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「ごご、ごめんなさい! すぐに退きまっ」


「おい、何かあったのか?」


「「…………!?」」


 ドアを開け、心配した様子で立つ海さん。

 私たちは無言のまま海さんに視線を合わせ、なんとも言いがたい雰囲気が流れていた。


「…………」


「「…………」」


「なーんだ。早く言えばいいのに」


 ニヤリと笑みを浮かべると、海さんは部屋から出て行く。

 ぜ、絶対……誤解された!

 慌てて橘くんから退き、私は再び謝った。


「ご、ごめんなさい! 海さん、勘違いした、よね……?」


「あぁ……たぶん、な」


 お互いため息をはき、ははっと苦笑いをしていると。




「お待たせ~。んじゃ、お前らはここな」




 再びやって来た海さんは、手にしていた物をドサッと床に置き、私たちを見る。




「言っとくが――あんまり激しくするなよ?」




 ふふっと怪しい笑みを残し、海さんは部屋から出て行った。

 は、激しくって……。

 置かれた物に視線を向けると――それは、枕と布団。

 海さんの言葉だけでも想像が出来るのに、部屋に置かれたそれを見れば、もうあのことしか考えられなくて。


「……なんか、悪い」


「ち、違うよ! む、むしろ私が倒れて、布団と枕まで……!!」


 テンションが異常に上がってしまい、もうどうしていいのか分からず。自分でも何を言っているんだろうと思うけど、止められそうもなくて。

 ただでさえ……純さんの言葉が気になってるのに!

 本当にあの話が真実なら、私が本当に惹かれたのは。


「と、とりあえず落ち着こう、な?」


「わ、分かってる、けど……! 絵のこと、だって」


「絵のこと……?」


 不思議そうに首を傾げる橘くん。

 無理もない、よね。

 橘くんは、知らないはずだし。

 でも、もし本当にあれが橘くんだったら。




 ――今、聞いてしまおう。




 ハッキリさせるには、それが一番いい。でないと、胸のモヤモヤが消えることなんて、ないと思う。




「わ、私も一つ……聞いても、いい?」




 今なら、勢いでなんとかなる。

 お酒も入ってるし、今なら絶対、言えるはずだ。


「月の雫、って聞いて……何か、思い当たらない?」


「――――!」


 絵の名前を口にした途端、橘くんの表情が消えた。明らかに顔色を変えるのを見て、そう思わずにはいられなかった。


「知ってる、の……?」


 訊ねると、橘くんはようやく、その口を開いた。




「そんなの……当たり前」




 言い終わると同時に、体が前へと引き寄せられ。


「知ってるに……決まってる」


 ぎゅっと腕に力を込められ、ようやく、抱きしめられていると分かった。


「最初、駅に飾ってあっただろう? その後、街の展示会でも、同じ名前の作品があった」


 駅にあったことまで……やっぱり、あの時に会ったのって。


「駅で……会った、よね?」


 その疑問に、ふっと笑いをこぼしながら、どこか満足そうに橘くんは言葉を発する。


「会ってるよ。ってか、市ノ瀬は覚えてないと思ってたのに」


 意外だと、橘くんは言った。

 それを知ってるなら、やっぱり、あの絵を先に見たのは。




「ホント……アニキのってのが悔しい」




 ははっと、苦笑いのような声がもれる。

 私が、純さんの彼女じゃなかったら……どうするの、かな。

 分かっているのに、それを口にするのは苦しくて。

 言葉に出してしまえば、何かが崩れてしまう。今のままでいられなくなるのが、とても怖く思えた。

 ドキッ、ドキッと、大きく脈打つ心臓が、やけにうるさい。

 静かに……して、よ。

 落ち着きたいのに、気持ちは高ぶっていくばかりで。

 今のこの状態は、恥ずかしいけど……心地いい。

 落ち着くのに、落ち着かないという妙な感覚が、体を包んでいた。


「これ以上は……まだ先だな」


「な、なんの、こと?」


「まーそれは、色々と解決してからな。今は――」


 ぎゅっと、腕に力が込められる。

 力強いのに、痛みはなくて。ふんわり包まれるような、そんな感覚。




「もう少し……このまま」




 いさせてくれと、そっと耳元で囁かれた言葉に、顔だけなく、体までもが次第に熱を帯びていく。

 前の時も思ったけど、橘くんにこうされるのは……正直うれしい。

 でも、そんなことを思うなんて、彼氏がいるのに不謹慎なこと。

分かっているのに――それなのに、私は。




「……いい、よ」




 ぎゅっと、橘くんの服を掴み、言葉を発した。

 こうしていたいと、心から願っていたから。




 今の言葉は……すごく残酷だ。




 彼氏がいるのに、甘えるなんて。

 きっと、橘くんを傷付けてしまった。こんなこと、許されるはずないのに。

 泣き出してしまいそうな気持ちを、内へと押し込め。




 今はただ、この心地よい感覚を。




 感じることを……許して下さい。


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