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『さくちゃん、今日は家でお泊り飲み会するから、車で来てね』
朝っぱらからそんな電話をもらい、オレは今、コンビニで福原たちが来るのを待っていた。
けど、数日前に市ノ瀬を抱きしめてから、今日みたいに長く会うのは久々で。
「――避けられなきゃいいけど」
大丈夫だとは思うが、多少の不安は心に残っていた。
ってか、ちゃんと抑えれるのか?
一度抱きしめてしまったから、抑制が効くかも心配で。未だに、あの時のことを思い出し、今まで以上に、頭から市ノ瀬のことが離れないでいた。
「おっ待たせ~! さくちゃん、まずは紅葉の家まで~!!」
相変わらず元気だなぁ。
横にいる市ノ瀬に視線を向ければ、なんだか妙にもじもじとしていて。
……オレが、ふつうにしないとだよな。
意識させないよう、いつもと同じように振舞った。
福原の家に着いてからも、変にそーゆうことを考えるような言動は謹んでいたのに。
「ん~……まぁ~だそんにゃ、よってらいよぉ?」
まさかの福原が酔いつぶれ、しかも今回は、絡み酒という悪いクセまで出てきてしまい……海さんが部屋へと連れて行ったものの、片づけをしていればまたやって来て。
「か、海さん。残りは、私がやりますから」
「わ、悪いな……ってか美緒、絡むな!」
「い~じゃんかぁ。久しぶりにぃ~エッ」
「言うな!」
福原が言おうとした言動に、多分その場にいた者は、全員予想がついただろう。
こりゃあ海さん、離してもらえないだろうな。――色んな意味で。
気まずい雰囲気になりながらも、なんとか片づけを再開していると……ふと、市ノ瀬の表情が消えているのに気が付いた。
「気分、悪くしたか?」
「だ、だいじょっ?!」
途端、市ノ瀬はバランスを崩し、体が傾く。
危ないと思った時には、既に体が動いて――支えようと手を伸ばしたのはいいものの、まさかの自分も倒れるという、情けない結果になってしまった。
もっと……鍛えよう。
とりあえずは、セーフ、だよな。
胸元に市ノ瀬の顔があり緊張するが、それがうれしくもあり、自然と、頬は緩んでいた。
ホント、このままずっと、抱いていられたらいいのに。
離したくないという気持ちが募るものの、手を離そうとした途端――海さんに今の状態を見られてしまい、しまいには、枕と布団を持ってきて。
「言っとくが――あんまり激しくするなよ?」
と、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、部屋から出て行った。
――絶対、あの顔は期待してるだろ!
当てつけのように置かれた布団を見ていると、この状況にどう対処したらいいのか迷ったらしく、市ノ瀬はやけに慌てていた。
まー……そうなる気持ちは分かるよ。
実際、平然としているように見えるかもしれないが、オレだって内心は、心臓がバクバク鳴っていて。
こんな近くに好きなヤツがいて、何にも思わない方がおかしい。
そんな中、市ノ瀬の口から、意外な言葉が飛び出た。
「月の雫、って聞いて……何か、思い当たらない?」
「――――!」
それは、オレが好きなヤツが描いた絵の名前。
手紙を見ればと思っていたのに、それだけで市ノ瀬が、ホントにあの時の子だったと、再確認した。
愛おしくて……もう、伸びた手を戻すことは出来ない。
「そんなの……当たり前」
頭では分かってる。こんなことをしても、市ノ瀬を困らせるんだって。だけど今は、その思いを抑えることは出来なかった。
「知ってるに……決まってる」
ホント、今すぐにでも自分のものにしたい。
けれど、言ってしまえば、どうなるかなんて目に見えてる。それが歯がゆくて、今はしっかりと、この温もりを感じたかった。
しかも、駅で会ったことまで覚えてたなんて。
忘れてると思ったのに……そんなこと言われたら。
唇に――触れたい。
抱きしめるだけじゃ足りないと、全身が警告する。
だが、それをしてしまえば、今度はオレが市ノ瀬を傷付けてしまう……それだけは、したくない。
「もう少し……このまま」
せめて、もう少しだけ。
市ノ瀬の存在を、感じていたい。
まだ、アニキという彼氏がいるのに。
こんなことをするのは悪いって分かってて言うオレは、酷いよな。
「……いい、よ」
恥ずかしそうに服を掴む様子に、一瞬、理性が吹っ飛びそうで。
市ノ瀬も……同じ気持ちだったら。
これ以上の進展を、強く望んだ。




