シャルルとマルタ
陽の光が瞼を照らし、お婆さんは目を覚ました。懐かしい、暖かい夢を見たような気がする気分の良い朝だ。お婆さんの気分を汲み取ったかのように、空は雲一つなく、朝の冷たい空気は澄み切っていた。ふと、バターの焦げるような良い香りが鼻孔をかすめる。おばあさんははっとして、近くにあったショールを肩にかけると、隣のダイニングルームへ続く扉を開けた。
「お婆ちゃん、おはよう!」
「おはようございます、バネッサ様。朝ご飯の支度が出来てますわ。」
白いエプロンを身にまとった二人の健康な少女が満面の笑顔でこちらを振り返った。一人では広過ぎたテーブルには小花柄のテーブルクロスが広げられ、三人分の朝食が並んでいた。白いお皿の上には目が覚めるような黄色のオムレツ、そしてグリーンサラダ。焼きたてのパンがほかほかと白い湯気をたてていた。
「まあまあ、シャルルにマルタ、本当に素敵な朝食だこと。お前達が戻って来てくれて、私は本当に嬉しいんだよ。」
またしても感動に頬を紅潮させその場に立ち尽くしているお婆さんを、可笑しそうに赤毛の少女は席に座らせ、自分もその隣にちょこんと座った。後に金髪の少女が白いティーポットを持って現れ、三人分のお茶を注いだ。
「さあ、召し上がりましょう。」
と少女は微笑んだ。
「今日から次の満月の晩までの、三人の素晴らしい生活を祝して。」
「ねえ、食事が終わったらピクニックに行こうよ!凄く良い天気だよ!」
鳶色の瞳がお婆さんを期待一杯に見つめる。
「そうね、サンドイッチを持って小川を越えた丘まで行きましょう。近くの町で二人のドレスも新調しようかね。」
わっと二人の少女は歓声を上げ、顔を綻ばせた。
お婆さんには愛すべき沢山のお人形を従えていたが、その中でもシャルルとマルタはお婆さんの一番のお気に入りだった。シャルルはなつっこく快活なお人形。ふんわりとカールした赤毛は腰まで続き、丸い鳶色の瞳は一度生を受けるといつでもくるくると好奇心に表情を変えた。ぷっくりとした頬はバラ色で、笑うとえくぼができる。普段は無表情のお人形のえくぼ、初めてシャルルがお婆さんに微笑んだ時、どんなに可愛らしいと思ったことか!
一方マルタは規律正しい上品なお人形だった。金色の髪はその性格を表すかのようにきっちりと肩で切りそろえられ、前の髪は灰色の知的な瞳の上でこれまたきっちりと切りそろえられていた。端整に造られた顔は透き通るように白く、見る者にため息をつかせるほど美しかった。いつの間にやら面倒見の良いマルタはシャルルの姉の様な存在になり、いつでもお婆さんを気遣った。