表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/68

.


「もう……黙ってるなんて出来ない」


「な、何が?」


「……アニキと、うまくいってないだろう?」


「…………」


 図星をつかれたものの、それを口にすることは避けた。

 今言ってしまったら……きっと、甘えてしまう。

 それは、ただ目の前にいる橘くんが手近な存在だから、そう思ってしまうだけで。




 ――だから、甘えてはいけない。




 言えばそれがクセになって、橘くんに迷惑をかけてしまう。




「大丈夫だって。ケンカなんて、当たり前のこと、だよ?」


「――それが、証拠じゃん」


 ぎゅっと腕に力を込め、言葉を続ける。


「さっきから何かと“大丈夫”って言ってるけど……それ、無理してる証拠。――特に、虐待経験ある人は、無意識にそうやってしまうらしい」


 バレ…てる――?

 でも、ここで言うわけにはいかない。


「違う、よ。本当に、私は大丈夫っ」


「ほら、また言ってる。――福原と同じだから、分かりやすい」


 えっ……美緒と、同じ?


「アイツも、家がぐっちゃぐっちゃなんだよ。だから、今の市ノ瀬はすげー分かりやすいってわけ。――ま、オレもそういう環境にいたからってのもあるけど」


「あっ……」


 そっ、か。純さんが虐待されてたなら……橘くんにも、あるんだよね。

 だから、なのかな。

 相手が無理してるとか、嘘をついているとか、そういうのが分かってしまうのは。


「橘くんも……いやなこと、された?」


「……オレは、何もなかった」


 言われた言葉の意味が分からないでいると、すっと腕の力を緩めて、視線を私に向ける。


「アニキはされたけど……オレは、何もされてない。だから、アニキには幸せになってほしい。なってもらわないと困るって、思ってるけど」


 言葉を詰まらせながらも、橘くんはゆっくり、言葉を続ける。


「今のアニキには、そう思えない。――どうして、そこまで好きなの?」


 どうして……か。

 私はその疑問に応えるため、その時のことを話した。

 簡単に言えば、私の絵を評価してくれたから。

 高校三年の最後の作品が、街の大きな施設に飾られることがあり、それを気に入ってくれたことが、話すきっかけで。

 あの時の絵は、周りが評価してくれるようないい部分だけでなく。違う部分を、カレは読み取ってくれたから……少しずつ、惹かれていった。

 一番のきっかけは、手紙をくれたことなんだけど。


「だから、私は純さんが好き。強引なところもあるけど、本当は、分かってくれてるって信じてるから――?」


 説明が終わった頃には、橘くんは驚いたような表情をしていた。

 一体……どうしたんだろう。

 何かおかしなところでもあったのかと思っていると。


「違う、のに――」


 と、小さいながらも、そんな言葉が聞き取れた。


「違うって……何が、違うの?」


「……ごめん。今は、まだ言えない」


 そう言って、橘くんはさっと立ち上がる。


「悪いな、足止めさせちゃって。――帰ろうか」


「あ、うん……」


 話を、逸らされてしまったような気が。

 それからも、なんだかさっきのことを聞けるような雰囲気ではなくて。

 ぎこちない空気のまま家へと着いてしまった。


「それじゃあ、また学校で――今日は、家で休んでてくれよ?」


「うん、今日はそうする」


「なら安心。――じゃあ、またな」


 軽く手を振りながら、橘くんを見送った。

 その後も、カレからの電話がかかったけどなんとか断り。今回ばかりは、自分の気持ちを通してみた。

 



 その行動が……更なる痛みを伴うなんて知らずに。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ