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「っ!? す、すみません!」


 声からして、相手は女性だ。

 こっちも慌てて謝ると……目の前にいる人物に、オレは息をのんだ。




 なんで……市ノ瀬が、ここに?




 イヤな考えが巡り始めていると、アニキがこちらに気付いたのか、手招きをする。それを見て、市ノ瀬はうれしそうにアニキの元へと歩いて行った。




 やっぱり……市ノ瀬の彼氏って。




 アニキだったのが、とても悔しかった。

 オレの方が、何年も前から惚れていたのに。

 アニキが幸せになってくれるのはうれしいし、応援したいけど……まだしばらくは、気持ちの整理がつきそうにない。


「じゃあみんな知り合いみたいだし……気兼ね無く楽しみますか」


 幸希さんのかけ声でカンパイをする。

 次第に気分も和らぎ、楽しい時間を過ごしていると――ふと、違和感に気付いた。

 市ノ瀬……ムリして笑ってる?

 いつも見ているのとは違う気がして、なんだかそれが気になっていた。

 とはいうものの、そんなに大きな変化があるわけではなく。気にし過ぎと言えば、それで終わってしまいそうなほどだった。

 たぶんオレの気のせいだと思い、そのことには触れないまま食事をすすめた。




 ――けれど。




 それを助長させるような気がかりなことは、まだまだ続いた。

 アニキ……一回も、名前で呼んでなくないか?

 おいとか、お前とか。いくらでも名前を呼ぶ場面はあったのに、市ノ瀬のことを名字で呼ぶことはおろか、紅葉と呼ぶことさえなかった。

 もう帰るというのに、アニキは名前を口にしないまま、別れの挨拶をしていた。

 まぁ、ふだんから呼ばないだけかもしれないけど。

 ふつうのカップルなら、やっぱり名前で呼んでるものじゃないかと思ったから、妙に気になってしまった。


「私は、タクシーでも使って帰ります」


 帰る話をしていると、そんな声が耳に入る。

 タクシーなんて、金がかかるじゃんか。

 そう思ったら、市ノ瀬を送ることを提案していた。

 アニキの許可もあり、オレの車で帰ることになると、心はどこか浮かれていて。

 ふだんならしないような、助手席のドアを開けるという行動をとっていた。

 いや……なんでオレ、こんな恥ずかしいこと。

 自分でも驚きだった。今まで、こんなことしたことないっていうのに。

 案の定、市ノ瀬からは手馴れてるのではないかという眼差しを向けられてしまった。




「――言っとくけど、誰にでもしてないから」




 誤解だけはされたくない。そんな一身から、言葉を口にしていた。

 図星だったのか、慌てる様子の市ノ瀬が、なんか面白くて。




 ……本気なんだなぁって、改めて実感してしまう。




 けれど、そんな感情は持っちゃいけない。

 アニキには、幸せになってもらわないといけないのだから。

 今までもらえなかった分、これからは、オレよりも幸せになって……だから。




 こんな気持ちは――話してはいけないんだ。




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