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「探りって……市ノ瀬に、ですか?」
「どっちにも。オレの彼女、心理関係の学科選考してるからな。第三者に見てもらった方がいいだろう? それでもおかしかったら……」
真剣な眼差しを向け、幸希さんは言葉を続ける。
「朔は……紅葉ちゃんをどうしたい?」
どうしたいって。
そんなこと決まってる。酷いことをされてるなら――助けたい。
「もし、酷いことをされてるなら、かくまう必要があるかもしれない。そこまで、朔は面倒見れるか?」
今更そんなこと、聞かれるまでもない。
オレは……ずっと、市ノ瀬に惚れているんだから。
「見ますよ。他のヤツになんて、任せたくない」
福原に頼めば安心だが、自分の手でなんとかしたいという気持ちの方が強くて。
「オレもオレで、アニキに聞いてみます。ウソついて付き合ってるなら……その理由も知りたいし」
「仮に嘘だったとしたら、なんとなく予想は付くけど」
罰が悪そうに頭をかき、視線をどこかへと向ける。
心当たりがあるのか訊ねたが、まだ確信は出来ないからという理由で、今は話してはもらえなかった。
何にしろ、幸希さんが協力してくれるのはありがたいこと。オレもオレで調べることを決め、実家へと帰る日を増やし、アニキと早く会うようにした。
◇◆◇◆◇
アニキと会えたのは、それから意外にも早く。あの日から二日後に、実家で会うことが出来た。
「アニキ~ちょっといい?」
部屋にいるアニキに、いつものように声をかける。
少しすると、入れよという声が聞こえ、オレは部屋へと足を踏み入れた。
「どうかしたのか?」
「聞きたいことがあってさ。――市ノ瀬との馴れ初め、聞きたいなぁ~って思って」
「馴れ初めって。別にふつうだぞ?」
「それでもいいから。で、どんなだったの?」
特に怪しむこともなく、アニキはベッドで横になりながら、その時のことを話してくれた。
きっかけは、街で見かけたこと。
それから何度か見かけることがあって、気になって声をかけたのが始まりで――市ノ瀬から聞いた、絵に関することは一度も出てこなかった。
「へぇ~ナンパしたんだ。ってか、幸希さんがアニキはラブレター渡してたって言ってたけど……マジでそんなの渡したの?」
おどけたように言い、確信をつくことを聞いた。
どんな言葉が出てくるかと思い待っていると、アニキは特に変わった様子もなく、話を始める。
「あぁーそんなのもあったな。ま、オレもそれだけマジだったってことかな」
「ふ~ん。今でもかなり熱上げてんの?」
「……ま、それなりにな」
そう言うと、アニキは棚に手を伸ばし、本を一冊取る。そのまま読書を始めてしまい、話はこれ以上しないという雰囲気が感じられた。
「他に……何かあるか?」
「いや、それだけ。んじゃ、また聞かせてくれなぁ~」
そう言って、部屋から出ようとした途端。
「――朔夜」
名前を呼び引き留めるアニキに視線を向けると、アニキもゆっくりと、オレに視線を合わせる。
「お前も、そろそろ彼女作れば?――なんなら」
ふっと怪しい笑みを見せると。
「アイツのこと……抱いてみるか?」
と、聞きたくない音声が耳に入った。
「な、に……言ってんの? ってか、自分の彼女、他のヤツに抱かしちゃダメじゃん」
いつものように振舞ったが、上手く笑えているか分からない。
心が掻き乱され……今の言葉が間違いであってほしいと、何度も願った。
「まー、抱かせるにはもったいないな。結構いい体してるし」
もったいない……?
いい体してる……?
違う。
そーゆうことじゃない。
もったいないとか、いい体してるから抱かせないんじゃなく。
――根本的に、その考えが間違ってんだ。
「……んなの、違うと思うけど」
抑えようとしても、隠すことが出来ず。
イラっとした声で、言葉を発してしまった。
「朔夜がどう思おうと、関係ないだろう? 誰とやろうと、3Pだろうと――それ以上でも、同意があれば、な?」
「っ……!」
このまま話してたら、アニキを殴ってしまう。
ぎゅっと力の入る手をなんとかおさめ、オレはそれから何も言わず、部屋を後にした。
絶対……あんなの間違ってる!
車へと乗り込み、シートをダンッ! と激しく両手で叩く。
どうしようもないほどのイライラが、沸々と湧いてくる。
「マジで、オレの手紙じゃねぇーだろうなぁ……」
イヤな考えが、現実味を帯びてきた。
幸希さんにした誘いを、まさか自分にもされるなんて。
本気じゃないから、ただの遊びだから、そーやって言えるのか?
それとも……アニキの性癖、なのか?
人の性癖にとやかく言うつもりはないが、相手の同意もなしに、そんなことを周りに提案しているのだとしたら。
「……一体、何がしたいんだよ」
真意が分からず、頭の中は、そのことで埋め尽くされていった。




