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「――寝るって言ってんだろう?」
それはもう、この部屋から出ろという言葉に他ならない。
返事をすることもなく、私はただ頷いて、静かにカレの部屋から出て行った。
――それから数時間、カレはずっと眠ったままだった。
起きたカレは、昼間の機嫌の悪さなどどこかへいってしまったかのように、至ってふつうで。借りてきたDVDを、一緒に見ていた。
「この後……どうなるんだろうね?」
借りてきたのは、推理ものの映画。
謎解きだけでなく、意外にもアクション的な要素も含んでいる。
集中しているせいか、声なんて聞こえないように、カレはテレビを見ている。
別に、たくさん会話しながら見たいわけじゃないけど……たまには、ほんの少し見ている内容について話したい時もあるわけで。
「黙って見てろ。――いっつもうるさいんだよ」
こちらを見ることなく、カレは淡々と言葉を口にした。
どうしよう……純さんから、重苦しい雰囲気を感じる。
明らかに険しくなる表情に、私は身を硬くした。
こうやって、相手が険悪な雰囲気を漂わせていると、他人より敏感に感じてしまう。
それは……私がそういう環境に、長くいたせいかもしれない。
無意識に、嫌な空気を感じ取り回避しようとしてしまって。
ダメ、だ……こんなんじゃ、また――。
不安な様子を察しされないよう、視線が合えば、私は笑顔を向ける。それにカレが何か言うわけじゃないけど、一緒にいて楽しいという雰囲気を出すようにした。
空気は重く感じるものの、好きなカレといるのだから、これは楽しいのだと、自分に言い聞かせながら。
「今度……弟に会わせるから」
映画が終わると、カレはぽつり、そんな言葉を口にした。
「弟って……」
「お前と同い年。アイツ、今一人暮らししてるんだよ」
今まで、ここに来るのも半年以上かかったのに。
まさか、カレからそんな提案をされるなんて、思ってもみなかった。
「いい、の? 弟さんに会っても」
「アイツも見たいって言ってたからな。それに――」
手を差し伸べてきたかと思ったら、体はすっと引き寄せられ、私はカレの腕の中にいた。
「もう一年になるんだから、いい頃だと思ってな」
そう言って、カレは私の唇を奪った。
さっきまで、なんだか重い空気がしてたのに……。
久々の口付けにとろけていると、耳元で、カレが囁く。
「だからさ――今日は、まだいいだろう?」
「えっ……」
言われて、視線を時計へと移す。
時間は十時を回っており、明日のことを考えると、もう帰った方がいい時間だった。
「なぁ……いいだろう?」
「でも……明日、学校で寝ちゃいそうで」
「んなもん、寝ても問題ねーって」
「だ、だけどっ?!」
反論なんて許されることはなく、再び、唇を奪われていた。
初めは抗っていたものの、次第に、カレから触れられた部分が熱を持ち始めて……。
ドアの向こうから、カレの母親の声が聞こえても止めることはなく。
カレが求めるまま……その感覚に、身を任せてしまった。