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第1話 綻ぶ関係


 大学二年の夏。

 始業式が終わると、私は友達を探していた。何やら話があるとかで、式が終わっても帰らないでほしいとメールが届いていた。

 食堂で待っていることをメールし待っていると、しばらくして、私の元へ駆けて来る人物が。




「ごっめ~ん! 待たせちゃったよね?」




 顔の前で両手を合わせ、待ち人である友達――福原美緒ふくはらみおは、申し訳なさそうに様子を窺う。

 同じ美術科の絵画コースで、一年の時から何かと一緒にいる。


「ううん、そんなに待ってないから。それで……話って?」


「実はね……紅葉くれは、今夜の合コン参加して!!」


 突然、そんなお願いをされた。

 ご、合コンって……彼氏や彼女が居ない人が行くもんじゃないの?


「えっと……彼氏、いるんだけど」


「あぁーそこは大丈夫! 合コンっていうか、みんなでボーリングして、食事してってカンジ。ま、男共が合コンって騒いでるだけだから、そんな身構えないで?」


 美緒も行くなら……いいかな。

 たまには、私も遊びたいし。


「いいよ。男子ばっかりじゃなければ、カレも文句は言わないから」


「ありがと~! じゃあ五時に迎えに行くから、それまでに準備しておいてね」


 頷くと、美緒はまだ他に用事があるらしく、足早に食堂から去って行った。

 相変わらず、他にも色々と世話でも焼いてるのかなぁ?

 美緒は面倒見がよく、こうやって何かを仕切ることは珍しくない。


「――さてと」


 一息ついて、私は携帯を手にした。

 メールを送る相手はカレ。別に今日会う約束はしてないけど、男子と遊ぶことになった時は、きちんと知らせるようにしている。


「これでよし…っと」


 携帯を閉じ、私も食堂をあとにした。

 大学から家までは軽く一時間ほどかかり、電車と自転車を使い登校している。駅に行くと、ちょうどホームに電車が入り、運よく席をゲット出来た。

 今日はついてるなぁ~。

 すんなり座れたことがうれしく、周りに誰も座っていないこともあり、ひと眠りしようとしていると。




「―――セ、セーフ…!」




 ここまで走って来たのか、肩で大きく息をしながら入り口に立つ男子が目に映る。余程急いで来たんだろうなぁと思い見ていると、その人物と視線がぶつかる。


「あ……市ノいちのせ。――そ、そこ……座ってもいい?」


 少々呼吸を荒くし、その人物は私の側に来る。


「うん、どうぞ。――今日はギリギリだったね」


「ホント危なかったぁ……これ逃したら、一時間待つからな」


 私の横に腰掛けたのは、デザインコースの橘朔夜たちばなさくやくん。一年の時からの友達で、コースは違うものの美緒経由で仲良くなり、学校ではよく三人でいることが多い。


「そーいや、市ノ瀬も今夜の集まり行くの?」


 話しぶりからして、さっきのことだろうと察した。どうやら橘くんも参加することになっているらしい。

 よかった……知らない男子だけだと、まだちょっと緊張しちゃうんだよね。


「今日は、どれぐらい集まるのかなぁ?」


「ん~…男はオレ入れて五人って聞いたけど、女の方までは聞いてないんだ」


 予想したよりも数が多く、今から少し心配になっていた。どんな人が来るかも気になるところだけど、こういう席では、結構ベタベタとしてくる人もたまにいるから、人数が多くなると、そういうところが気になってしまう。


「ま、絡まれそうになったら、いつものように逃げてこいな?」


「うん、お願いします」


 他愛もない話をしていると、橘くんの降りる駅へと到着した。


「んじゃ、また夜にな!」


 片手で手を振る橘くんに、私もまたねと言って見送る。

 電車が動き始め、私は窓の外へと視線を移していた。

 今夜、どんな服にしようかなぁ。

 ボーリングなら、やっぱり動きやすいのがいいだろうけど……。

 最近新しく買った服があり、それを着てみたいと思う自分がいたりする。

 けれど、それをまだカレには見せてなく、しかも膝よりちょい上のワンピース。さすがにそのまま着ていこうとは思わないけど、まだカレに見せていないということが、迷いを生じさせていた。

 ん~……トレンカはけば大丈夫、だよね?

 しばらく悩んだ末、新しい服を着ることに決めた。

 まだ見せていないものの、以前カレから言われていた言葉を思い出し、問題ないだろうと判断したのだ。

 それこそ、こうやって迷っていた時だったか。カレが「そんなこと気にすることないって」と言い、抱きしめてくれたことがあった。

 生足じゃないし、誘ってる感じはないよね。

 そういうとこには気を付けつつ、今夜のことを考えながら電車を降りた。




 まさか……この時の判断が。




 苦しみへの歯車を、加速させることになるなんて。


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