時を越えて
赤く透き通ったビー玉のような薬が出来上がった。不老不死の薬、おそらくだ。時間がなかったため、動物実験は行えなかった。しかし、マルタの思考回路に沿えば、これらの調合に矛盾はあり得なかった。ついに、100年以上の時を経て、マルタを作った人形師の願いは達成されたのだ。マルタは深い安堵のため息をついた。そして、棚に並ぶ一冊の古書を取り出した。ぱらぱらとページをめくると、一通の封筒が挿んであった。それをマルタは大切そうに取り上げると、中から小さなメモを取り出した。その古びた紙切れには、長い時間がたち変色したインクでこう走り書かれていた。
“最愛の妹、バネッサへ。
100年の時を越えて、今これを君に捧げる。
永久不滅の愛と共に。
兄、ロベルト”
マルタはこれを読み返し、そして薬と一緒に子瓶に入れた。ダイニングに戻ると、未だお婆さんは気持ち良さそうにすやすやと眠っていた。その寝顔は幸福そうで、まるで昔に戻っているかのような無邪気な寝顔だった。マルタはお婆さんを起こさないように気をつけながら、寝室まで彼女を運んだ。寝ている人間というものは細腕の少女にはかなり重たかったが、何とかベッドに寝かしつける事ができた。それから、マルタはお婆さんが明日目覚めた時寂しくならないように、ベッドのすぐそばに自分の座る揺り椅子を持って来た。シャルルは…まだ戻って来ない。でも、きっとお婆さんは目が覚めて、このお父さんからの贈り物を見つけて、きっと凄く嬉しそうな顔で笑うのだ。ああ、安心したら眠くなってきてしまった。薄目で時計を見ると11時58分だった。後、2分。シャルル…早く… ね。マルタは子瓶を大切に抱えたまま、揺り椅子にもたれ、深く深く眠りに落ちていった。




