手紙
丁度一週間ほどたった、半月の夜、お婆さんはシャルルに一通の封筒を渡した。
「シャルルにお手紙だよ。ハンス…この前会った町の少年からだね。伝書鳩が運んで来たよ。」
「ありがとう、お婆ちゃん。もしかして…パーティの招待状かな!?」
シャルルは急いで封を切った。白い便箋にへたくそな字で綴られてきたのは、シャルルが待ち望んでいたパーティへの招待状だった。
“親愛なるシャルル、
明日妹の誕生日パーティが行われます。
会場は僕の家、ネアルの町の教会の裏です。
時間は夕方5の時から。
一杯おめかししてきてね!
君の友達ハンス、その妹オリビア”
シャルルはそれを三回入念に読み返すと、深い深いため息をついた。
「お婆ちゃん…、私、行ってもいい?」
シャルルの大きな瞳がうるうるとお婆さんを見つめる。
「ああ、仕方ないね。ずっと楽しみにしていたんだろう?もうすぐ新しいドレスも仕上がるし、それを来て行くがいい。」
お婆さんはシャルルの髪を優しくなでながら言った。
「しかし、忘れてはいけないよ。掟の事を。万が一掟を破るような事があれば、お前は永遠に唯の人形に戻ってしまう。」
「うん、分かってるよ。私、絶対掟を守る。」
シャルルは真剣に頷いた。
その夜、お婆さんの部屋の灯りはいつまでも消えず、明け方近くようやく屋敷は寝静まった。興奮して上手く寝付かれなかったシャルルは一番鳥が鳴くと共に起きだし、屋敷の外で何かを探していた。同じく物音で目の覚めてしまったマルタはそんなシャルルを窓越しに見つめ微笑み、台所にたった。辺りがようやく明るくなった頃に、森の中を甘いいい香りが漂った。シャルルが満足気に屋敷に戻ると、焼き上がったばかりのフルーツケーキがテーブルに置かれていた。
「マルタ、おはよう。これは?」
「お誕生日なのでしょう?持って行きなさい。きっとお友達も喜ぶわ。」
「あ…ありがとう!マルタ!」
シャルルはマルタに抱きついた。すると、カチャリとドアの開く音。腕に緑色のドレスを抱えたお婆さんが立っていた。
「おはよう、シャルル、マルタ。シャルルのことだ、楽しみで眠れなかったんだろう?ふふ、さあ、これを着てみてごらん。合わないところを急いで詰めなきゃね。」
「お婆ちゃん!」
シャルルはお婆さんに駆け寄り、そのままガウンに顔を埋めた。
「お婆ちゃん、ありがとう。私のために…」
お婆さんは愛おしそうにシャルルの髪を撫でながら、しわしわの顔を更にしわしわにさせて微笑んだ。