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「――明日、さ」




 外へ出ると、橘くんは歩きながら話を始める。


「聞いてほしいこと、あるから」


「明日でないと……ダメ、なの?」


「ダメってことないけど……ま、覚悟みたいなものだから」


 覚悟って……一体、何を言うつもりなんだろう?

 もしかして、危ないことではないかと心配が過り、表情が少し曇ってしまう。


「あ、危ないことじゃあ、ないよね?」


「それはないから。まー明日のお楽しみってことで、ね?」


 ははっと笑いながら、橘くんは大げさに腕を振る。


「わっ! ちょ、ちょっと!」


「なーんか、このまま帰るのもったいないよなぁ~」


 あ……同じ気持ちで、いてくれたんだ。

 うれしくて、私はまた顔が赤くなるのが分かった。


「せっかくだし、夜もご飯一緒にしない?」


 満面の笑みで言われ、私は少し間を置いてから、頷いて答えた。

 本当、今日は一日、すごく楽しい。

 こんな気分になったのは、いつぶりだろうと思うほどで。




 ――早く、言わないと。




 カレに、今の気持ちを言わなければと、決意を固めていく。

 美緒や海さん、そして何より……橘くんが、味方でいてくれるなら。ここから抜け出すんだと、自分に言い聞かせた。




 ――そして、家に帰るなり。




 私は、別れ話をするため、カレに電話をかけた。

 やるなら、早い方がいい。

 そうしないと、今以上にずるずるといってしまうと思った。

 画像を悪用されるのは怖いけど、顔が映った写メは一枚もない。流されてもいい覚悟を決め、カレが出るのを待った。


『……なんか用?』


 気だるそうに声を発するカレ。

 低い声に少し怖く思ったけど、呼吸を整え、ゆっくりとカレに、胸の内を明かした。


「私は……もう、純さんとはいられない」


『…………』


「あの手紙……純さんが、書いてないでしょ? 嘘を付かれるのは、嫌だから」


『……そうか』


 短い言葉だけで、カレはそれから、しばらく言葉を発することはなかった。


「だから……もう、一緒にいられない」


 泣き出しそうな、今にも震えて言葉が詰まりそうになりながらも、必死に言葉を紡いでいく。


「私と……別れて、下さい」


『…………』


 先程と違い、長い長い沈黙。

 また怒られるのか。

 画像を流すと言われるのかと、怯えながら待っていると。




『……ほらな、やっぱり捨てる』




 諦めたような、冷たい音声が聞こえた。


『……別れてやるよ』


 意外な言葉に、間の抜けた声をもらすと、カレは言葉を続ける。


『どうせ、こうなると思ってたし。――じゃあな』


 そう言うと、カレはすぐに電話を切った。

 残ったのは、ツー、ツーという機械音だけで。

 こんなにあっさり……終わっちゃった。

 体から力が抜け、その場にへたりこむ。

 これでもう、無理やりやられることがないかと思ったら、今更のように、涙が出てきた。

 早く美緒たちに知らせたかったけど、今ので気力を使ってしまったせいか、酷く疲れてしまい――その日は、すぐにベッドへと体を預けた。


 ◇◆◇◆◇


 次の日、私はちょっとした有名人になっていた。

 昨日橘くんに抱えられていたのが原因らしく、多分橘くんの友達じゃないかなと思う男子たちから、お幸せに~! なんて、そんなことを言われて。

 そのせいか、昨日カレと別れたことを、まだ美緒たちに言えないでいた。


「一気に有名人ねぇ~。それを活かして、売り子やってよ」


 ちょうどいいしと言って、美緒は笑う。


「べ、別にそんなんじゃあ……。売り子は、午後からなら」


「じゃあ午後はよろしくね」


 学園祭が始まり、私は自分の持ち場である展示室へと向った。

 毎年たくさんの人が来るので、三階にあるここの展示室にも、結構見に来る人がいる。


「ねぇ、これ置いたのって市ノ瀬さん?」


 同じ当番の女子に声をかけられ、何だろうと思いみて見ると――私が描いた作品の前に、手紙が添えられていた。


「なんか、裏には「駅の思い出」って以外に、名前とかないんだけどさ」


 それって……。


「たぶん、知り合いが置いて行ったんだと思う」


 そう言って、私はその手紙を受け取った。

 中身を確認しようと、廊下の端に行き、封を切って見ると。


「……やっぱり、同じだ」


 そこには、多少内容が違うものの、以前カレから渡されたのと同じ手紙が書かれていた。

 あそこに絵を飾ってることは、先生と橘くんしか知らない。

だからこれは……きっと、橘くんが置いて行ったんだと思う。

 途端、早く会いたい気持ちが膨らんで……今からでも、橘くんの元へと行きたくなった。

 でも、今は当番中。離れるわけにはいかないと、自分に言い聞かせながら、展示室へと戻って行った。

 展示品の管理や説明をしながら、来客した人に紹介をする。まだ一日目とあってか、午前中はそんなに多くなく、ゆったりとして過ごせていた。


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