第2話 意外な関係
翌日、眠たい目蓋をなんとか開きながら、講義を受けていた。
昨日帰り着いたのは、夜中の二時過ぎ……それからお風呂など色々としていたら、眠れたのはほんの四時間ぐらいで。
「ふぁ~……」
これで何度目だろう。
まだ午前の授業も終わっていないというのに、かなり眠気に襲われて。
――終わってみれば、授業の半分を眠っていた。
「ちょっと……今日は寝過ぎじゃない?」
お昼休み、美緒は少し呆れ気味に声をかける。
「ははっ……昨日、カレと遅くまで会ってたから」
「なに、それってノロケ? 会うのはいいけど、学校に支障が出たらダメじゃん」
そうでしょ? というふうに、美緒は視線を向けた。
うぅ……そりゃあ言うとおりなんだけど、帰れる雰囲気じゃなかったし。
それに、出来る時にしておかないと、純さんって淡白なところがあるから。こっちがそういう気分の時には、大抵ダメって言われてしまうし。
だから、そういうことはカレに合わせていた。
「――その様子だと、昨日やったわね」
飲み込もうとした途端、そんな言葉が耳に入った。
驚き喉につまりそうになったものの、なんとか飲み物で流し込み、美緒に視線を向ける。
「へ、変なこと言わないでよ!」
「別に変じゃないでしょ? 紅葉が分かりやすいのよ」
ふふ~んと、どこか勝ち誇ったような表情をされ、なんだか負けたような気持ちになる自分がいた。
「た、確かに……分かりやすいかも、だけど。――でも、ここでする内容じゃ!」
「ははっ、ごめんごめん。まぁー仲がいいみたいでよかった」
仲が……いい。
その言葉に、胸がチクリと痛むのを感じた。
別に今、ケンカをしてるわけじゃない。――なのにどうして。
「もう……からかわないでよね?」
素直に……美緒の言葉に頷けない。
仲がいいんだから、頷けばいいのに。
どんな顔で、美緒と話をしているのか。
きちんと笑えているかということが、今は気になってしょうがなかった。
「お、二人ともそろってるねぇ~」
明るい音声が、私の耳に入る。
振り向けば、橘くんがお盆を持って私たちの向かいへと座った。
「なんか盛り上がってたみたいだけど、なんの話してたの?」
「ん~実はねぇ……」
「ちょっ、ダメだから!」
「分かってるわよ、ほんの冗談」
美緒が言うと、冗談に聞こえないよ。
サッパリとした性格だからか、ノリで話しちゃうような気がして、たまに怖い時がある。
でも、それが美緒のいいところだったりするんだけどね。
「えっ、マジで? うわぁ~緊張するでしょ?」
何やら、二人が話を進めている。何を話しているのかと聞くと、橘くんのことについてだった。
「まーオレが会いたいって前から言ってたんだけどさ。一年も経ってだったから、ちょっと驚いた」
詳しく聞くと、今度お兄さんの彼女に会うことになったらしい。
「橘くんもなんだね?」
「え……市ノ瀬も?」
「うん。今度、カレの弟に会うことになってるの。だから、私はちょっと緊張してるかな」
「紅葉の彼氏とさくちゃんのお兄さん……実は同一人物だったりして」
ぽつり、美緒からそんな言葉が出る。
確かに……偶然にしては、タイミングがいいよね。
「橘くんのお兄さんって……どんな人なの?」
「ん~オレより身長高くて、イケメンかな?」
イケメンって……実の弟から言われるって、それだけカッコいいってことなのかな。
というか、そんなこと言ってる橘くんも、充分カッコいい部類の人だと思うけど。
少し明るめの茶髪に、耳にかかるほどの長さで、軽くウェーブがかった髪。
顔は、ちょっと童顔というか、柔らかい印象を受ける優しい表情をしていて。
ふつうに、テレビに出ていてもおかしくないレベルだと思う。
「自分のお兄さんをイケメンって、さくちゃんそれ、お兄さん好きすぎだって!」
ははっと笑いながら、美緒は橘くんの肩を叩く。
「別にいいだろう? そう思ったんだから。――で、市ノ瀬の方は?」
「えっと……身長が高いのは同じ。あとは、友達に気遣いが出来る人、かな?」
「ん~それだけだと分からないなぁ。名前はなんて言うの?」
「あ、名前は――!」
そこまで言って、私は続きの言葉を飲み込んだ。
ダ、ダメ……!
余計なこと、言っちゃダメなんだから!
カレから、自分のことは話すなと言われている。名前はもちろんのこと、どこに住んでいるかや、どこで働いているかということも。
「……市ノ瀬?」
しゃべるのを止めてしまった私に、橘くんは心配そうに声をかけてくれる。それに大丈夫だからといい、私は話を続けた。
「その……カレね、あんまり他人に色々知られたくないみたいで。――だから、名前も言えないの。ごめんね」
「なんか秘密主義な人ね?」
「ってか、その性格だとアニキじゃないかも」
「ははっ。そうそう偶然が重ならない、よね?」
そもそも、橘くんと純さんは名字が違うわけだし。
「じゃあさ、二人ともそれぞれ会ったら、どんなだったか聞かせてよね!」
楽しげに言う美緒に、私は笑顔で頷く。
橘くんも、むしろ話しに来る的なノリで答えていた。
その後も雑談をしながら食事をし、それぞれの教室へと向って行った。