉が、そいつの顔面の毛を焦がす。それに慌てたそいつは俺の手を放し急いで距離を取り、そして、そのウルウルとした瞳で俺のことを遠巻きに見てきた。
「痛てて・・・。くそっ、見た目だけは可愛いなちくしょ~~っ?!」
本当に、見た目だけは可愛い。そう、見た目だけは・・・。
「あぁ、血が・・・。てか、骨とか見えてない?」
傷口からの出血は、酷い。それに何ていうか、白っぽい物まで見えてるような・・・。
「あぐっ・・・。くそっ・・・」
これは、マズい・・・。どう考えてもマズい・・・。急いで治療しなくては、お美しいミリエル様の御手が大変なことになってしまう・・・。
「竜の角よ、俺に癒しの力を・・・」
俺は、体内を駆け巡る魔力の流れに集中する。そして、それを自身の左角に集中する。
「ふぅ~、ふぅ~、ふぅ~~」
痛みで、集中力が途切れる。脂汗が止まらない。それでも俺は・・・。
「・・・・・。やった、治った!!」
暖かくて真っ白で、そんな光がほんの一瞬だけ俺の手を包み込む。そして、その光が晴れた瞬間に俺の手はほら元通り!!
「あ、危なかった・・・。だいぶヤバかった・・・」
以前、マスターからこの力の修得について指導されてた際はちゃんと安全マージンを取ってたからな・・・。でも、今この時はそんな安全マージンなんて取れない。実戦中に、安全なんてものは存在しない・・・。
「痛みのせいで集中力は乱れまくったし、魔力も上手く操れなかった。ちょっとこれは今後の課題だな・・・」
傷を癒す、聖なる力。しかしながら、それは力を行使する張本人が傷を負い痛みに負け集中力を切らしてしまうと、その力を行使すること自体が難しくなってしまうみたいである。
「怪我をしたら、ダメだ・・・。迂闊に近付いたら、ダメなんだ・・・」
どんなに相手が可愛くても、どんなにつぶらな瞳をしていても、あいつは野生の獣。
「うにゅ?うにゅにゅ?」
くそっ、惑わされるな?!あいつは、あいつはぁーーーーっ!!
「うにゅにゅ?うにゅーーーーっ!!」
「ひっ?!」
手の傷を癒し、そいつから距離を取り警戒する俺。そんな俺に対し、そいつは瞳をウルウルとさせながら可愛らしい咆哮を上げ、物凄い勢いで突撃してきたのだった。




