.
「私、ね……純さんと、会おうと、思うの」
言い終わり、橘くんに視線を向ければ、驚いたような、辛いような……なんとも言いがたい表情を浮べていた。
やっぱり……いい反応はしない、よね。
視線を自分の両手へと移し、私は続きの言葉を発した。
「まだ、何を話したいとか、分からない、けど……会って、みようと思う。逃げたら、母親の時と、同じ。何も、変わらない、から」
「…………」
祖父母の時と同じく、橘くんも未だ、言葉を口にしないままで。祖母のように、反対されるんじゃないかと、そんな考えが頭を過る。
「市ノ瀬がしたいなら……オレは、止めないよ」
言われたことが信じられず、私は思わず、えっ? と疑問の声をもらしていた。
「前にも言っただろう? オレは市ノ瀬の味方だって」
そっと私の右手を握り、やわらかな笑みを浮かべながら、橘くんは言う。
「だから、市ノ瀬がしたいなら止めない。もちろん、ムリはしないってことが条件でだけど」
やりたいようにしていいと言われ、私は涙ぐんでしまっていた。
賛成してくれたことはうれしいけど、それ以上に、私の味方だという言葉が、とてもうれしかたから。
「あ、ありが、とう……」
「反対するとでも思った? まー危ないことなら止めるけど……これは、必要なことだと思うからさ」
目から溢れてしまった涙を、そっと手で拭ってくれて。
「だから、もう泣かないで?」
やわらかな声と同じく、やさしいキスを、橘くんは額に落とした。
何度もされているというのに、やっぱりまだ恥ずかしくて……私は自分でも涙を拭ってから、少し離れてほしいと言葉を発した。
「近くにいると……イヤなの?」
「違う、けど……」
なんだか、橘くんに変なスイッチが入った気がして。私はなんとなく、あまりくっつかない方がいいんじゃないかという考えが浮かんだ。
「あ、もしかして……期待、してる? ここ数日はしてないもんな」
ふふっと怪しい笑みを見せる橘くんは、どこか意地悪そうで。私の反応を、明らかに楽しんでいた。
「し、してないから! た、ただ……まだ、恥ずかしい、から」
自分でも驚きだけど、未だに、こうやって密着することに恥ずかしさを感じていて。これではこの先どうなるのだろうと、自分でも思うほどだった。
「そーゆう反応、そそるんだけどなぁ~」
「そ、そそるだなんて……」
「ホントのことだよ。ただでさえカワイイのに……こんなにオレを煽って、どうするの?」
低くなった声に、心臓がドキッ! と、一際大きな音をたてる。
艶のある色っぽい声に、私は今までにないくらい、ドキドキしていた。
ど、どうするって言われても……。
自分では煽っているなんて思ってないから、もちろん無自覚な訳で。
どうしていいか分からず、私はただ、橘くんに視線を合わせているしか出来なかった。
「そんな熱い目で見られたら……ホントにヤバいって」
ふわりやさしく抱きしめると、耳元から、そんな言葉が囁かれる。
でも、そうは言っても、橘くんはいつも、私がいいと言うまでしてこない。見てて辛いんじゃないかって思えるほどなのに、それでも、私の意思を尊重したいからと、いつも待ってくれている。
それを分かっているから。
嫌とは思わないから――私は、肯定する言葉を口にした。
「いい、よ。は、激しいので、なければ……」
それを聞くと、りょーかいと言ってから、橘くんはそっと、唇を重ねて来た。
片手は頭に添え、もう片方は背中へと回し、しっかりと私を支えている。
ほんの、数秒……それでも、これが永遠だと錯覚させてくれるほど。
まるで、毒に犯されてしまったかのように、どんどん、このキスに溺れていく。
「やっぱり……深いのはダメ、か?」
熱を帯びた視線で言われ、私は少し悩んだ。
したい、けど……あんまりすると、変な声が出るし。
だから私は、少しだけならということで、俯きながら言葉を発した。
「イヤなら、遠慮しなくていいから」
「ち、違うの! ただあんまり、その。――深いのは……変な声、出るから」
そう言うと、何がうれしいのか、橘くんは笑っていた。
「あははっ、変な声って。オレは気にしないし、それはうれしいことだと思ってるから」
「……うれしい、の?」
「うれしいよ? だって……それだけ、オレのこと感じてるってことだし、ね?」
「んんッ……!」
耳元で囁かれたと思った次の瞬間には、もう、唇は奪われていて。
背中に手は回ったままだけど、頭に添えられていた手は、今は顎に移動し。ぐいっと持ち上げるように、手を添えていた。
舌が絡み合って、息も飲み込まれるほどの、深い深いキス。
まだ慣れない私は、次第に息がうまく吸えなくなってきて……。
「んっ……く、ぅッ!」
胸元をぎゅっと掴み、苦しくなってきたことを伝える。すると橘くんは唇を離し……たと思ったのに、キスは、未だ続けられていた。
けれど、今はさっきのように苦しくはなくて。深いながらも、私の様子を窺いながら、気を付けてくれているようだった。
本当……どこまで、やさしいんだろう。
苦しいと言えば、ちゃんと息が出来るようにしてくれて。
まぁ、キスを止めないあたりは、橘くんらしいと思うけど。
それでも、私もまだしていたいという気持ちがあったから、止めなかったことが、うれしくもあった。
「――市ノ瀬」
名前を呼び、すっと唇を離したかと思った途端。
橘くんは、首元に顔を埋めた。
「あ、あのう、まだ……!」
ま、まさかこれ以上のことを!?
ここは病院なのにとか、誰かが来たらとか、さまざまな考えが浮かぶ。
徐々に慌て始めていると、首に、チクッと痛みが走った。




