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◇◆◇◆◇


『さくちゃん、今日は家でお泊り飲み会するから、車で来てね』


 朝っぱらからそんな電話をもらい、オレは今、コンビニで福原たちが来るのを待っていた。

 けど、数日前に市ノ瀬を抱きしめてから、今日みたいに長く会うのは久々で。


「――避けられなきゃいいけど」


 大丈夫だとは思うが、多少の不安は心に残っていた。

 ってか、ちゃんと抑えれるのか?

 一度抱きしめてしまったから、抑制が効くかも心配で。未だに、あの時のことを思い出し、今まで以上に、頭から市ノ瀬のことが離れないでいた。




「おっ待たせ~! さくちゃん、まずは紅葉の家まで~!!」




 相変わらず元気だなぁ。

 横にいる市ノ瀬に視線を向ければ、なんだか妙にもじもじとしていて。

 ……オレが、ふつうにしないとだよな。

 意識させないよう、いつもと同じように振舞った。

 福原の家に着いてからも、変にそーゆうことを考えるような言動は謹んでいたのに。


「ん~……まぁ~だそんにゃ、よってらいよぉ?」


 まさかの福原が酔いつぶれ、しかも今回は、絡み酒という悪いクセまで出てきてしまい……海さんが部屋へと連れて行ったものの、片づけをしていればまたやって来て。


「か、海さん。残りは、私がやりますから」


「わ、悪いな……ってか美緒、絡むな!」


「い~じゃんかぁ。久しぶりにぃ~エッ」


「言うな!」


 福原が言おうとした言動に、多分その場にいた者は、全員予想がついただろう。

 こりゃあ海さん、離してもらえないだろうな。――色んな意味で。

 気まずい雰囲気になりながらも、なんとか片づけを再開していると……ふと、市ノ瀬の表情が消えているのに気が付いた。


「気分、悪くしたか?」


「だ、だいじょっ?!」


 途端、市ノ瀬はバランスを崩し、体が傾く。

 危ないと思った時には、既に体が動いて――支えようと手を伸ばしたのはいいものの、まさかの自分も倒れるという、情けない結果になってしまった。

 もっと……鍛えよう。

 とりあえずは、セーフ、だよな。

 胸元に市ノ瀬の顔があり緊張するが、それがうれしくもあり、自然と、頬は緩んでいた。

 ホント、このままずっと、抱いていられたらいいのに。

 離したくないという気持ちが募るものの、手を離そうとした途端――海さんに今の状態を見られてしまい、しまいには、枕と布団を持ってきて。




「言っとくが――あんまり激しくするなよ?」




 と、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、部屋から出て行った。

 ――絶対、あの顔は期待してるだろ!

 当てつけのように置かれた布団を見ていると、この状況にどう対処したらいいのか迷ったらしく、市ノ瀬はやけに慌てていた。

 まー……そうなる気持ちは分かるよ。

 実際、平然としているように見えるかもしれないが、オレだって内心は、心臓がバクバク鳴っていて。

 こんな近くに好きなヤツがいて、何にも思わない方がおかしい。

 そんな中、市ノ瀬の口から、意外な言葉が飛び出た。


「月の雫、って聞いて……何か、思い当たらない?」


「――――!」


 それは、オレが好きなヤツが描いた絵の名前。

 手紙を見ればと思っていたのに、それだけで市ノ瀬が、ホントにあの時の子だったと、再確認した。




 愛おしくて……もう、伸びた手を戻すことは出来ない。




「そんなの……当たり前」




 頭では分かってる。こんなことをしても、市ノ瀬を困らせるんだって。だけど今は、その思いを抑えることは出来なかった。




「知ってるに……決まってる」




 ホント、今すぐにでも自分のものにしたい。

 けれど、言ってしまえば、どうなるかなんて目に見えてる。それが歯がゆくて、今はしっかりと、この温もりを感じたかった。

 しかも、駅で会ったことまで覚えてたなんて。

 忘れてると思ったのに……そんなこと言われたら。




 唇に――触れたい。




 抱きしめるだけじゃ足りないと、全身が警告する。

 だが、それをしてしまえば、今度はオレが市ノ瀬を傷付けてしまう……それだけは、したくない。




「もう少し……このまま」




 せめて、もう少しだけ。

 市ノ瀬の存在を、感じていたい。

 まだ、アニキという彼氏がいるのに。

 こんなことをするのは悪いって分かってて言うオレは、酷いよな。




「……いい、よ」




 恥ずかしそうに服を掴む様子に、一瞬、理性が吹っ飛びそうで。

 市ノ瀬も……同じ気持ちだったら。

 これ以上の進展を、強く望んだ。


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