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◇◆◇◆◇


 翌日、美緒の彼氏である海さんの車に乗って、私たちは美術館へと着ていた。

 橘くんは自分の車で来ており、合流すると、四人で中へと進む。

 海さんは、美緒と橘くんの高校の先輩で、私たちより2つ年上。

 ちょっと目が鋭いところがあるものの、中身はとてもやさしい人だ。

 今回やっているのはキリスト展。

 イエス様やマリア様といった神様の絵がたくさん描かれていて、天使や悪魔なんかの絵もたくさん見られる。


「へぇ~実物ってこうなってんだ」


「実際に見る方がいいでしょ?」


 海さんと美緒は、腕を組みながら私たちの前を歩いている。すごく楽しそうで、もはや二人だけのラブラブな空間が出来上がっていた。

 いいなぁ~。私も、腕とか組んでみたい。

 カレとは数回しか腕組をしたことがなく、手をつなぐのも、冬限定で数回のみ。

 理由は、カレが汗っかきなので、べとっとした感覚が嫌なこと。そして元々、そういうことが好きでないから。

 ……みんな、触れ合ってる。

 館内を見回すと、ガッツリくっついていることはしないものの、軽く手を握ることはしていて――それを見て、チクリと胸に痛みが広がるのを感じた。




「――大丈夫?」




 顔をのぞき込むようにして、橘くんが様子を窺う。

 少し慌てたものの、大丈夫だからと言い、余計なことは考えないよう、絵を見ることにした。


「肌の質感……すごいなぁ」


「これ、描くのどれだけかかるんだろうな」


 今見ているのは、天使と悪魔が戦っている絵。

 有名な作家が描いたものではないけど、色使いや絵の勢いなんかが、目を見張るものがある。


「こういうのって……橘くんも勉強になったりする?」


「なるよ。その時代の服装や、全体の配置とか。――ま、それ以前に絵が好きなんだけどね」


「そうなんだ。兄弟そろって好きなんだね」


「えっ――?」


 橘くんは、不思議そうな眼差しを向けてくる。

 何かおかしなことでも言ったかなと考えていると、橘くんの口から、思いもよらない言葉が飛び出た。


「アニキ、こーゆうのに興味ないはずなんだけど……」


 そん、な……じゃあ、一緒に行ってくれたのって。

 無理してたんじゃないかという考えが、頭を巡る。

 あれから美術館に行くことはおろか、展示会にすら一回も行っていない。




 もしかして……絵が好きだっていうのは、嘘、とか――?

 



 嫌な考えが浮かび、表情は次第に、暗いものへとなっていく。




「――きっと、市ノ瀬のことが好きだからだろうな」




 そんな声が耳に入り視線を向けると、橘くんは言葉を続ける。


「興味なかったことでも、好きなヤツがそれを好きだと、興味持ったりするだろう? それだけ惚れられてるなんて、うらやましいぞぉ~!」


「う、うらやましいだなんて……」


 一気に顔が赤くなるのが分かり、思わず顔を背ける。

 その言葉で、心に渦巻いた不安が晴れていき――ほっと、安心出来る自分がいた。

 館内を一周すると、併設されているカフェスペースへ向う。

 思ったよりもデザートが充実していて、お茶をするにはもってこいだ。


「パフェ交換しよぉ~?」


「いいよ。――あ、チョコも美味しい」


「ん~! イチゴも最高! もう一個食べようかなぁ~」


 お互いのを何口か食べ、当たりのお店だったことに笑みをこぼす。


「花より団子、って言葉が似合うな」


 コーヒーを口にしたあと、ふふっと笑みを見せながら海さんが呟く。


「いいじゃない。こーゆうのは女子の特権なんだから」


「いや……福原、特権は違うんじゃないか?」


 ポテトをつまみながら、橘くんはツッコミを入れた。

 言われた美緒はというと、どこか勝ち誇ったような表情をしていて。

 スプーンで一口パフェをすくうと、海さんに視線をやる。


「そんなこと言うと……食べさせてあげるのや~めた!」


 海さんの口元まで持っていったスプーンを、さっと自分の口へと持っていき、ふふ~んと余裕の笑みを見せた。


「んなのずりーぞ!」


「へっへ~んだ。全部私が食べるんですぅ~」


「「………」」


 またしても始まった、二人だけの空間。

 もはやお馴染みの光景だから、私たちはさして突っ込むこともせず、ふつうに過ごしていた。


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