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◇◆◇◆◇


「今日は送ってもらいなさいよ?」


 放課後、先に講義が終わり帰っていた橘くんに美緒が連絡し、わざわざ学校に来てもらっていた。

 気分は戻ってきたものの、まだ体が思うように動かなくて……申し訳ないと思ったけどど、送ってもらえるのは、すごく助かる。


「ごめんね……帰ってたのに、また来てもらって」


「ヒマしてたからいいって。それより……」


 真剣な声で話し出す橘くんに、私も自然と身が引き締まる。


「何か……悩んでない? オレでよかったら、いつでも聞くから」


「…………」


 話を聞くからとか、言ってよとかではなく。

 今までかけられた言葉とは違い、私のペースを考える言葉に、不覚にもころっといってしまいそうで。

 心身共に弱っているせいか、すごく甘えてしまいそうになる自分がいた。

 



 今なら……話せる、かな。




「あの、ね……」


 ゆっくり、言葉を紡ぎ。

 内にある思いを、声に出していく。

 うんと頷いて、橘くんは聞く姿勢になってくれる。


「私さぁ……母親に、いやなことされて、育ったの。――だから、自分に母親と、同じ血があるのが嫌で……」


 今じゃないと、言い出し辛くなる。

 膝に置いた手に力を込め、意を決して、続きの言葉を発した。


「ハーフ、ってことも……嫌で、黙ってたの」


「……そっか。言われれば、市ノ瀬ってキレイだもんな。ハーフなの納得する」


「あ、あり、がとう。――それで、ね。今日は、母親が来て……それで、触られた、か、らっ」


 言葉が、それ以上続けられなくて。

 いつの間にか、涙が頬を伝っていた。




「――いつでも聞くから」




 ふわりと、頭にのせられた手の平。

 そのまま撫でながら、橘くんは言葉を続ける。


「すぐに、話さなくていいよ。――言いたくなったら、いつでも付き合うから」


 手の平と同じような、やわらかな声。

 それを聞いて、余計に涙が溢れてしまって。


「ご、めっ……止まら、なくて」


「ムリに止めなくていいって。ガマンはよくないしね」


 そう言うと、手をすっと離し、再びハンドルへと添えた。

 ひとしきり涙を流すと、次第に気持ちが落ち着き始めて。――ぐぅ~っと、私のおなかが音をたてた。


「…………」


「…………」


 な、なんでこのタイミング!?

 そういえば……美緒が買ってくれていたおにぎりには手をつけず、そのままにしてたから、お昼から何も食べていない。


「ははっ、市ノ瀬のはらも鳴ってることだし、なんか食べて行こっか?」


「お、お願いします……」


 恥ずかし過ぎて、私は俯いてから言葉を発した。

 今、絶対に顔赤いよ……。

 それからお店に向うことにしたが、お財布を持ってくるのを忘れたらしく、一度、橘くんの自宅へ寄ることになった。

 着いたのは、三階建てのアパート。

 橘くんの部屋は三階の角部屋らしく、一番いい場所のようだ。


「あ、あのう……」


 部屋へと行こうとする橘くんを止め、申し訳なさそうに、言葉を続ける。


「お手洗い……貸してもらえる、かな?」


 そろそろ換えないと、下着に付いちゃいそうだし。

 初めての人の家で頼み辛いけど、戸惑ってる場合じゃない。


「いいよ。ってか、そんな緊張しなくていいのに」


「き、緊張するに決まってるよ!……初めて、なんだから」


 一人暮らしの男の人の部屋に入るのは、実はこれが初めてだったりする。

 カレの部屋に行った時とは違い、なんだか変に意識してしまって。


「そう言われたら、こっちも緊張しちゃうじゃんか。――トイレここだから」


 ドアを開けると、右側の方を指差し、橘くんは部屋の奥へと入って行く。

 おじゃましますと言ってから上がり、さっとことを済ませる。

 意外と待たせてしまったかなと思っていると、まだ探しているのか、橘くんは外にはいなかった。

 奥にいるのかなぁ?


「橘くん、見つからないの?」


 声をかけるも、返事は返ってこなくて。

 気なった私は、悪いと思いつつも、奥のドアに手をかけた。


「――失礼しまっ」


「いい加減にしろよな!」


 突然の大声に、体がビックと反応する。

 初めて見る橘くんの様子に、私はその場に、座り込んでしまった。


「今日ぐらいそっとしてやれよ! は? 関係ないって……!」


 ようやく私がここにいることに気が付いたのか、橘くんと視線が交わる。私を見る視線は、どこか辛そうで。


「……とにかく、今日は連れて行かないからな! 無理に来させるなよ!!」


 最後により強い言葉を発し、橘くんは電話を切った。

 体が震え始めてしまい、まだ何があったのかと、聞くことが出来なくて。

 どうしちゃったんだろう……すごく、辛そうな顔してる。

 本当に、変にこういうのには敏感で。橘くんに嫌なことがあったのは、明らかだった。


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