手、出して。わたしたち、一緒に。……はい
手、出して。と言われたので出したら怒ってきました。
理不尽じゃありません?
氷川舞子が瞳をウルウルさせてミハエルを見つめる。
「わたし、あなたの前ではふざけてるように、あなたにいじわるばかりしてるように見えると思うけれど、でも、でもでもでも! あなたの横でしか心の疲れは癒せないの! 優等生のフリは疲れるの! …………あなたが、あなただけがわたしの心の止まり木なの。だから…………」
氷川舞子が恋人繋ぎを要求する手の出しかたをしてくる。
「手、出して。わたしたち、一緒に」
「…………はい」
ミハエルも『手を出した』
「黒竜光波!」
ドキュウウウウウウウウウン!
ミハエルの手から大きな光り輝く蛇竜がその場に現れたと思った人もいるであろう光景。
「お、アリウスくんの方法で仮想空間でも霊波動使えるわ。
ごめん。フリーウィルで動いてるだけのハリボテと恋愛ごっこするつもりはないんだ。わたしにはいきなり現れた3Dモデルを好く道理も、きみに好かれる道理もない。
自分で作り上げた3Dモデルなら好きになるけど。それは愛情籠ってるからね」
「きゃあああぁぁぁぁああぁああぁぁぁぁぁぁああっ!?」
その光輝く衝撃波は氷川舞子を包み、困惑の叫びを漏らす事しかできない舞子は横に360度回転し、その次は遊園地の向こう側まできりもみ回転しながらエネルギー波から逃れることができない。
「その『手を出す』じゃあ、ねえんだよなあ。でもawesome! 現実じゃあ可哀そうでできない行動をしてみるためにVRは存在するようなものだよな!」
フレッドが笑いと共に(笑うしかない)つぶやく。
「もうオーサム! じゃなくて、あうぇそめー! だねこれは…………」
アリウスがやけくそ気味に呟く。awesomeを別の呼び方して。
「最悪…………なんでデートの盛り上がる時に女の子に黒竜光波撃つの……」
東雲波澄が見たこともないデートの展開に恐れをなす。
「はぁ…………、ミハエルくんならすると思ったよ。わたしは」
アリウスがため息とともに言葉を吐く。
「きゃあああああああああぁぁぁぁああああぁあああぁぁぁぁぁぁああああっ!」
ちなみに氷川舞子は、パンチラを気にする余裕もない。さすがにエネルギー波で飛ばされていては。VR空間だからまだしもリアルなら死確定の一撃である。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ゲームで処理しきれないミハエルの行動にゲームがバグったのか、いきなりマップが観覧車の中に変わった、ミハエルと氷川舞子が二人で乗り、その隣にアリウス、フレッド、東雲波澄が乗っている。
アリウス、フレッド、東雲波澄が隣の観覧車を見てみると。
ミハエルが、また、黒竜光波を氷川舞子に撃とうとしていた。ミハエルの左手に霊気が溜まっていく。
氷川舞子の目にも涙が溜まっていく。
氷川舞子が口を大きく開けて何か訴えているようだ。その仕草にはもはやいたずら好きな側面すらない。そんな余裕すらない。
必死にミハエルに何かを訴えかけている。
氷川舞子の体はまるでおしっこでも我慢している時みたいに特に足が大きく震えている。でもミハエルを愛おしく見つめている。涙を流しながら。彼女は、手をミハエルに向けて突き出している。愛おしさを込めて。
彼女は、霊気が溜まっているミハエルの左手を両手で抱え込むように掴み、自分の胸に当てて泣きながらにこりと笑いかける。
ミハエルの表情は背中越しなので見えない。
「あれ、どんな会話してるのかしら」
となりの観覧車からでは声が聞こえないのがもどかしい。
いたずら好きな彼女に似合わない、その物悲しい笑顔を見ながら、ミハエルは――
「黒竜光波」
キィィィィィィィィィイン!
ミハエルの掌にある霊気の球が大きくなる。
それを見て、氷川舞子の両足の震えが恐ろしく速くなる。貧乏ゆすりどころじゃない素早さだ。
「あ…………あ…………!」
もはや絶望が顔全面に出ている氷川舞子はまともに声を出せない。
ドキュウウウウウウウウウン!
容赦なくミハエルの手から大きな光り輝く蛇竜が氷川舞子を飲み込む光景。もちろん観覧車のその部屋はぶっ壊れる。
「AIが人間を惑わすな、そこまで男に固執しておいて生霊も出さない女いないよ。わたしが飛ばされた世界から元の世界、火明星のヴァーレンスに帰るといった時、わたしが自分の現実からいなくなるって現実を認めたくなくて、部屋に閉じこもった舞子は、いつものいたずらっ娘さはなりをひそめ、わたしに四六時中生霊をつけてたよ。多分無自覚にだろうがな。
眠る時いつもあの子の生霊がわたしの周りを這いずり回ってた。
ヴァーレンスに帰る前日は生霊じゃなく氷川舞子本体がわたしのベッドから離れなかったよ。
ベッドから追い出したら、ベッドの下に一日中いるつもりだったし。トイレ我慢して。
で、少々口喧嘩になったら、あのプライドの高い彼女が鼻水まで垂らして大泣きして、部屋に閉じこもった。それが彼女との別れだったな。
『へへ~ん。わたしのいたずら好きあなたならわかるでしょう? ずっとあなたにまとわりついてやるんだから、トイレの時ですら! わたしがトイレ行ってる間に永遠にわたしの前からいなくなるんでしょう! トイレ行かない! あなたが逃げないって確認出来る時しかトイレに行かない! 行ってやるもんか!
このベッドの下わたしのおしっこで汚れちゃうかもだけど、あなたが悪いんだから!
あなたがわたしをここまで病ませたんだからね! わたしも、びっくりだよ自分にこんな一面があるなんて! もっとカラカラに明るい女だと思ったのに自分の事!』
ってね。
お前は氷川舞子の偽者だ。
女が今の君みたいに恋に病んだ状態なら、男に生霊をつけないはずはないんだ。あのいたずらっ娘な舞子だってわたしがいなくなるという恐怖に耐えられなくなったら、女の本能100%で動いていた」
こんな恋愛事情がどこにあっただろうか。
「え…………?」
信じられないといった表情で氷川舞子はエネルギー波に呑まれてゆく。てっぺんに登った観覧車からエネルギー波で吹き飛ばされるかわいい――いたずらっ気な女の子。
エネルギー波に呑まれてみる景色は新鮮で彼とじゃなければ見ることはなかった景色である。それはとっても良い思い出になったのかもしれない。
命の危険にさらされていなければ。
氷川舞子は根性(か他の何か)でエネルギー波から逃れてミハエルの前に立った。
「ぐっ…………ちくしょーーーーーーーーーーーーーーーっ!!
ちくしょーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!
ちくしょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!」
「黒竜光波」
ドキュウウウウウウウウウン!
また容赦なくミハエルの手から大きな光り輝く蛇竜が氷川舞子を飲み込む。
だが氷川舞子はすぐ起きて、
「ちくしょーーーーーーーーーーーーーーーっっっ! お前は恋愛の喜びを知らないからこんなことができるんだ!!!! 恋した瞬間の女の子の気持ちがお前に分かるかーーーーーー!!」
あまりの仕打ちに氷川舞子が喉が破れる勢いで悔しがる。
「いや、わたし嫁10人いる――――」
「うるせえよ! 10人も毒牙にかけておきながらわたしには毒牙つきたてられないって~~~!? わたしの女としての魅力は11番目ですか~~~~!? すごい傷つくんですけど、その事実!?
それに黒竜光波ばっかり撃ちやがって、お前出る漫画間違えてねえか!?
ここ少女漫画の世界なんでーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
バトル漫画の世界じゃないんでーーーーーーーーーーーーーーーー!
二人が幸せなキスをしてエンディングを迎える世界なんでーーーー! 残念でしたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
女心分かってねえくせに数だけで威張り散らしてんじゃねえよ! わたしをそのハーレムの中に入れろってんだよ!!」
「あの…………」
そしてミハエルに思いのままを告げる。
「うるせえよハゲ! 早くわたしとキスしろよ!! あまいあまーい脳みそとろけちゃう、舌からみあうキスしろよ! 唾液交換しろよ! ちゃっちゃとわたしの愛を受け入れろ!! こっちはお前とのキスシーンが頭ん中飛び回っていて頭狂いそうなんだよ!
この氷川舞子をなめんじゃねえよ! ちょっとモテるからって女の子の気持ちもてあそびやがって!
エネルギー波に呑まれるのもうたくさんなんだよ!
怒りと悲しみと成就しない恋心で、髪の毛金髪になって逆立つわ、くそっ!
やめろよエネルギー波に吹っ飛ばされている最中ずっと、泣きたくなるから! そんなに………ぐすっ、わたしを、ひっぐううぅ、泣かしたいのかよ……!!
スカートまくれ上がってもエネルギー波きつすぎてスカート元に戻せないし!
ここは、あと5分で爆発してなくなってしまう星か? 5分って言ってその5分も長いし! どこにも宇宙の帝王見えないんだけど! 宇宙の帝王に仕えるデブとイケメンの宇宙人もいないし!
何でもするって言ってんだろ! あなたのためなら! なんでここまで言われてわたしを受け入れないの!
このスペックの高いわたしで満足しろ! 優等生の演技も完璧だろわたし! ハゲ!! マジでお前危機感もてよ! モテ期すぎたらお前なんて……お前なんてパーンじゃハゲ!! そんな顔して、わかってんのか!!
おらあっ、何か言ってみろよ、このフラグクラッシャー! 何か言ってみろって言ってんの! 信じられねぇ、てめえの頭じゃ愛は男同士でしか育むものだって思ってるんですか!? 非生産的な! お前、自分が何言って、いじらしい女の子になにしてるのかわかってんのか!
何で恋愛で顔赤らめてる恋人に黒竜光波撃つこいつに誰も突っ込まねぇんだよ! くそがっ!!(げしっ) メガネさーん、ツッコミお願いしまーす! あなたの仕事ですよー!」
もう優等生キャラ演じているのでも素の自分で話しているわけでもない。100%ブチ切れキャラという、氷川舞子にとっては新境地である。いつもは優等生キャラ+意地悪か地の性格+意地悪で相手を手玉に取る自分を誇りとしでいた彼女が。
また、景色が強制的に入れ替わった。もう恋愛のセオリーに従わないミハエル自体がバグとみなされているかもしれない。
いきなり彼女の部屋っぽい。
フレッド、アリウス、東雲波澄も同じ部屋だが、氷川舞子はミハエルの存在以外無視している。というか相手してる余裕がない。
氷川舞子は、もはや自棄になったのか、大粒の涙を流しつつ、ミハエルをハゲよばわりしてめちゃくちゃにわめく。
「こんな男に可愛く見られたいからミニスカートぎりぎりのを履いてきた女の子が何でもするっていったら、
『ん? 今何でもするって言ったよね?』
っていやらしい雰囲気ただよわせて、両手わしわしさせて寄ってくるのが男のマナーでしょ!?
わたしみたいな仮面かぶる女でも、キセキとか青春に溺れたっていいだろう!? いいだろう!?」
「どこのマナーよ……」
ミハエルは疲れたようにそううめいた。
VRとはいえ自分に身も心も捧げるという気が強い美人に現実なら一撃で天まで登るエネルギー波をたんまりプレゼントしてあげました。




