微睡みの中で
こうしてお婆さんと、二人の少女の1ヶ月間は幕を閉じた。魔法は解かれ、安らかに眠るお婆さんの隣には、美しい金髪の白肌のお人形が身じろぎ一つせずそこに在り、また赤毛の緑のドレスのお人形は川の流れのどこかで一人意識を失った。
………
白いモスリンのお洋服に身を包み、バネッサは鏡の前に立っていた。屋敷の一階からはお母さんと兄さんのロベルトが呼ぶ声が聞こえる。何をぼおっとしていたのだろう。今日は魔女になる為に洗礼を受ける日だった。これから20年間は家族とはなれて修行を積まなくてはならない。そうだ、兄さんが昨日くれたお人形は持って行こう。綺麗な金色の髪のお人形。辛いときでも悲しい時でも、この子にだけは何でも話そう。
「今行きます。」
少女は階下に向かって叫んだ。
………
今日は久しぶりに森へ帰る。皆元気にしているだろうか?戦争は激化してるようだけれど、まだあの人里離れた森までは血に飢えた兵士達もやって来るまい。そういえば、兄さんがマルタを修理してくれるって言ってたけれど、ちゃんと直ったかしら?数日前に山犬便で送ったのだけど…
………
今日はマルタのお披露目パーティ。兄さんがマルタを改造して私の世話係にしてくれる。私は世話係なんていらないけれど、マルタが私の魔法で人間の様に喋るかと思うと、今から胸がドキドキではち切れそうだ。あ、兄さんがマルタを連れてやってくる。
「初めまして、バネッサ様。」
ああ、何て綺麗な子なんだろう。お人形の時から美しかったけれど、笑うと本当に見とれてしまう…。
………
ドンドンドン…ガタガタガタ…
恐ろしい音がする。辺りは闇だ。徴兵だ。きっとそうに違いない。お父さんは王様の命令で連れてかれたのだ。今日は何をしに来たのだろう?兄さん、兄さんを連れて行ってしまうのだろうか?嫌だ。悪魔は去れば良い。そうだ、私の魔法で、悪魔を追っ払ってやる…
ドンドンッ…ドンドンドンッ…
しつこいやつめ、どんどんとドアを叩く音は激しくなっている。どうして悪魔は去らない?どうして…!