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◇◆◇◆◇




「よっ! 今日の主役~!!」




 片付けの最中、今朝以上に周りにからかわれていたものの、イヤな気はしない。

 みんな祝福してくれているし、自分も言うきっかけになったとお礼まで言われ、少し恥ずかしい気持ちすら感じていた。


「お前は返事よかったのか?」


「あぁ、バッチリな! こっちも幸せオーラ全開で、明日からガンバレそうだ」


 友達も返事はOKだったようで、これから彼女と帰るんだと、楽しそうに教室を出て行く。

オレもそろそろ行くか。

 大体の片付けが終わり、足早に待ち合わせをした校門へと向う。

 市ノ瀬はまだ来ていないらしく、しばらくまっていると、福原たちがやって来るのが見えた。


「お、さっそく二人で帰るんだぁ~? お熱いことで」


「そっちだって同じだろう?」


 手を握っている二人は、照れることもなく、むしろ見せつける勢いで幸せオーラを出してくる。

 いつもなら何かツッコミでもと思うが、今日はそんな気が起きない。きっと、それはこれから、自分もこーゆう雰囲気を出していくからだと思ったからかもしれない。




「――美緒、鳴ってるぞ」




 海さんに言われ、福原は携帯を見る。すると楽しげに、紅葉からだよぉ~と、オレに見せてきた。早く出ろよと言うと、福原は、はいはいと言って、明るい様子で電話に出る。


「は~い、どうかしたぁ?――紅葉?」


 福原の表情が、徐々に険しくなる。

 どうしたのかと思っていると、微かに、叫び声のようなものが耳に入った。


「く、紅葉!? ねぇ……返事してよ!!」


 血相を変え、福原はオレたちの手を引き走り出す。


「お、おい、何があったんだよ!」


「紅葉が叫んでたの。助けてって! たぶん……側に、さくちゃんのお兄さんがいる」


 その言葉を聞いた途端、血の気が一気に引く。

 近くにアニキがいるとなれば、何も起きないわけなはない。ましてや、助けてと叫んでいたならな尚更……ケガをしているのが、容易に想像出来る。

 市ノ瀬がいるであろう棟に向かい、三階へ駆け上がろうとした途端――大きな何かが、落ちる音が響いた。




「――市ノ瀬!!」




 階段の下には、仰向けに倒れる市ノ瀬がいて。

 抱えると、安心したのか、ふっと力を抜いていくのが分かった。


「っ!……なんで」


 階段の上にいる人物……兄である人物を睨み付け、言葉を発する。けれど、相手は何も言わず、どこかつまらなそうな表情を浮かべていた。




「何か……言えよ! オレが憎いなら、オレに直接っ!」




「そんなんじゃ……つまらねーんだよ」




 本人をやるより、大事なものを狙った方がいいと言い放つアニキに、オレは憎悪を抱いた。ここまで人を憎いと……殺したいと思ったのは、初めてかもしれない。




「悪い、朔夜。――やっぱ、守れないわ」




 ぽつり、そう呟く声が聞こえたと思った次の瞬間。


「っ……!」


「お前は兄としてだけじゃねぇ。人としても、サイテーな野郎だよ」


 素早く階段を駆け上がった海さんが、アニキの腹部に、重い一撃を打ち込んでいた。

 うな垂れるように倒れたアニキを受け止めると、海さんは肩に担ぎ、アニキを連れていく。


「さく、早く運べ。今美緒が電話してる」


 声をかけられ、ようやくオレは行動することが出来た。

 何度呼びかけても、目を開けない市ノ瀬。不安だけが増していき、嫌な考えが体を侵食していく。

 救急車が来るなり、オレも一緒に乗り込み、病院へと向った。

 頼むから……どうか、無事でいてくれ!

 隊員の呼びかけに、一瞬言葉を交わしたように思えたが、またすぐに意識を失ってしまって。病院に到着するなり、オレは待合室で、事が終わるのを今か今かと待った。

 一秒がとても長く感じられ、座っていても落ち着かず、廊下を行ったり来たりして、気を紛らわそうと必死だった。




「――紅葉どうなった?!」




 自分の車で来た二人が、病院へと到着する。

 ただ首を横に振り、まだだと答えるのが精一杯で。――しばらく待っていたが、まだ時間がかかるからと看護師さんに言われてしまう。

 意識が戻らないから、一通りの検査をやっているらしい。

 頼むよ……神様がいるなら、どうか市ノ瀬を!

 椅子に座り、顔の前で手を強く握る。

 それぐらいしか出来ないことが歯がゆくて……この時ほど、悔しい気分を味わったことがない。




「――目を開けましたよ」




 声をかけられ、オレたちは一斉に、声を発した人物を見る。

 落ち着いた様子で話す先生を見て、無事だったんだと、ほっとする自分がいた。


「ご家族の方にお話をしたいのですが……まだ、来てないようですね」


 頷くと、先生はオレたちに、真剣な眼差しを向ける。

 イヤな予感がして、息が詰まりそうな感覚だ。


「では、まずは貴方たちに注意をしておきたいことがあります」


 何を言われるのかと緊張し、イヤな汗が出てくる。




「一時的と思われますが、少し、記憶の混乱があります。そして……今は、声を出すことが出来ません」




 考えなかったわけじゃない。

 けれど、それはとても考えたくないことで。




 もしかしたら……忘れてるかも、しれない。




 そんな考えで、押しつぶされてしまいそうな心。

 触れれば壊れてしまいそうなほど、今の自分はとても脆い。

 すぐにでも会いに行きたいのに……言われた事実が、あまりに衝撃的過ぎて。

 心とは裏腹に、体は、すぐに反応を示してくれなかった。


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