出発
だんだんと陽は傾き、西日が窓に差し込んでくると、お婆さんは地下室へ降り、干し肉を一塊持って来た。
「山犬を呼んであげようね。」
そう言うと、屋敷の前の木の枝にその干し肉をつり下げた。
「もう5分もしたら来るよ。」
一方、シャルルのおめかしはマルタも手伝い完璧だった。お婆さんが急いで仕立てた真新しい深緑のベロアのジャンパースカートはスカートの裾に白いレースが覘いており、金の糸で小鳥の模様が刺繍されていた。揃いのボレロには小さなポケットが左右に一つずつついていて、入口がリボン型になっていた。マルタはシャルルが寒くないように、ボレロの襟元に付いている大きな団栗模様のくるみボタンをしっかりとめ、さらに毛糸のケープと手袋をつけてやり、ケーキの入ったバスケットを持たせた。
強い北風が吹いた。
「山犬が来たよ。用意はいいかい、シャルル?」
「うん、完璧だよ、お婆ちゃん。」
「これは、帰りの干し肉だ。帰る五分前に同じように少し高い木に吊るすんだよ。」
「はぁい。」
赤毛のほんの小さい少女は山犬にまたがると、髪をなびかせあっという間に森の奥へ消えていった。その姿を見送る老女と少女。
「ちょっと心配だねぇ。」
と、眉をひそめるお婆さんをマルタはそっと支えた。
「シャルルなら大丈夫よ。ああ見えて私より年上なんですもの。それより、バネッサ様、いつまでもお外にいては体が冷えますわ。すぐに火をご用意しますね。」
二人は屋敷へと戻って行った。