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「オレ……高校の時から、思ってる人がいます」
思わぬ展開に、視線が橘くんへと一気に集中する。
「ずっと忘れられなくて、他の人といても、違う気がした。――けど、再開した時には既に彼氏がいて」
ははっと笑う声に、失恋したのかぁ~? と、冗談まじりに言う声が聞こえる。それに対応しながら、橘くんは話を続けた。
「だから、この気持ちは抑えよう。言ってはいけないことだと、自分に言い聞かせてたけど。――もう、抑えるのはやめた」
「――――!」
途端、橘くんは私の方を向き、視線を真っ直ぐに合わせた。
もう……何を言われるか、容易に想像出来る。
なぜドレスを作ったのか。
なぜ他人に着せなかったのか。
「あの時から……ずっと、君に惚れてた」
言葉が、体に浸透する。
心臓は、その鼓動を大きくし、頬に、熱が帯びていく。
「今日の時間だけじゃ……足りない」
私の目の前に来ると、片膝を付き、マイクを置く。
「これからの時間……恋人として、オレにくれない?」
しんと、水を打ったような静けさ。
それはまるで、ここには二人しかいないような錯覚さえ思わせるほどで。
やわらかな笑みを浮かべると、すっと、頬に両手が添えられる。
触れられた部分が、熱を帯びて。
自然と、頬に涙が伝っていった。
「――返事、聞かせてくれる?」
答えなんて……決まってる。
だって、私が本当に惹かれていたのは――今目の前にいる、あなたなんだから。
「――っ、い」
うまく……言葉が、出ないよ。
声が上ずって、ちゃんと、返事を伝えられない。
目の前が滲んで、目も開けられないほど、涙が溢れていく。
「ははっ、泣くことないのに。――もう、離さないから」
途端、体は強い力で引かれ、ステージへと上げられる。
何が起きたのかと思っていれば、ぎゅっと体を抱きしめられ、やわらかな温もりに包まれていた。
「……好きだよ」
耳元で囁かれたそれは、幸せそのもので。
体にゆっくりと入り込み、私を満たしてくれる、一番の言葉だった。
「よかったねぇ~!――さくちゃん、よく言ったぁ~!!」
美緒の声が、沈黙を打ち破る。
そしてせきを切ったように、会場からは、様々な声が上がった。ほとんど何を言っているのか分からないけど、歓迎してくれているというのは、雰囲気で伝わる。
今はもう、恥ずかしいとか、そんなこと考える余裕はなくて。
少しでも長く、このままでいたかった。
「え、えっと……思わぬ展開になりましたが。――こ、これにて、デザイン科の展示は終了でーす!」
司会者は、少し慌てた口調で幕を閉じる。
けれど、それからしばらく、会場から歓声がやむことはなかった。
理由は、私たちがその場を離れた後も、ステージ上で告白をする人が続いたから。
テンションが上がっているということもあり、ふだんは言えないような、ちょっと違った告白もする人も現れ――学園祭は、最後まで盛り上がりに包まれていた。
「帰り……待ってるから」
それに頷き、私は橘くんと別れ、美緒とともに片づけを始めた。
本格的なのは明日からだけど、机を中へと入れるぐらいの作業は、今日中にするようになっている。
「よかったねぇ~ようやく結ばれて」
ふふっと笑みをこぼし、美緒は楽しげに声を出す。
「は、恥ずかしいから……そんなに言わないでよ」
「もぉ~今が一番楽しい時なんだから、からかいたくもなるわよ!」
それからも、美緒以外の人にも声をかけられ、答えるのが大変だった。
いつから好きなの? とか、もうキスしちゃった? とか、たくさんの質問に、やんわりとかわしながら、私は展示室へと向っていた。
「よ、ようやくいなくなった……」
先程までいた人だかりはなく、私はようやく、安堵のため息をついた。
「閉め忘れはなし、っと」
窓がきちんと閉まっていることを確認し、最後に教室のドアに鍵をかけた。あとは、これを職員室に返せば、仕事は終わりだ。
橘くん……もう、来てるかな。
ちょっとしか離れていないのに、早く会いたいという気持ちが高まっていて。
「――紅葉」
こんなに近くに、誰かが来ているなんて、思いもよらなかった。
低い声が、廊下に響く。
振り向けば、そこには今、会いたくない人物の姿があった。
「言ったよな? お前は、俺が好きだって。――なのに、なんでアイツを選んでんだ?」
心は強く保たれているものの、体が、思うようにおいついてくれない。
目の前にいる人物……佐々木純哉を見ただけで、体は自然と、硬直していた。




