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「それ……ホント?」


「う、うん……やっぱり、おかしい、よね?」


 周りの友達は、おごってもらうのなんて当たり前って言ってるけど、悪い気がして、自分からそういうおねだりとかも出来ないでいた。


「いや、おかしくはないけどさ。ってか、アニキのヤツ……」


 それぐらいしてやればいいのにと、呆れたようにため息をついた。


「まーとにかく、ここはオレにおごらせてよ。男のメンツってのがあるし」


「そういうもの、なの?」


「そーゆうものなの! はい、この話は終わり。ゆっくり見よう」


 カッパを着るよう促され、袖を通す。

 しばらくすると、調教師の人がイルカたちの名前や、それぞれの特技を言い、技を披露していく。

 初めて生で見るショーに、私は釘付けだった。

 人を乗せて泳いだり、数メートルもある高さのボールに向ってジャンプしたり。躍動感たっぷりの光景を、目に焼き付けるように見ていた。




「は~い。ではここで、前の席の人は注意して下さいねぇ~!」




 それを聞いて、いよいよ水がかかるんだなと思い、自然と身が引き締まる。プールを何週かすると、イルカたちは決められた場所で思い切り跳ね、会場にいる人に水しぶきがかかる。次は自分たちのところだと思って時には、バシャーン! と、勢いよく水しぶきがかけられた。


「うわぁ~思ったよりかかったなぁ」


「ふふっ、本当だね」


 橘くんはフードを被っていなかったようで、頭は見事にずぶ濡れ状態。髪をかき上げながら、被ってればよかったぁ……と、少し後悔していた。


「よかったら、これでも使って」


 カバンからハンドタオルを取り出し差し出すと、申し訳なさそうに、橘くんはそれを受け取った。

 その後、イルカだけでなくアシカのショーもあり、楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。


「すっごく面白かった!」


「だな。まー頭は濡れたけど」


「タオル、買って帰る?」


「いや、すぐに乾くからいいって」


 会場から出ようとイルカたちの水槽を横切っていると、ふと、奥に他とは違う雰囲気がして。私はその場で、足を止めていた。


「……気になる?」


「うん。見てもいい、かな?」


 頷くのを見て、私はその水槽に近付く。見ると、そこにはシャチが一頭だけで入れられていた。


「ケガ……してる?」


 よく見ると、背ビレの部分にキズがあり、体にも所々、キズが見えていた。




「この子、まだ他の子たちとはいられないのよ」




 スタッフの女性が、そう語りかけてきた。


「どうして、こんなにケガをしてるんですか?」


「この子、網に引っかかってたの。だいぶ回復したから、最近ここに移ってきたんだけどね。――ふふっ。あなた、この子に好かれてるわね」


 えっ? と思い水槽に目を向けると、私の目の前に、シャチが顔をこすり付けていた。


「へぇ~。ホント、市ノ瀬のこと好きっぽいな?」


 キキッという声を出し、シャチはクルクルと水槽を回る。また目の前で止まると、じーっと、まるで私の目を見つめるかのように視線を向けていた。

 なんだか、本当に好かれてるみたいな気になっちゃう。

 まじまじと見たことがなかったけど、目は意外にもくりっとしていて、とても可愛らしい顔をしていた。




 この子……いい顔してる。




 そう思ったら、なんだか胸の底から、湧き上がるものを感じた。

 今まで、生き物を描いてこなかったけど……描きたい、な。


「よかったら、また見に来て下さいね」


「あ、はい! また、この子に会いに来ます」


 軽く会釈をすると、女性は立ち去って行った。


「なんか……いい顔してる」


 真横でそんな声が聞こえ、視線を向けて見ると――やわらかな笑みで私を見る、橘くんと視線がぶつかる。


「えっと……この子のこと?」


「いや、市ノ瀬の顔がね。絵、描けそうなんじゃないかなぁ~って。――ずっと、思うようにいかなかっただろう?」


 よく、見てるんだ。

 なんだか恥ずかしくて、私は俯いたまま、顔を赤らめていた。

 そういえば、雪柳を描けたのも、今描いてみようと思ったのも――橘くんと、過ごした後からだ。

 



 もしかしたら、また描けるんじゃないか。

 もっと大きな絵を描けるんじゃないかって、そんな気がしてくる。




「うん……なんだか、描けそうな気がする。昨日も、小さいのを一枚、描いてみたんだけどね」


「お、描けたんだ。どんなの描いたの?」


「雪柳っていう花。今朝、学校に展示してきたから」


「じゃあ明日、見るの楽しみにしてる。――そろそろ行こうか」


 すっと手を握り、橘くんは笑顔を見せる。

 それに頷くと、残りの場所を見て周り、全部見終わった時には、夕方になっていた。

 もう……帰るの、かな。

 まだ時間はあるのに、このまま帰ってしまうのが、なんだか淋しい気がして。そう思ったら、手に自然と、力が入ってしまった。


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