10.副神殿長
「ありがとうございます。副神殿長」
わたくしがお礼を申し上げると、副神殿長はかわいらしく首を傾げます。
「いやいや、大したことはしておりませんよ。デーント公爵令嬢。……できれば、うちの者がご令嬢に無礼を働いたことはお父上には……」
「ふふ、わかりましたわ。秘密にしておきましょう」
わたくしがそう笑って、指を口元に持って行って、しーっとしていると、殿下とリーンベルが騒ぎました。
「なにあれ、かわいすぎますわ!」
「……またフェルシアを狙う者が増えてしまう……」
あら、そう言えばお爺様の姿がみえませんわ。神殿に先に戻されたのでしょうか? わたくしの不興を買うといけないからと気を使っていただいたのかしら? 気にしませんのに。
「……ありがとうございます」
アガサ様がお礼を副神殿長をしっかりと見つめて、お礼をおっしゃいました。あら? 少し、頬が赤いような……見つめる目もどこかうるんで見えますわ。もしかして、恋!? ふふふ、アガサ様。恋は女性を美しくするのですよ? 頑張ってダイエットいたしましょうね?
わたくしとメイドたちの笑みに何か思ったのか、アガサ様がぶるりと震え、腕をさすりました。
殿下に挨拶をして副神殿長がお帰りになります。その後ろ姿を見送るアガサ様に、リーンベルが後ろからぼそりと呟きました。
「素敵なお方……また、お会いできるかしら?」
「な!?」
慌てて口を押さえたアガサ様が、ハッとした様子でリーンベルに振り返ります。
「な、な、な、何を言っているの?! べ、べ、べつに、顔はタイプだけどそれだけだから!!!」
「ふーん、タイプなんですね」
にやにやしたリーンベルに、アガサ様が顔を真っ赤にして慌てて飛びかかります。
「次の女子会のテーマは、アガサ様の好みの男性にいたしましょうか?」
「まぁ、素敵ですわ!」
「ふふ、どなたかわかっているから、皆様でどうやってお近づきになるか考えましょう?」
「アガサ様自身も磨いて差し上げないと!」
嬉しそうに喜ぶ皆様に、メイドたちもやる気に溢れた表情を浮かべています。
「うそ、え、やだ、やめて!」
顔を真っ赤にするアガサ様が愛らしく、わたくしたちはついついそのまま殿下たちを放置して、女子会をするためにわたくしの部屋へと向かいました。
「……楽しそうでなにより、だな」
「あの会話には、我々は入れませんね」
そう言って、呆れた表情を浮かべた殿下とルイス様の声は、わたくしたちには届きませんでした。
「さぁ、アガサ様? 存分に磨かれていらして?」
「ま、またなの!? さっきもエステは受けたわよ!?」
ぎゃあぎゃあと言いながらメイドたちに引きずられるアガサ様を見て、わたくしたちは思わず笑います。
「アガサ様が戻っていらしたときに、食べる美容に良いおやつを準備いたしますわ!」
リーンベルがそう言って手を上げたので、皆様で喜びました。それぞれ、女子会の準備に張り切り、時間が流れていきました。創造神様のお力の溢れる、夕方と夜の間の時間……。その時になるまで、わたくしたちはしりませんでした。
神を名乗った邪神に対して、創造神様がどのような罰を下すのかを。