ピクニック
朝食が済むと三人はピクニックへ出かける準備をした。バスケットにはサンドイッチに温かいお紅茶。お婆さんは少女達に毛糸で編まれた帽子を被せ、自分も羊毛でできたコートを着込んだ。屋敷を出ると普段は薄暗い森の木々の間にも木漏れ日が差し、小栗鼠がそれを縫うように走り去るのが見えた。シャルルは「あっ」と声を上げると小栗鼠を追ったが、もうその姿は見えなくなっていた。町に着くまでの間中シャルルは落ち着かず、あっちこっちで小さな発見に心を躍らせていた。凍った水たまりに、さくさく楽しい霜柱、木に下がっていた氷柱は余りに冷たくて途中で捨てた。赤くて可愛い南天の実は自分とお婆さんの髪飾りにして、マルタには上品なスノードロップの花を一輪プレゼントした。シャルル以外の二人も本当に久しぶりの外出だったので、はしゃぐシャルルを見て顔を見合わせては白い息を吐きながらふふ、と笑った。
三人は小川を渡り、途中開けた丘で昼食をとり、過ぎ行く馬車に手を振り、町の子供達が草遊びをしているのを横目に、とうとう隣町に到着した。町は冬の寒さなんて忘れているかのように活気づき、大勢の人がせわしなく歩き回っていた。お婆さんはたまに訪れる生地屋を探した。しかし、数年ぶりに訪れた町は面影は残しているもののすっかり変わり果てており、どこかで誰かに訪ねるより他に店を見つけ出す方法はなさそうだった。
「バネッサ様、私があちらで聞いて参ります。ここでシャルルと待っていらして。」
そういうと、マルタはお婆さんに微笑み近くのお店へ入って行った。
お婆さんとシャルルが町のベンチに腰掛けマルタを待っていると、ちょうどシャルルと同じ背丈くらいの青い目の少年がこちらへ近づいてきた。
「君、どこから来たの?」
シャルルはちょっと驚きながらも、輝く瞳でその少年を真っすぐ見返した。
「あっちの森よ。今日はピクニックでここへ来たの。お祝いに新しいドレスを新調してもらうんだ。」
「それはいいね。何のお祝い?パーティはあるの?僕も行ける?」
「私とお婆ちゃんと…、それからマルタのお祝いよ。ところで、”ぱぁてぃ”ってなあに?」
「君、パーティをした事がないの!?」
「ないわ。それって可愛いの?」
「パーティは可愛いっていうより…、すっごく楽しいんだぜ!そうだ、こんどパーティがある時に君を招待してあげるよ!」
「本当!?嬉しい!」
シャルルはぱっと顔を輝かせると、少年の手をとった。今度は少年が驚く番だった。
「約束だよ!」
二人は誓いの指切りを交わすと、親しげに笑いあった。
「僕はハンスっていうんだ。君は?」
「私はシャルル。よろしくね。」
二人が自己紹介を終えると、少し離れたところから今風の華やかな洋服に身を包んだ子供達数人がハンスを呼ぶのに気がついた。
「じゃぁ、また。」
にっともう一度笑うと、ハンスはきびすを返し友達と思われる子供達の輪の中へ戻って行った。ハンスの銀色の短い髪は冬の晴れた日にぴったりだとシャルルは思った。