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「どうして、って思ってる?」


「えっ! あ、あのう……」


「いいのよ。まぁ、当然よね。会うのはまだ二回目なんだから」


 考えがバレてしまっていることに、私はそうですと頷く。すると愛美さんは、ふふっと笑みを見せてから、言葉を発した。


「理由は……そうねぇ。幸希のため、かしら」


 先輩の、ため?

 疑問に首を傾げる私に、愛美さんは続きを話していく。


「紅葉ちゃんは覚えてないだろうけど、幸希、紅葉ちゃんに助けられたんだって」


 助けられたって……私、先輩に何をしたんだろう。


「その様子だと、覚えてないみたいね? でも、気にしないで。それと、確かに幸希のためっていうのもあるけど……私自身、紅葉ちゃんが気に入ったから、今ここにこうしているってことを、分かってほしいわ」


 やわらかな笑みを浮かべ、そっと、私の右手を両手で包む。

 先輩に何をしたのかは分からないけど……愛美さんがこうして心配してくれていることが、すごくうれしい。


「まだ、ほとんど、知らないのに……あ、ありがとう、ございます」


「お礼なんていいのに。――ちょっとは、表情が戻ってるわね」


「そう、ですか?」


「えぇ、結構ふつうに見えるわよ」


 それが本当なら……とてもうれしい。

 ずっと無表情のままでいるのは嫌だし、何より、楽しい時にも、そんな顔はしたくないから。

橘くんと恋人になった今では、それがすごく気にかかっていた。

 だからもし、本当に笑えるようになったら……一番に、見せてあげたいな、なんて。

 そんな考えが、頭に浮かんだ。


「ふふっ。なんだか楽しそうね」


「あ、これは、その……」


「慌てなくていいから。それで……さっきの話なんだけど」


 あ、そっか。

 まだ、どうするか決めてなかったんだ。


「紅葉ちゃんは……どう思うかしら?」


 確かに、早いうちに解決する方が、きっといい。

 今なら、本音を言える友達も、そばにいてくれる人もいて……心が以前に比べ、強く、保たれているから。


「正直……怖い、です」


 でも、こう思っているのも事実で。私は、ゆっくりと胸の内を明かしていった。


「会えば……何かが、変わるかもって、分かってます。でも、な、にを。話して、いいの、か……分からない、です」


 両手に力が入り、ぎゅっと、シーツを握り締める。

 たったこれだけのことを言うのに、酷く疲れてしまって。喉が、つっかえるような感覚がした。




「話さないでも、会うだけでもいいと思うわ」




 背中を擦りながら、愛美さんは言う。


「考えてても、なかなか思うように言葉なんて出ないもの。その時になって、その時に思ったことを聞けばいいんじゃないかしら?」


 その時に思ったことを、か。

 色々考えていても、いざ目の前に現れたら、話したいことなんて吹っ飛んでしまう気がする。少しでも恐怖を感じている自分なら尚のこと、下手に難しく考える必要はないんじゃないかって……そんな考えが、頭を過った。


「まぁ、これはあくまでも私の意見だから。――最終的には、紅葉ちゃんが納得する方法を選択してね」


 愛美さんの言葉は、最後までやさしく。こうしなさいとか、こっちの方がいいとか、無理強いをすることがない。

 だからだろうか。

 初めて会った時も、すんなりと受け入れることが出来て。今も、素直に愛美さんの言葉を受け入れることが出来る。




「わた、し……会うだけ、会います」




 そう口にすると、愛美さんはやわらかな表情を見せる。


「その方が、いいと思います、から。――退院する時、でも。会います」


「紅葉ちゃんがそうしたいなら、応援するわ。でもね、無理はしないでね」


 約束よ? と言って、愛美さんは小指を出し、私の右手の小指に絡める。それがなんだか、ちょっと恥ずかしい気がしたけど、はいと答えて、しっかりと約束を交わした。


 ◇◆◇◆◇


 いよいよ退院が明日と迫る中、私はお見舞いに来た祖父母に、ある話をしていた。


「私、ね……佐々木さんに、会おうと思うの」


 話をしたいと言う私に、二人は予想通り、怪訝そうな表情を浮べた。

 無理もない、よね。

 付き合っている時も、いい印象じゃなかったし。

 何より、入院する原因を作った人物だから、嫌悪感を抱かないはずがない。


「会う必要なんてないわよ!」


「そうだぞ。そんなことは警察に任せて、紅葉はふつうに生活すればいいんじゃ」


「でも……それじゃあ、お母さんの時と同じ、だから」


 逃げるだけなら、あの時と変わらない。

 何も解決しないで、そのままにして……ずるずると時間が経つだけで、何も変わらない。


「それじゃあ、いけないと、思うの。だから……好きに、させて下さい」


「「…………」」


 頭を下げて言う私に、二人は何も言わない。

 ただただ、気まずい空気が流れるばかりで。

居心地が悪い、嫌な雰囲気が、部屋を包んでいる。


「逃げるとか、そんなことないわ。だって、これ以上辛い思いをすることなっ」


「分かった。紅葉が考えて決めたんなら、じいちゃんは文句を言わん」


 祖母の言葉を遮り、祖父がまさかの賛成をしてくれた。それに私も祖母も、驚きの色を隠せなかった。


「あなたまでそんなっ!」


「ばあさん、紅葉がしたいと言ってるんだ。それに――今まで、自分からワシらに頼んだことなんて、数えるぐらいしかないじゃないか」


 目を細め言う祖父は、どこかうれしいような表情を浮かべながら、話を続ける。


「やりたいように、やらせてやればいいじゃないか。今までそんなこと、出来なかったんじゃからな」


「……おじい、ちゃん」


「好きなように、しなさい。――ばあさんも、いいじゃろ?」


 ここまで言われては、祖母も言い返せず。最後には、祖父の言葉に折れてくれた。


「よかったな、紅葉」


 大きくてごつごつした手の平で、ぽん、ぽんっと私の頭を撫でてくれる。ちょっと荒い撫で方だけど、それでも、私にはうれしかった。


「……ありがとう」


 二人に許可をもらい、残るはあと一人……。

 私は、一番相談しなければならない人を、今か今かと待っていた。




「――ごめん、待たせた」




 約束の時間を少し過ぎた頃。その人物である、橘くんがやって来た。


「ううん、大丈夫。ごめんね。急に今日、呼んだりして……」


「気にしなくていいって。何か、直接話したいことがあるんだろう?」


 ただ、今日会えるか聞いただけなのに……。

 こうして察してくれるところが、すごくうれしい。


「うん……どうしても、言わなくちゃ、って思って」


 ゆっくりと、言葉を発して。

 自分の思いを、伝えていった。


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