#21 宮姉ちゃんとの休日
僕の名前は、円城寺カイト。成績が良いことぐらいしか特徴がない、ただの中学2年生だ。隣に住んでいるのは、藤井宮という女子高生。昔から付き合いがある彼女だが、どうにも食えない。今日も、朝からいきなり押しかけて遊びに行こうと誘ってきた。
土曜だというのに早起きをしてしまった。理由はとてもくだらない。隣の宮姉ちゃんが呼び鈴を連打したからだ。いつも思うのだが、なんでそんなに連打するんだろう。小学生だって3回ぐらいでやめるでしょ普通。おかげで、とても寝覚めが悪かった。そして、ドアを開けると宮姉ちゃんが開口一番こう言った。
「おはよう!今日はキャッチボールしようよ!それか、家でゴロゴロしよう!」
相変わらず、自分のしたいこととか思ってることをはっきり言うなこの人は。嫌いじゃないけど。
「どうせ、嫌って言っても勝手に窓から家に入るんでしょ?仕方ないなぁ。キャッチボールするのはいいけど、せめて朝ごはんぐらい食べさせて...それと、家でゴロゴロするのは自分の家でやんなよ」
絶対通じないだろうなぁと思いつつ、一応嫌味を言っておく。
「やだよ。一人でゴロゴロしてもつまんないじゃん。っていうか、早くご飯食べて!」
ゴロゴロするのは別に何人でやっても楽しいことではないと思うけど。とりあえず、僕は姉ちゃんに催促されながら適当にバナナを食べ始める。それを見た姉ちゃんは眉をひそめながら、
「それじゃあ全然足りないでしょ!大和撫子ならもっとたくさん食べなきゃ!」
と言って、勝手に冷蔵庫をあさり朝食を作り始める。いつものことだから言わないけど、さすがに人の家のものをあさるのはダメだって注意したほうがいいのだろうか。...注意しておくべきか。あと、大和撫子って女性に使う言葉じゃない?
「姉ちゃんさぁ、それうち以外でやらないでよ?普通は人の家の物勝手にあさるだけでヤバイやつって思われるから」
が、姉ちゃんは適当に「わかった~」と返事をするだけ。多分わかってない。5分後に聞いたら忘れてる時の返事だ。
少し経って、バナナを食べ終わると姉ちゃんが作ってくれた朝ごはんを食べ始める。朝ごはんは卵かけご飯に味噌汁、焼き鮭だ。健康的な朝ごはんだ。
「どう?バナナ一本よりはいいでしょ?ところで、水出しすぎて台所が濡れちゃったんだけどどうしよう?」
...この人に料理を頼むと3割ぐらいの確率で後始末が大変になる。やっぱり、自分で作ったほうが良かったかも。
「いいよ、後で拭いておくから。姉ちゃんは朝ごはん食べたの?」
ハッとしながら、姉ちゃんは答える。
「そういえば食べてなかった!もう一回朝ごはん作るね!」
僕はそれを全力で止めながら、食べ始めた朝ご飯を姉ちゃんに譲り、適当にカロリーメイトで朝ご飯を済ませた。
朝ご飯を食べ終わって片づけをしていた時、姉ちゃんが
「ごめんね、色々させちゃって。これじゃあ、カイトの中の頼れるお姉ちゃん像が崩れちゃうよね...」
すごくしょんぼりした顔でそう話すが、そこは心配しなくていい。別にそんなイメージ元からないから。と同時に、アレで案外繊細な部分もあったのかと驚きつつ、姉ちゃんを慰める。
「いや、大丈夫だよ。人間だれしもミスはあるし、姉ちゃんだけが悪いってわけじゃあ...」
すると、姉ちゃんはいきなり元気になって、
「そうだよね!!私だけが悪いんじゃないよね!いや~、カイトは優しいなぁ。よくできた男の子だよほんとに!」
...慰めようと決めた過去の自分を殴りたくなってきた。そうだよ、この女は反省とかそういうのしないんだよ!本当に良い性格してるな、おい??
「前言撤回。姉ちゃんが全部悪い。後片づけよろしく」
台所の洗い物をそのままにして、自分の部屋に戻ろうとする。だが、浅ましくも姉ちゃんは食い下がってくる。
「そんな~!お願いだから、片付けしてよ!私やりたくないんだよ~!」
すがすがしいまでのクズっぷり。ほんと、こういう図々しいところとか何とかしてほしい。
「嫌だって!いっつも僕が断らないからって、色々押し付けてきて!優しいっていえば大体何でもやってくれると思ってるでしょ!」
姉ちゃんに頼られたら結構やっちゃうけどさぁ!と言う本音は言わないで、姉ちゃんのような鈍感系主人公以下の理解力の人間にもわかりやすく不満を言う。
これなら絶対僕の言いたいことがわかるだろ!さぁ、なんて返事をするのか。
姉ちゃんは10秒ぐらい考えてから、ゆっくりと口を開いて、
「うん!カイトは優しくて私のこと好きだから、大体何でもやってくれると思ってる!いつもありがとうね!」
クズだ!クズすぎる!もうちょっとなんか遠慮とかそういうのないの?あと、別に僕は姉ちゃんのこと好きだなんて言った覚え一回もないんですけど???何勝手に決めつけてるんだ!
そして何より腹が立つのは、いつもありがとうって言われて少しうれしいと思っている自分だ!もうやだ。本当にクズな人にありがとうって言われてうれしくなるのとか、我ながらチョロすぎるでしょ。
「そういうところさぁ、もうちょっとなんか隠すとか、反省するとか、今日ぐらいは自分で片付けするよとかないの?」
姉ちゃんは30秒ぐらい考えて、すごい嫌そうな顔をしながら、
「...今日は私が片付けるよ...」
朝ごはんの片づけぐらいで、そこまで苦虫をかみつぶしたような顔をするかね普通?どんだけ動きたくないんだ。
「わかった。後は頼みます」
姉ちゃんは足を引きずるように台所まで行き、本当に苦しそうな顔で洗い物を片付け始めた。
そして、20秒に一回ぐらいこちらに助けを求めるような視線を送ってくる。
...なんで自業自得なのに僕が悪いみたいに自責の念に駆られなきゃいけないんだ。姉ちゃんがやれ!姉ちゃんが!
洗い物が終わると、もう10時ごろになってしまった。姉ちゃんはさっきのことで疲れたのかゴロゴロし始めている。
「カイト~、私疲れたから動けない~。そっちにあるティッシュ取って」
さっきのことをまるで反省していないことを理解した僕は、ティッシュを姉ちゃんから遠ざける。
「...なんで私からティッシュを遠ざけるの?ひどくない?」
たまにはこうやって反抗しないと、いつまで経っても姉ちゃんになめられっぱなしなので、今日ぐらいは反抗させてもらおう。
「ねえカイト。私今クシャミ出そうなんだけどさ。今読んでるの、カイトが買った漫画なんだよね~。ティッシュ取ってくれないならこの漫画がどうなるか...わかるでしょう?」
ひどいクズ姉だこいつ!人の漫画を勝手に借りるだけでは飽き足らず、それを脅迫の材料に使うとは!仕方ないので、思い切りティッシュを姉ちゃんに投げつける。
「ありがと。それとさっきから聞きたかったんだけど、なんで私と距離とってるの?さっきのことなら怒ってないから、こっち来てよ。寂しいじゃん」
「怒ってるのはこっちなんですけど!?なんでそう上から目線なの、姉ちゃんはいっつもさぁ」
いきなり意味の分からないことを言い始めた姉ちゃんに対して、そう言ってみる。だが、姉ちゃんは全く変なことをいうやつだなぁといった顔で、
「上から目線だった?そっかぁ、ごめんね。ほら、カイトっていつも私の事を姉ちゃんって呼んでくれるでしょ?だからかなぁ」
なんて理論だ。ひどすぎる。だけど、ちょっとだけ自分がなぜ姉ちゃんを姉ちゃんと言うのかわかった気がする。
「...姉ちゃんは本当にひどい人ってことを改めて痛感したよ」
その時、姉ちゃんのスマホが鳴る。どうやら友達からの電話のようで、少し話していた。
姉ちゃんが姉ちゃんだというなら、僕は何なのだろうかと疑問に思いつつ、なんとなく今の関係をひっくり返したくなって姉ちゃんに勝負を挑むことにした。
「姉ちゃんさぁ、スマブラで勝負しない?勝ったほうが負けたほうに常識の範囲内で何か命令できるっていう条件で」
姉ちゃんは少し驚いた後、ニヤリと笑いながら
「いいよ、ルールは終点3ストックね。命令は、一緒にお風呂入るとかそういうのは...」
「なし。何やらせようとしてんの????」
お互いに準備を完了させ、キャラを選ぶ。僕は愛用キャラのガノンドロフを選んだ。
「え?ガノンドロフ使うの?そのキャラ、復帰弱いし飛び道具持ってないから相当キツいって知ってた?」
若干煽りながらそう言ってくるクズ姉。
「そんなの知ってるし!わかってるから!そっちも早くキャラ選びなよ」
姉ちゃんが選んだのは、キャプテンファルコン。ガノンよりもスピードが速い分、パワーがないキャラだ。
「そっちはキャプテンファルコン使うんだ。そいつ、復帰力はガノンよりあるけど、パワーがないからなぁ」
僕も煽りながらそう話す。クズ姉はニヤつきながら、
「大丈夫だよ。こっちにはとっておきがあるから」
?とっておき?なんだろう。ファルコンにそんなすごい必殺技などなかったように思えるが…
試合が始まると、最初の撃墜をしたのはガノンドロフだった。お願いスマッシュという、戦略でも何でもない横スマによって運よく撃墜できたのだ。だが、そこからはまずかった。姉ちゃんに2ストック落とされたのち、お互いに残り1ストックで100%という一発当たったら死ぬ可能性があるというところまで追い詰められた。
その時、チャンスが訪れた!ファルコンを崖外に吹き飛ばしたのだ!ファルコンの読みやすい復帰に合わせてメテオを決めれば!
「メテオォォォ!!」
僕がそう叫んで、最後の一発を決めようとしたその時!
「そういえば、明日は遊べないから。ごめんね」
さっき電話してたのはそれか!と思ったその瞬間、一瞬だけコントローラーを握る手が緩んだ。クズ姉ちゃんはその隙を逃さず、逆に僕がメテオを決められてしまった。これにて決着。勝者はクズ姉ちゃんで、敗者は僕。何を命令されるのか不安で仕方ない。もしかして、今日の昼ご飯を作れとか!?
だが、命令される前に聞いておかなければ。
「ねえ、さっきの明日遊べないっていうの、あの時じゃないとだめだったかな?」
カス姉ちゃんは、笑いながら
「あ!ごめん!あれ勘違いで本当は来週の日曜日だった!ごめんね~」
おいちょっと待て。絶対嘘だろそれ。大体、さっきの電話しか連絡が来てないのにどうやって勘違いってわかるんだ。
「本当に勘違いだったんだって~。さっき、電話の内容をはっきり思い出したの!」
ヘラヘラするカス姉ちゃん。嘘確定だな。卑怯すぎるぞ!
「悪かったよ。でもさ、カイトはなんで一瞬反応が遅くなったのかな?明日も私と遊べるっていうのが楽しみだったんじゃないの?」
クスクス笑いながらそう言う姉ちゃん。...ノーコメント。こういうところが一番食えなくて厄介なんだよな。姉ちゃんは。
「じゃあ、命令ね」
姉ちゃんが命令を出してくる。敗者に人権はあらず。煮るなり焼くなり好きにしな!
「もうちょっとこっち来て。お姉ちゃん、カイトに嫌われてるかもって思うだけで、胸が張り裂けそうなんだから」
...それだけ?いつもしてることじゃん。まあ、命令だから従うけど。
「いいけど、暇つぶしの邪魔しないでよ?あんまりしつこく体触ってくると、その、くすぐったいから」
僕はそう答える。たまにこの姉ちゃんは過剰なスキンシップをしてくるのでこう言っておかないとまずいことになる。
「わかったよ。じゃあ、隣座って?」
「仕方ないなぁ。姉ちゃんは寂しがり屋なんだから」
やれやれと言いながら隣に座る。悪い気はしないけど、手玉に取られている感じが少し反抗したくなる。最後に姉ちゃんは小声で、
「本当に寂しがり屋なのはどっちなんだろうね」
と言ってまた漫画を読み始めた。
...本当に酷い姉だ。
幼馴染の円城寺から見た藤井。ちなみに、二人の両親は仲が良く、初孫を見たがっています。