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◇◆◇◆◇


 病院へ行くと、先に福原来ていて、オレが来るのを待っていた。

 早く会いに行こうと急かす福原に対し、オレは徐々に、不安が募り始めていた。




 もし……自分のことだけ、忘れていたら。




 ドラマなんかでよくある話だが、実際にそーゆうことも起きると聞いていて、イヤな考えが巡っていく。

 病室の前に立つと、その不安は更に増え……津波が押し寄せるかの如く、オレの心は、荒々しく乱れていた。

 先に部屋へと入る福原に続けず、しばらく外で佇んでいると、呆れたように福原が戻って来る。

 そして周りに聞こえない声で、オレのことを叱り始めた。


「会うのが怖いの? だったら、さくちゃんはもうずっと、紅葉に会わなくていいよ」


「っ…! 何も、そこまで言わなくても」


「不安なのは分かるけど……一番不安なのは、紅葉なんだからね」


 真剣な眼差しを向ける福原に、返す言葉もない。

 ホント……情けないよ。

 自分ばかりが不安になって、自分が一番悲劇なんだってぐらい落ち込んで。




 今ホントに辛いのは……市ノ瀬だ。




 言われるまで気付けなかったことが情けなくて、オレは、唇を噛み締めていた。


「…………」


「分かればいいのよ。――ほら、シャキッとしなさい!」


 ムリやり中へと入れられ、おまけに渇を入れるように、背中まで勢いよく叩かれてしまった。

 いざ目の前にしてみると、意外にも不安になることはなく。まだうまく言葉を発せない市ノ瀬の言葉を理解出来たことに、内心舞い上がっていた。

 こーゆうところが、単純なんだろうな。

 アニキのことを聞かれれば、気分が少し落ち込んだりもしたものの、初めて二人きりで出かけたことを覚えていたことがまたうれしくて……福原がいるというのに、抱きしめたい感覚に襲われる。

 それから警察が来て、雰囲気は一気に気まずくなってしまったものの、福原が追いやってくれたおかげで、何とか市ノ瀬の体調が悪くなることは避けられた。

 まだ何も言えないことを謝ると。


「ち、が……わ、る…ぁ、い」


 そう言って、市ノ瀬は一生懸命、言葉を発しようとしてくれて。

 あぁ~……ホント、カワイイって。




「心配すること、ないから。それだけは……言えるよ」





 ただ、言葉を述べるだけのはずが――気が付くと、市ノ瀬の額に、唇を落としていた。

 まだ唇を奪わなかった辺り、少しは理性があったらしい。

 すると、福原が先生と共に戻って来て、先生が話をするからということで部屋を出て行こうとするオレに、またしても、市ノ瀬はカワイイことをしてきて。――まるで、すがりつく猫のように、服の裾を掴んでいた。

 そんな姿に胸がざわつきながらも、先生や福原がいるせいか、ふつうにしなければと思い、さっきみたいなことはしないようにと心がけ、部屋の外で、また話せる時を待っていた。




 ――けれど。




 その後、市ノ瀬は体の不調を訴え、深い眠りへとついてしまった。


 ◇◆◇◆◇


 学校が終わるとすぐ、オレは車を走らせた。向かう先は、もちろん病院。

 面会の許可をもらい、ドアをノックしてから、部屋へと入る。




「――――――」




 まだ……起ないか。

 規則正しく寝息をたてる姿に、安心したような、残念なような。複雑な気持ちのまま、オレは隣に腰を下ろした。

 あんまりも安らかだから、このまま目を覚まさないんじゃないかって、思ってしまうほどで。


「……市ノ瀬」


 そっと片手を伸ばし、頬に触れる。何度も触れたことがあるのに、こんなにじっくりと触れるのは初めてで。

 やわらかいとか、顔が小さいなとか……改めて、そんなことを感じていた。


「――――…」


 一瞬、市ノ瀬が眉をひそめる。

 イヤな夢でも見てるのかと思い、心配で様子を窺うと、再び安らかな表情へと戻っていく。

 それにほっとしたものの、やっぱりどこかで、目が覚めなかったことを残念に思う気持ちがあった。




「――欲張り、だよなぁ」




 もっと、市ノ瀬に触れていたい。

 けれどそれは、今のままの関係では、到底出来ないことで。

 頬から手を離し、オレはその手を市ノ瀬の右手へと移動させる。




 今の市ノ瀬に、この思いを告げたら……どうなるだろうか。



 

 まだ、迷っている最中の時間で止まっているなら、あの時のように、オレの思いに答えてくれない。

 それどころか、下手をすれば拒絶されるんじゃないかって……そんな恐怖が、脳裏に過ってしまう。




 ――だけど。




 それでも、いつかはこの関係を終わらせる日が来る。

 ただの友達じゃなく、恋人か、それとも……。

 どちらにしろ、あやふやな関係は、もう終わらせたいよな。




「――好きだよ、紅葉」




 そっと、眠る市ノ瀬の額に、唇を落とす。

 聞こえることない言葉は、波紋のように広がり……やがて、その姿を消していく。




 今は、届かなくてもいい……だから。




 目を覚ましてくれと、手を握りながら、ひたすら願った。


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