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6.いじめその五

「リーンベルちゃんをいじめなくとも、ぎゃくはーえんどというものをすれば、女神様は納得なさるのではないでしょうか?」



 リーンベルをくすぐりながら、私は皆様に問いかけました。


「しかし、女神様は“いじめられたリーンベルちゃんが幸せになることが大切”とおっしゃいましたわ」


 マチルダ様が答えてくださいました。しかし、そうするとくすぐるどころではなくなってしまい、息を整えながら皆様と相談いたします。



「結局いじめは必要だけれど、内容が軽すぎるというわけですわね?」


「やはり無視とか……」


「ミミリカ様! そんな恐ろしいことをおっしゃらないで!」


 ミミリカ様とサリナ様の喧嘩が始まりそうになったので、口を挟みます。


「皆様。人数が足りないという可能性はございませんか?」


「まぁ」

「それは」

「その可能性もありますわね!」


 皆様の共感を得られたところで、ご提案いたします。


「学園の皆様全員でリーンベルちゃんを子供扱いいたしましょう!?」


「まぁ!」

「ファルシア様! 素晴らしいお考えですわ! 少し、恐ろしい気はいたしますが……」

「そうですわね、少し恐ろしいですが、女神様のお考えに一番近いと思いますわ!」







「ひぇぇぇ、学園の全員から子供扱いってわたくしどうなっちゃうの!?」


「リーンベルちゃん、お言葉遣いが乱れていますわ。皆様、くすぐって差し上げましょう!?」


「ひゃーーーー!」











 私は、翌朝学園全体に「リーンベルちゃんを子供扱いするように」と通知を出しました。



「あの! デーント公爵令嬢様……その、少し、酷すぎるのではありませんか?」


 私がリーンベルちゃんにご飯を食べさせ、皆様がリーンベルちゃんの頭を撫でていると、勇気を出したご様子のご令嬢が話しかけていらっしゃいました。


「ファルシア様の御決定ですわよ!?」

「まぁ! 男爵家の出でよくもそのようなことを言えるわね!?」

「ファルシア様は御神託を受けておいでなのよ!?」


「……ファルシア様との大切な時間に余計なことを」


 ざわつく皆様を制し、私は一歩前に出てその方に声をかけます。



「勇気あるご発言をありがとうございます。えっと、」


「その、リザルト男爵家が長女、ユーラと申します。あの、リザルト男爵家はこの発言には一切関係はございません。わたくしの独断でございます」


 そう言って頭を下げるユーラ嬢の手を取り、私は語りかけました。


「とても勇気のある行動です、ユーラ嬢。私、感動いたしました。ただ、私は何度も女神様からの神託を受け、“リーンベルをいじめろ”と言われておりますの」


「リーンベルさんを、いじめる……ですか?」


「えぇ。リーンベルちゃんをこのようにいじめることは、とても心苦しいのです。でも、女神様のお心に叶ういじめができておりませんの。女神様のお心を叶えるためにお力を貸していただけませんか?」


「……いじめが生ぬるすぎるのでは?」


 ユーラ嬢が何かおっしゃった気がして、私は問いかけました。


「何かおっしゃいましたか? 何かお知恵があれば、お貸しいただきたいのです」


「いえ……その、出過ぎた真似を申し上げました。であれば、私も精一杯リーンベルさんを子供扱いいたします!」


「あら、ユーラ嬢? リーンベルさんではなくて、リーンベルちゃんとお呼びになって? うふふ、子供扱いが苦手なのですわね? では、私がいつもリーンベルちゃんに与えているお菓子を差し上げますわ」


 私が笑顔でユーラ嬢にお菓子を差し出します。


「……リーンベルちゃん、あーん?」


「お前じゃねぇ」


 リーンベルちゃんが小声で何かを言って、ユーラ嬢の手からパクりとお菓子を食べました。



「まぁ!」

「すばらしいですわ!」


 思わず。皆様で拍手をいたします。



 すると、周囲が光りました。


「幼稚園じゃねーんだよ!!! なんでリーンベルの唯一の友達ユーラとの感動的なシーンが! お菓子食べさせて拍手する回に変わってるんだよ!!!」


「まぁ! 神様! お口がはしたないですわ!」


 女神様が降臨なさいました。私は膝をつきつつも、思わず注意を申し上げました。



「ユーラも! なんで丸め込まれてるのかな!? どっからどう見てもいじめじゃないって気づいたよね!?」


「え、でも、この方がリーンベルちゃんには幸せかと思いまして」


「なんでやねん! 不幸の中、王子様たちの逆ハースパダリ集団と唯一の友人に救われるリーンベルの成長記! なんでただちやほやされるストーリーになってんのよ! どんなバグ!?」


 女神様は暴れまわりながら、周囲の物を手に取って投げられます。瓶にしては軽そうな黒い液体の入ったボトル、紙にしては柔らかそうな丸まっているもの。しかし、女神様の手から離れると、すべて消えてしまいました。


「神様……やはり私のいじめではご満足いただけませんか……?」


 私が俯きながら女神さまにそう問いかけると、女神様が叫ばれました。


「なんで悪役令嬢がこんなに性格いいのよ! ……私の周りにはこんな人いなかったわよ」


「……神様?」


 突然泣き出した女神様。私は女神さまに近づき、そっとハンカチを差しだしました。


「神様。美しい瞳が腫れてしまいますわ」


「なによ? 嫌味? どうせあんたたちみたいに美人じゃないし、汚いデブスよ」


 ハンカチを受け取ろうともせず、そう言い放つ女神様。神様の世界も大変なのですね。


「私は神様の瞳、とてもきれいだと思いますわ。デブスの意味はよくわかりませんが、服装を改めて、少し運動でもなさったら、とてもかわいらしいお姿になると思いますわ」


「……なにそれ。私、あなたの滅亡を願っていたのよ? それなのにこんな都合のいい夢を見るなんて……」


「夢? 神様、これは私たちにとっての現実ですわ。ナニア? 神様にお似合いのドレスをもってきて?」


「ドレス!? 無理無理無理無理。そんなもの着たことないし、着方もわかんない」


「お嬢様。では、平民向けの服にはなりますが、こちらのワンピースなどいかがでしょうか?」


 私はナニアの用意してくれた服を女神様に向けて差し出します。


「いつも私に似合う服を選んでくれるナニアが用意してくれたものです。神様にきっとお似合いになりますわ」


「……ワンピースなんて、似合わないって言われてから着てないけど……」


 躊躇した様子の女神さまに私は微笑みます。


「公爵令嬢たる私のメイドのナニアが選んだのです。似合わないはずありませんわ?」


「……まるで悪役令嬢のような言い草ね」


 そう言って、立ち上がった女神様がこちらに向かって手を伸ばし、ワンピースを振り払いました。


「私にそんなかわいいもの、似合うはずないじゃない! また、豚に衣装って言って、からかうんでしょう!?」


「……え?」


 私が呆然としていると、殿下が私と女神様の間に入りこみ、私を背に隠します。


「神殿から正式な回答がたった今届いた。お前は邪神だな!? お前は今までこちらの世界に接触できなかったが、神々がお前を邪神とお認めになった今、こちらの世界に干渉できるようになった」


 そう言って、ルイス様と殿下が皆様を守るように私の前にお立ちになりました。


「殿下! 御身を優先になってくださいませ!」


 私の声に、微笑みを向けた殿下は邪神様に立ち向かわれます。


「ふん! 悪役令嬢のくせにまるでヒロイン気取りね!」


 そう言って、邪神様は私をにらみつけました。

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