エピローグ
「ふぁーあ…」
思いっきり少年は伸びをした。
「あー…良く寝た。」
少年はチラリとお婆さんを見やると、挨拶もせずに寝室の扉を開けた。
「何か、飯ねーの?」
普段は優しいお婆さんの顔は今まで見た事無いくらいに厳しい顔つきになっていた。そう、昔マルタが見た若かりしバネッサの顔つきだった。
台所に残っていた芋やソーセージにパクつく少年を呆れたようにお婆さんは見つめていた。だからこの子を呼び戻すのは嫌だった。粗野で、勝手で、人の言う事など聞きやしない。しかし、仕方なかった。お婆さんの望んでいた安らかな最期の時は破天荒なシャルルの行いで崩し去られた。そんなむちゃくちゃなシャルル、でも生きていると分かっている以上見捨てて風化させることなどできない。お婆さんは泣く泣くマルタの代わりこの少年を蘇らせたのだった。
「ガイア、話があるよ。あんたに戻ってきてもらったのは他でもない、シャルルのことだ。」
シャルル、という単語を聞くと、その荒くれた少年の瞳の色がぴくりと変わった。
「シャルル、だと?…シャルルに何があった!」
少年はお婆さんに掴み掛からんばかりの勢いで怒鳴り散らした。しかし、バネッサ婆さんも負けてはいなかった。その激しい怒鳴り声にも、真っすぐに伸ばした姿勢は少しもひるむ事など無く、その少年に言い放った。
「あんたにはシャルルを探し出してもらうよ。期日は一ヶ月。次の満月の晩までさ。あんたの大切なシャルルは川に流されきっと損傷していることだろう。早く見つけなければ可愛いシャルルは飢えた魚の餌食になっちまうだろうね。さぁ、分かったらとっとと行くんだよ!」
「シャルルは…何故シャルルはそんな目にあった!?」
少年の怒りに燃えたその瞳がお婆さんを睨みつける。が、お婆さんは答えなかった。
「お前ごときにそんな事を話す必要はないね。分かったらとっととお行き!」
少年はあからさまに怒りを露にし、お婆さんをほんの鼻先まで顔を近づけ睨み続けた。しかし、お婆さんが平然としているのを認識すると、諦めたように吐き捨てた。
「ふん、すぐにシャルルから真相を聞き出すさ。…すぐに見つけてやる。」
少年は部屋の扉を乱暴に閉め、屋敷を後にした。
………
こうしてお婆さんとお人形達のお話は幕を閉じる。古い洋館にはまだまだ沢山のお人形が眠っている。優しいお人形、凶暴なお人形、お掃除好きなお人形、お転婆なお人形…
挙げてみればきりがない。ただ言えるのは、そのお人形達には一つ一つ素晴らしい思い出と愛が刻まれているという事。そんな沢山の想いと愛が眠っているのが深い森に静かに佇む、お婆さんの洋館なのだ。君は信じる?お婆さんとお人形達のお話を。僕は…。
おしまい*
最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました!
完全に自分の趣味、自分の好きな世界観で書かせて戴きました。
今後、時間がある時に挿絵的グラフィックを入れていきたいなと思ってますので、また気が向いた時に見てやってください。
次作、もし書くとしたら学園ものコメディで行きます!
ギャルとお爺ちゃんのお話です!
別に老人好きってわけじゃないんですけど…
是非これからも宜しくお願いします!
千裕