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「今日は顔も見れたし、そろそろ行くわね。それじゃあクレハ、ミオちゃん、またね?」
ふふっと笑みをこぼし、その人は私たちに背を向けて歩く。
その姿が見えなくなった途端。
「ちょっ! 紅葉!?」
私はその場に、膝から崩れ落ちた。
張り詰めていたものがなくなり、上手く、体に力を入れれない。
「紅葉!? 紅葉ってば!!」
美緒の声が聞こえているのに、返事をすることも出来なくて。
意識は、そこで途絶えてしまった。
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『オトナなんだから、ワガママ言わないの』
また……あの夢?
『コドモなんだから、ママの言うこと聞けばいいの』
都合のいい時だけ、大人だとか、子供だとか言って……。
小学校二年の子どもに、大人なんだからとか言われて分かるはずがない。
『ママの言うとおりにしてればいいの! そうすればうまくいくの!!』
いつもそう。
自分が偉いと思って、周りを巻き込んで……それにどれだけ付き合わされたことか。
母親の友達の男性に会いに行った時、当時五歳だった私を、二人きりにした。
ふだんから、知らない人には気をつけろ、ついていくな、男の人には注意しろと言うくせに、母は私が初めて会った人と二人きりにして。
何も起きなかったものの、その間の空間、雰囲気は、とても居心地が悪かった。
母親曰く、自分が知っている人だから大丈夫だと言うけど……散々脅しておいて、それはないんじゃないかと思う。
子どもにとって、どれだけそれがいやなことだったか。
違う日には別な男性に会わされ、一緒に食事をした。
その時に母は、その人におねだりをしろと言ってきたこともある。
いやだと断ると、他の子どもはしてるのにと、とても忌々しい顔で私を見て……家に帰ってからも、そのことをグチグチと言われ続けた。
『ほら、パパからお金もらってきなさい』
離婚してからは、こんなことも言われるようになって。初めは従っていたものの、私だって反抗する時はあった。けれど、断れば言葉で責め立てられる。
アンタは日本人の汚い部分を受け継いだ!
パパに似てヒドイ心を持った!
そんな言葉を……ずっと、言われて育った。
時には叩かれ、理不尽な理由で怒られて――母の機嫌が悪いだけで叱られるということも、珍しくなかった。
だから、母を怒らせないようにしよう、逆らわないようにしようと、自分を護るために必死だった。
今では祖父母が私を引き取り育ててくれているものの、虐待が理由で別れたわけじゃないから、会いに来るのは自由。それもこれも、自覚したのは離婚した後のことだったから。
だから……私は、ハーフであることが嫌。
人によっては、母の国にいいイメージを持っていない。
お金をあげればついてくるとか、いやらしいお店で働いているとか。
母がそういうお店で働いていたわけじゃないのに、自分をそういう目で見る人がいやで、高校からずっと隠していた。――それなのに。
……バレ、ちゃった。
美緒にまで、あんな目で見られたくないのに……変わらず、いてくれるのかなぁ。
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「――紅葉?」
声が聞こえ、目蓋をゆっくりと開ける。
目に映ったのは……心配そうな美緒の顔。
どうやら保健室に運んでくれたらしく、私はベッドに寝かされていた。
「もう、急に倒れるんだもん! 心配したじゃない……」
「うん……ごめん、ね?」
いつもの……美緒だ。
私がハーフだって知っても、何も思わないのかなぁ?
「それにしても、急にお母さんが来るなんて驚いたよね」
「っ!?」
母親のことを話された途端、体が震え始めた。さっき対峙したのが悪かったらしく、心臓も鼓動の速さ増し、いつものように振舞えない。
「……何か、あった?」
眉をひそめ、美緒はより心配そうに訊ねる。
言っても……いいの、かな。
家のことを話しても、言われてもどうしようもない、頑張るしかないと言われ続けていただけに、なかなか言い出すことが出来ない。
歯がゆい感覚が体を侵食し、ぎゅっとシーツを握り締める。
「…………」
「いいよ、無理しなくても。――なんとなく、想像出来るから」
そう言うと、美緒は立ち上がった。
「まだ休んでなさいよ? あ、おにぎり買っといたから食べてね」
いつものように振る舞い、美緒は笑顔を見せてくれて。
「それじゃあ、終わったら迎えに来るから」
そう言って、美緒は保健室から出て行った。
……ありがとう。
どこまで美緒が想像しているか分からなけど、美緒なら本当に……分かってくれるかもしれない。
だからもう一度、話してみようかなという気持ちを、持ってみようと思った。
他の人と同じと思うのは、よくないよね。
今までの人がそうだったとしても、美緒なら違う反応をしてくれるかもしれない。
カレだって分かってくれたんだから……きっと、美緒だって。
そうしたら、橘くんにも話してみよう。
一番仲のいい二人に話そうと決意し、ベッドでしばらく休んでいた。




