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翌日、美緒の彼氏である海さんの車に乗って、私たちは美術館へと着ていた。
橘くんは自分の車で来ており、合流すると、四人で中へと進む。
海さんは、美緒と橘くんの高校の先輩で、私たちより2つ年上。
ちょっと目が鋭いところがあるものの、中身はとてもやさしい人だ。
今回やっているのはキリスト展。
イエス様やマリア様といった神様の絵がたくさん描かれていて、天使や悪魔なんかの絵もたくさん見られる。
「へぇ~実物ってこうなってんだ」
「実際に見る方がいいでしょ?」
海さんと美緒は、腕を組みながら私たちの前を歩いている。すごく楽しそうで、もはや二人だけのラブラブな空間が出来上がっていた。
いいなぁ~。私も、腕とか組んでみたい。
カレとは数回しか腕組をしたことがなく、手をつなぐのも、冬限定で数回のみ。
理由は、カレが汗っかきなので、べとっとした感覚が嫌なこと。そして元々、そういうことが好きでないから。
……みんな、触れ合ってる。
館内を見回すと、ガッツリくっついていることはしないものの、軽く手を握ることはしていて――それを見て、チクリと胸に痛みが広がるのを感じた。
「――大丈夫?」
顔をのぞき込むようにして、橘くんが様子を窺う。
少し慌てたものの、大丈夫だからと言い、余計なことは考えないよう、絵を見ることにした。
「肌の質感……すごいなぁ」
「これ、描くのどれだけかかるんだろうな」
今見ているのは、天使と悪魔が戦っている絵。
有名な作家が描いたものではないけど、色使いや絵の勢いなんかが、目を見張るものがある。
「こういうのって……橘くんも勉強になったりする?」
「なるよ。その時代の服装や、全体の配置とか。――ま、それ以前に絵が好きなんだけどね」
「そうなんだ。兄弟そろって好きなんだね」
「えっ――?」
橘くんは、不思議そうな眼差しを向けてくる。
何かおかしなことでも言ったかなと考えていると、橘くんの口から、思いもよらない言葉が飛び出た。
「アニキ、こーゆうのに興味ないはずなんだけど……」
そん、な……じゃあ、一緒に行ってくれたのって。
無理してたんじゃないかという考えが、頭を巡る。
あれから美術館に行くことはおろか、展示会にすら一回も行っていない。
もしかして……絵が好きだっていうのは、嘘、とか――?
嫌な考えが浮かび、表情は次第に、暗いものへとなっていく。
「――きっと、市ノ瀬のことが好きだからだろうな」
そんな声が耳に入り視線を向けると、橘くんは言葉を続ける。
「興味なかったことでも、好きなヤツがそれを好きだと、興味持ったりするだろう? それだけ惚れられてるなんて、うらやましいぞぉ~!」
「う、うらやましいだなんて……」
一気に顔が赤くなるのが分かり、思わず顔を背ける。
その言葉で、心に渦巻いた不安が晴れていき――ほっと、安心出来る自分がいた。
館内を一周すると、併設されているカフェスペースへ向う。
思ったよりもデザートが充実していて、お茶をするにはもってこいだ。
「パフェ交換しよぉ~?」
「いいよ。――あ、チョコも美味しい」
「ん~! イチゴも最高! もう一個食べようかなぁ~」
お互いのを何口か食べ、当たりのお店だったことに笑みをこぼす。
「花より団子、って言葉が似合うな」
コーヒーを口にしたあと、ふふっと笑みを見せながら海さんが呟く。
「いいじゃない。こーゆうのは女子の特権なんだから」
「いや……福原、特権は違うんじゃないか?」
ポテトをつまみながら、橘くんはツッコミを入れた。
言われた美緒はというと、どこか勝ち誇ったような表情をしていて。
スプーンで一口パフェをすくうと、海さんに視線をやる。
「そんなこと言うと……食べさせてあげるのや~めた!」
海さんの口元まで持っていったスプーンを、さっと自分の口へと持っていき、ふふ~んと余裕の笑みを見せた。
「んなのずりーぞ!」
「へっへ~んだ。全部私が食べるんですぅ~」
「「………」」
またしても始まった、二人だけの空間。
もはやお馴染みの光景だから、私たちはさして突っ込むこともせず、ふつうに過ごしていた。




