―朔夜side―
今年に入ってから、学祭用にと手がけていた作品。
最初はただの洋服のつもりだったが、市ノ瀬をきっぱり諦めるためと、考えていたウエディングドレスを制作することにしたんだが……今はまた、違った決意を秘め、制作に取り掛かっていた。
それは、アニキとの関係が良好でないと聞いた時からだった。
決意は日ごとに増していき、それを確固たるものにする出来事が、水族館でのデート。
もう……抑えきれない。
ありふれた幸せを、彼女は知らなくて。
もっと、自由に出来るんだと。彼女が今まで出来なかったことを、叶えてあげたくて。
「――明日、さ」
あの作品を……一番前で見てほしい。
「聞いてほしいこと、あるから」
そして、明かすことはないと決めていた言葉を。
叶わないと諦めていた言葉を……明日、告げよう。
帰るなり、オレは海さんに電話した。
明日は来ることになっているから、念のため、市ノ瀬のことを見ててもらおうと。
『あぁ、分かった。――でもなぁ~、そーいうやつは一発殴ってやりてぇ~』
「……頼むから、前のようなケンカ沙汰はやめてくれよ?」
『はいはい。――けど、美緒に手ぇー出したら……保障しない』
それは、昔の海さんを思い出させるような、とても威圧的な口調。
本気になられたら、面倒なんだよなぁ……。
当時のことが蘇り、後始末が大変だったなと、深いため息がもれる。
さすがにオレもそれは避けてもらいたいから、そーゆう行動は謹んでくれと念押しした。
◇◆◇◆◇
翌日、オレは作品の最後の調整のため、早くから登校した。
仕上がってはいるものの、やっぱりもう一度、確認しておきたくて。
「――ホント、他のヤツに着せるのもったいない」
本番は、制作者かモデルを頼んである生徒に着てもらうことになっている。相手を決めないオレに、先生に言われたこともあり、一応は同じクラスの女子に頼んでいるが、やっぱり、他の誰かにこれを着てもらうのは好ましくない。
市ノ瀬に着てほしいけど……それだと、なんか重荷になりそうだよなぁ。
ウエディングドレス=結婚。
しかもそれが、今日思いを伝えようとしているなら尚のこと――プロポーズだと、誰もが思うだろう。
それだけ本気だという意思はあるが、さすがにそれは、二人きりの時に言いたいし、まだ色々と解決してからがいいと思った。
ただ、やっぱりこれを誰かに着られるというのは、オレの中で許せなくて。
着る予定になっている女子に電話をかけ、断りたいという意思を伝えた。
『……そっか。しょうがないよね』
「すみません。アレは、誰にも着てほしくないから」
『……なんなく、分かってた。――じゃあ、困ったことが言ってね。手伝うから!』
その言葉に感謝し、女子との電話を終わらせた。
これでよしっと。
あとは模擬店の手伝いでもと思い、荷物を教室へ置こうと中へ入った途端。
「お、来た来た。橘~!」
友達が、やけに笑顔で近付いてくる。なんだがイヤな予感のする笑顔に身を引き締めていると、そいうの口から、思わぬ言葉が出た。
「お前、いつ結婚するんだ?」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、そいつは言った。
「しねぇーよ! ってか、オレがドレス作ってるからか?」
「いやいや。昨日、自分がやったこと思い出してみろよ。誰だってそれぐらい噂するって」
もちろんドレスを作ってるからな、とも言われ、一日でどれだけ噂が広がっているのかと心配になってきた。
こりゃあ……市ノ瀬に手紙なんて渡せないよなぁ。
以前、アニキが渡したのを見せてほしいと頼み持ってきてくれることになっていたが、おそらく自分が書いた物なのは確実そうなので、照らし合わせるために、思い出しながら書いてきていた。
靴箱、は扉がないし……。
福原にとも考えたが、アイツはリーダーで、何かと忙しい。
――だとしたら残るは。
オレは、市ノ瀬が絵を展示した場所へと向った。そこにある絵にでも添えておけば気付いてくれるだろう。
既に中には生徒がいて、断ってから中へと入り、市ノ瀬の作品を探した。
「――これか」
他の物と違い、ひっそりと飾られているそれには、名前は書いていない。でも、それが市ノ瀬の物だというのは、作品を聞いていなくても、絵の雰囲気で感じられる。
前より……描けるようになってる。
自分のことのようにうれしくて、口元を緩めながら、手紙を添え持ち場へと戻った。
模擬店に着くと、オレは客引きを任され、看板を持ってグラウンドだけでなく、教室内も回ることに。途中、噂を聞きつけた友達から質問攻めにされたが、関係ないからと言い、店へと逃げ戻っていた。
すると、店先に市ノ瀬の姿を発見し、一気に心臓が跳ね上がるのが分かる。
……ヤバいよなぁ。
今日告げようと決めているせいか、いつも以上に緊張してしまう。行くのを戸惑っていると、市ノ瀬をクラスのヤツに口説かれるという事態になり、オレは急いで店先に行った。
からかうように、オレにもチャンスがなんて言う友達に、いつもなら笑って流せそうなことも、市ノ瀬が絡むと、やっぱり冷静でいられなくなる。
「――誰がやるか!」
手出しされないよう牽制し、市ノ瀬の肩を抱き寄せる。これぐらいしとかないと、ホントに口説かれでもしたら堪らない。
グラウンドから離れ、手ごろな休憩場所に行き話をしていると、市ノ瀬から手紙の話をされた。市ノ瀬が持っていたのは、やっぱりオレが書いたもので……時間が経ってしまったけど、こうやってホントのことが分かってよかったと、心底思った。
それだけでも充分だと思っていたのに、驚く言葉が耳に入る。




