12.乱入
「ちょっとー! 止めたのに! なんで勝手に行っちゃうの!?」
突然、そんな声と同時に目の前に美しい女性が現れました。女神様でしょうか。それくらいの美しさと圧倒感です。誰に話しかけているのでしょうと思っていると、創造神様が口を開きました。
「フィリアタニ。我の世界のことだ。我が決める」
「せっかくあたしが楽しんでいたのに!? 酷くない!???」
軽い調子でそう話す女性はフィリアタニと呼ばれました。……フィリアタニ? 愛のフィリアタニ神!?
「フィリアタニ神!」
わたくしの言葉が漏れたかと思ったタイミングで、副神殿長が祈りの姿勢を取ります。神々が目の前に現れた感動でしょう。
「私は信仰を覚えています。私は信仰を決して忘れません。食事をする時、眠る時、どんな時でもあなたがたの忠実なる僕でいると誓います。そして、」
副神殿長が信仰の告白をはじめました。気持ちはわかります。一信徒のわたくしですら、恐怖心と同時に感動を覚えておりますもの。
「だーかーら! あたしが楽しんでいるの! だからダメ!」
「しかし、我の決定に逆らったのだぞ?」
「ダメ! あたしが庇護を与えようと思っている人間なのに!」
そうおっしゃったフィリアタニ神に、ため息をついた創造神様がおっしゃいました。
「そうは言っても、まだ庇護を与えておらぬだろう?」
その言葉を受けて、フィリアタニ神がわたくしの方をばっと見ました。
「妾に、いつも熱心に祈っておるのは、そなたでしょう? 愛のフィリアタニから庇護を与えます」
そうおっしゃったと思うと、わたくしの方に向かって、ピンク色の優しい光が飛んできました。光がわたくしの周りをクルクルと回ると、なんだか心も暖かくなります。
「……フィリアタニ。まったく……。それに、散々我と話している姿を見られているのだから、いまさら取り繕っても無駄であろう」
「え? じゃあ、いつも通りに戻す! てことで、ファルシアにはあたしが庇護を与えたから手出しはダメ!」
わたくしが何も口を挟む間も無く、神々の間で決定されていきます。副神殿長からの僻みのような恨みのような視線がとても恐ろしいです。
「仕方ない。ファルシアという者は諦めよう。邪神の方は滅してよいな?」
「あたしは別に」
フィリアタニ神が許可を出そうとするのを見て、わたくしたちは全員で必死に首を振ります。
「……いてもいなくても、恋愛には関係ない気がするけど?」
フィリアタニ神が、面白いとでも言いたげな表情でこちらを見ています。
「いえ。恋愛に関しましては、こちらのアガサ嬢が必須ですわ! 彼女、恋をしておりましたよ?」
猫のように目を細めたフィリアタニ神。多少の関心を引くことができたようです。
「フィリアタニ神様が、恋愛模様をお望みでしたら、スパイスとしてもメインとしてもアガサ様はお楽しみいただけますわ。わたくしたちが全員で最高の淑女に育て上げる予定ですわ!」
「ふーん……」
フィリアタニ様はちらりと創造神様を見て、笑顔を浮かべた。
「面白い! ねぇ、シュティピア。あたし、この子も見たい! 庇護与えるから! ね? 邪神っていうのも勘違いとか言ってたじゃん!?」
「うーむ……」
わたくしたちの会話はいつから盗み聞かれていたのでしょうか? しかし、アガサ様とわたくしたちの命運は、フィリアタニ様の説得にかかっています。
「……ハグしてあげるから?」
「承知した」
フィリアタニ様のハグに、創造神様が落ちました。あれ? フィリアタニ様の恋人って……。
「人間たち、言っておくけど、あたしの今の彼氏というか夫は、シュティピアだから。間違えないでよ?」
「神話が!?」
フィリアタニ様の言葉に、祈りの姿勢で両膝をつけて、ぶつぶつと唱えていた副神殿長が、がばっと顔を上げました。
「ま、そうかなー?」
フィリアタニ神の言葉に、副神殿長がどこからか紙とインクを取り出して、書き記しはじめました。確かフィリアタニ神の恋人神は武闘神のタケシュピア神だったはずです。驚愕の事実でしょう。詳細に書き記しているようです。
「あなたには、あたしの庇護とこの世界での体をあげるから。頑張ってちょうだい?」
「……は、はい!」
また、ピンク色の光が輝き、最後に膜で覆われて、アガサ様の存在がはっきりとなさいました。




