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殺し屋ギルド

依頼を終え、暗い路地を歩いていく。こういう時に夜目がきく自分の目には感謝している。

程なくして、目的地に着いた。「ギルド」と書かれた古い看板がかかったドアを開けると、ガヤガヤとした騒ぎが聞こえる。しかし、俺の姿を目にすると、喧騒は一瞬で収まり、緊張感が広がった。既に日常と化しているこの風景に今更何の感情を抱くこともなく、カウンターへ向かう。カウンターには、この場では珍しく、俺に恐怖の目を向けない女が、暇そうに座っていた。

「お疲れー♪…ってありゃ、随分機嫌が悪いみたいだね?」

そういって笑うのは、「リング」。本名ではなく、通称、コードネームのようなものだ。殺し屋ギルドの職員である。殺し屋ギルドとは、殺し屋の活動をサポートする組織であり、依頼の管理や、殺し屋と依頼人の仲介などを主な仕事としている。

殺し屋ギルドに入ればさまざまな恩恵があるので、ここら辺の殺し屋は大体がギルド所属だ。

「『死神』様の機嫌が悪いと、皆んな怖がっちゃうんだから、気をつけてよねー。」

「…なんで俺があいつらに配慮しなくちゃいけねえんだ。」

「もう、そういうこと言うからもっと怖がられるんだよ。ただでさえ強すぎて怖がられやすいんだから。」

「余計なお世話だ。それより、手続きをとっとと済ませろ。お前と無駄話をするつもりはない。」

ここで言う手続きとは依頼完了の手続きのことだ。殺し屋が依頼を受ける手順は二通りある。一つはギルドにある掲示板から依頼を引き受けること。もう一つは、名指しの依頼を受けることだ。後者はある程度有名にならないと名指しを受けることがないため、新人はまず掲示板にある任務を受けて、コツコツと知名度を上げていくのが定石だ。俺は最近知名度がぼちぼち上がってきたので、ほとんど指名依頼をこなしている。

…こっちの方が基本的に報酬高いんだよな(ボソッ)。

「えーっと、ターゲットは死亡済みを確認、後処理代を抜いて…はいっ、これが今回の報酬ね。ご確認くださーい♪」

差し出された書類を見て軽く頷くと、リングがパソコンを操作し始める。手続きが終わるのを待っていると、後ろから小さくざわざわとした声が聞こえてきた。

「…なんだ?騒がしいな…。」

そう呟いて振り返ると、そこにいたのは見覚えのある女子高生だった。

「…お前、依頼人だろ。何でここにいる?」

暗に帰れという圧も込めながら問いかけると、依頼人は小さく体を震わしたあと、思い切り頭を下げてきた。

「あ、あの!み、ミオの仇を討ってくれて、本当に、ありがとうございました!」

…驚いたな。殺しの依頼なんかしてくるから、どうせと思っていたが…。どうやらこいつは『善人』の類らしい。

「…早く帰れ。自衛の手段も持ってねえ奴がこんなとこに来んな。帰りにお前の死体を見つけでもしたら胸糞悪くてしかたねえ。」

そう吐き捨てると、依頼人は小さく肩を震わせる。

「…殺し屋に、頭なんか下げんじゃねえよ。」

そう言うと、依頼人がゆっくりと顔をあげる。俺の顔をじっと見つめると、何故か、微笑んだ。

「…ありがとう、ございます。」

そう言った後、依頼人は帰っていった。カウンターに向き直ると、リングがニヤニヤとした表情で、こちらを見ていた。

「…何だ。」

「べっつに〜?死神様はお優しいな〜と思って♪」

「さっきは流したが、その死神様っつうのやめろ。」

ちなみにこれは俺のコードネームではない。断じて。『死神』と言うのは、俺の通り名のようなものだ。違いとしては、コードネームはこういう業界に入る時自分が自分につける通称で、通り名というのはある程度名が知れた奴が他の奴らに名付けられる通称だ。この通り名をコードネームだと勘違いされるせいで俺が時々厨二病に勘違いされるのどうにかしてくれ。俺に通り名をつけたやつは許さん。

「今は『サウ』より死神の方が皆んな知ってるんだから、こっちで呼んだ方が良いでしょ〜?」

この『サウ』が俺のコードネームだ。千寿→1000→thousand→サウ

という安直と言われれば反論できないコードネームだ。

「あ、そうだ。死神様に伝えておきたいことがあるんだけど…。」

もうツッコむ気力も起きないので、おとなしく話を聞くことにする。

「実は、今日奇妙な人が来たの。」

「奇妙な人?」

「うん。その人ね、『千寿はいるか?』って聞いてきたの。すごい慌てた様子で。」

俺の名前を知っている?小学校時代の関係者か?いや、でも俺を探すような人はいないだろうしな…。

「見た目は?」

「んーと、白髪で、ストレートロングの女の人。着物着てたかなぁ?」

…心当たりもないな。

「とにかく、死神様のこと探ってるみたいだったから、気をつけてね。」

「お前に心配されるほど弱くない。」

「あはは!確かに。杞憂かも♪」

しかし、その着物の女が後の俺の人生に大きな変化を与えてくるとは、この時の俺はまだ知らなかった。

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