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「うん、私も安心しちゃった。本当に驚きだよね、まさかつながってたなんて」


「ははっ、だよな。福原に話したら、はら抱えて笑いそう」


「ふふっ、そうだね」


「じゃあみんな知り合いみたいだし……気兼ね無く楽しみますか」


 赤峰先輩が、グラスを持つように促してくる。

 すでに頼まれていたグラスを持つと、みんなでカンパイをした。

 あ……これ。

 私に容易されていたのはビール。

 軽く一口は飲むものの、やはり元々苦手なだけあって、すぐにその苦さに飲むのをやめてしまう。

 先輩が頼んだのかなぁ?

 純さんなら知ってるけど、知らない先輩ならしょうがないよね。


「……飲まないのか?」


 様子を窺うように、純さんは聞く。


「ほら、私はビール飲めないから」


「……は?」


 まるで、初めて聞いたかのようなリアクション。

 困惑しながらも、私はいつものような口調で話し始めた。


「ほ、ほら! 前に言ったことあったでしょ? カクテルしか飲めないって」


 もしかして純さん……忘れてる、とか?


「あぁーごめんごめん。オレが頼んだんだ。じゃあカシスオレンジとかにする? ソフトドリンクもあるけど」


「あ……じゃあ、カシスオレンジでお願いします」


「んだよ。前は飲んでただろう?」


 小さく言われた言葉は、前の二人には聞こえず。それは私の耳にだけ聞こえた。

 飲んでたって……。

 一口ならあるけど、私は飲めないのに。

 半年以上も経っているなら、忘れていても無理はないけど。ほんの一ヶ月前にも、似たようなことがあったはずなのに。

 それからする食事は、もちろん美味しくてよかったけど……私は、カレの些細な言動が気になってしまっていた。

 しばらくすると、二人がトイレや電話で同時にいなくなる瞬間が。するとカレは、私の手首を掴んで、呆れたように言葉を発した。




「お前さ……気ぃー抜きすぎ」




 言われた意味が分からず戸惑っていると、カレはさらに言葉を続ける。


「朔夜は同い年だからいいけど、幸希は先輩だろう? もっと気を使え」


「ご、ごめんなさい……気楽にしてって、言われてたから」


 そう。前の集まりの時に、幸希さんがふつうに接してくれと言われていたのだ。あまり砕け過ぎはよくないけど、私の話し方ぐらいなら構わないと。


「言い訳してんじゃねーよ。んなの社交辞令みたいなもんだって分からないわけ? とにかく、今後は敬語で話せ」


 これって……言い訳、なの?

 でも、これ以上言って、純さんの機嫌が悪くなるのは嫌だし。


「……うん、分かった」


 頷くと、純さんはきつく握っていた手を放す。

 ちょっと痛かったものの、このことをまた言って、カレの機嫌を悪くするのは避けたい。だから、私は二人が戻って来た後も、何事もなかったかのように振舞った。




「じゃあ、これでお開きにするか」




 その後カラオケとか遊びに行くのかと思われたが、明日は仕事が早いとかで、食事のみで終わることになった。


「純哉はオレので帰るとして……紅葉ちゃん、どうやって帰るの?」


「私は、タクシーでも使って帰ります」


 もう十時を回ってるし、家の方面のバス、もうないんだよね。

 家は意外と田舎で、一時間に一本通ればいい方なのだ。


「タクシーなんてお金かかるって。なんだったらオレが送るよ?」


 そんな提案をされると思っていなかったので、私はきょとんとしたふうな表情で、橘くんを見ていた。

 送ってくれるのは嬉しいけど……。

 一応、男子と二人きりになってしまうことが気になり、カレの様子をチラッと窺う。


「ま、朔夜なら他のヤツより安全だしな」


「他のヤツよりって! オレは普段から安全な人間だっての。――んじゃ、アニキからの許可ももらったし、どうする?」


 そりゃあ、送ってくれるなら助かる。

 だから私は、素直に橘くんの好意に甘えることにした。


「じゃあ……お願いします」


 軽く頭を下げお願いすると、任しとけ! と言う元気な声が聞こえた。


「んじゃ、また今度な」


「うん。またね、純さん。赤峰先輩も、気をつけてください」


 挨拶をすると、私は橘くんに連れられ車へと向った。

 そういえば……友達になってから一回も、橘くんに乗せてもらったことなかったなぁ。


「ちょっと汚いけど勘弁ねぇ~。はい、どうぞ」


 助手席のドアを開け、笑顔で言う橘くんに、私は戸惑いを覚えた。

 こ、こんなふうにされたの……初めて、なんだけど。

 どうしていいか分からず迷っていると、私の口から出たのは。


「う、後ろでいいよ! ほら……助手席は、彼女とか乗せた方が」


 と、そんなことを口走っていた。

 初めて助手席に乗せるのは、彼女がいいってこだわってる人もいるって聞くし。


「はははっ! そんなこと気にするなって。むしろ、市ノ瀬が初になってくれる方が、オレとしては嬉しいけど?」


 ちょっ、なんか恥ずかしいよぉ……!


「も、もう! 私、そういうセリフに慣れてないから!――えっと……それじゃあ、お邪魔します」


 席に座ると、橘くんはドアまで閉めてくれて。

 こういうの……誰にでも、してるのかな?

 手馴れてる気がして、運転する姿をチラッと見ながら、そんなことを考えていた。




「――言っとくけど、誰にでもしてないから」




 考えを見透かすような答えに、私は思わず裏返った声を出してしまった。


「顔に出てる。慣れてるなぁ~ってな」


 ははっと笑いながら言う橘くんに、私はすぐに言葉を返すことが出来ないでいた。

 顔に出てるって……私ってやっぱり、分かりやすいのかなぁ。


「図星、だろう?」


「そ、それは……」


「隠すことないじゃん。オレだって、あーゆうことするのには度胸がいるんだよ?」


「だったら私にしなくても……。そういうのは、好きな子にしてあげないと」


「好きな子ねぇ~……」


 そう呟いたあとの顔が、なんだか妙に真剣で。

 雰囲気が変わったのを、肌で感じ取った。

 何か、おかしなことを言っちゃったかなぁ?

 気にはなったものの、その後の橘くんはいつもどおりで。学校でのことや色んな話をしながら、家路を楽しく過ごしていた。

 あまりに楽しくて……携帯が震えていることにも、気付かぬまま。


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