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「こーやって、すぐに恥ずかしがるとこなんかも」
「ふふっ。かなりの入れ込みようね。うちの彼は……どうなのかしら?」
チラッと先輩へと視線を向け、愛美さんは答えを待つ。
「……言っとくけど、オレは人前ではしないぞ」
「分かってるわよ。そんなところも好きだから、安心してね」
そう言われた先輩は、微かに顔を赤らめていて。
なんとなく、恋愛の主導権は愛美さんが握っていそうだなと思った。
「ちょっと……抜けますね」
会話の途中、私はトイレへと向った。
すると、愛美さんも行きたかったらしく、出入り口で一緒になり、話しながら二人の元へと向う。
「ねぇ、紅葉ちゃん――佐々木さんのこと、好き?」
不意に、そんな質問をされた。
「も、もちろんそうですよ?」
「そうなの。そういえば、弟くんとも仲がいいのよね?」
「あ、はい。同じ学校ですし、よく遊びますよ。すごくやさしくて、いい友達です」
本当、親友って言ってもいいほど、橘くんのことは信頼している。
だからなのか、私の口元は、自然と緩んでいた。
「そうなのね。相手の兄弟とも仲がいいなんて、うれしいことよね」
「はい、本当にそう思います。あんまりやさしいから……たまに、兄の彼女だからかなって、思ってしまうほどで」
「ふふっ、そんなことないわよ。――きっと、あなたが大事なのね」
だ、大事だなんて……!
恥ずかしくて、思わず顔が熱を帯びる。
それに愛美さんは、ふ~んと、どこか満足そうに笑顔を見せた。
「――分かりやすいわね」
ぽつり、小さく何か呟く。
何を言ったのだろうと首を傾げていると、気にしないでねと、愛美さんはふふっと笑って見せた。
その後は席に戻り、またみんなで会話をしていた。この後まだ遊ぶかと思っていたけど、それはまた日を改めてということになり、今日は食事だけで解散することに。
そして私は、いつものようにカレを実家に送り……また、夜遅くまで過ごしていた。
ドアの向こうでは、おばさんが帰るようにと言っているのに、カレはそれが気に食わないらしく。
「アイツの言葉なんて聞くことねぇーからな!」
「で、でも……ここのところ、ずっ」
「返事は!?」
「……わかっ、た」
これ以上、機嫌が悪くなるのは……嫌だ。
「お前が言うこと聞かないから、アイツがつけあがるんだからな!? いっちょ前に気なんて使うんじゃねぇーよ」
今だけ。
今だけ我慢すれば……。
「ごめん、なさい。まだ、今日はいるね」
「当たり前だ。――お前は最近、アイツと遊び過ぎだ」
「アイツって……?!」
目が合った瞬間、体は倒されてしまい。
畳に体を押し付けられ、カレはどこか悲しいような、恨めしいような……そんな憂いを含んだ目で、私を見ていた。
「朔夜と、いることが多いだろう? 俺よりも……アイツがいいのか?」
一緒にはいるけど、それは、今に始まったものじゃあ。
「違う、よ? だって……好きなのは、純さん、だから」
橘くんは……違う。
だって、好きだとしても、それは友達としてだし。
……たまに。
ほんの一瞬だけ、あの時の人が、橘くんだったらって考えるけど。
あれは純さんだったし、手紙に書いてあったのは、間違いなくあの時にいた人しか知らないことだから。
……そんなことを考えるなんて、贅沢だ。
「みんな、アイツばかり見るんだよ。賢くて、気が使えるアイツを……」
「純さんだって、似てっ」
ぎゅっと、握る手に力が入る。
私を見つめる目は、とても怖くて。
まるで……蔑むような、視線を向けていた。
「そう言って、周りは俺でなく、アイツを選ぶ。――ムカつくんだよ」
「ぃっ、た!」
思わず、痛みで声がもれる。
カレが言いたいことが分からず、私は頭を悩ませながらも、言葉を発した。
「私、は……純さん、だけ、だから。――あの絵を見てくれたのは、純さん、でしょ?」
今、その話をする時だと思った。
美緒とも話したけど、この話をして、カレがどういう行動に出るか、詳しく様子を見た方がいいと。
――しばらく、無言のカレ。
何も言わず、ただ視線を交わらせるだけで。どれだけの間、そうしていたのか。ようやく、カレは口を開いた。
「俺じゃなかったら……どうする?」
発せられたのは、そんな言葉。
えっ? なんて疑問に思っていると、カレは言葉を続ける。
「実はあの時のは朔夜で、俺はただ、それを利用して近付いたんだとしたら……どうする?」
ふふっと怪しい笑みを見せ、カレは言った。
あの時の人が……橘くん?
それだけでなく、利用したとか、予想もしなかった言葉に、私の頭は、なかなか追いついてはくれない。
「……冗談、でしょう?」
ようやく出た言葉もそれぐらいで、他にも色々言いたいのに、今はそれが精一杯だった。
「冗談じゃなかったら? お前が欲しくて……アイツに取られたくないから、先に近付いたアイツのふりしてたって言っても――それでも、お前は俺を選ぶか?」
冗談にしては、カレの言葉は真剣みを帯びていて。
今の話が、本当なんじゃないかと、そんなことを思わせるほどの雰囲気。
「わた、しは……純さんが……好き、だよ」
ウソではない言葉。なのに心のどこかで、今の言葉を認めたくない自分がいるような……そんな、ちぐはぐな感情が、体を包んでいた。
「今の言葉……忘れるなよ?」
ニヤリと笑みを見せると、カレは貪るように、私の唇を奪う。ついばむように、何度も唇に吸い付き、それは次第に首、そして胸へと移動する。
「んんっ!……だっ、め……だか、ら!」
拒んでも、力でかなう訳もなく。
胸に顔を埋め、カレの舌が、肌をゆっくりと這う。
「お前は……俺だけ見てろ」
そう言うと、カレはそれから何も言わず、一心不乱に、私を抱いた。声を出さぬように耐える私を楽しむように、その日の行為は、今まで一番、一方的なものだった。




