表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
doll story  作者: 千裕
33/39

時を越えて

赤く透き通ったビー玉のような薬が出来上がった。不老不死の薬、おそらくだ。時間がなかったため、動物実験は行えなかった。しかし、マルタの思考回路に沿えば、これらの調合に矛盾はあり得なかった。ついに、100年以上の時を経て、マルタを作った人形師の願いは達成されたのだ。マルタは深い安堵のため息をついた。そして、棚に並ぶ一冊の古書を取り出した。ぱらぱらとページをめくると、一通の封筒が挿んであった。それをマルタは大切そうに取り上げると、中から小さなメモを取り出した。その古びた紙切れには、長い時間がたち変色したインクでこう走り書かれていた。


“最愛の妹、バネッサへ。


 100年の時を越えて、今これを君に捧げる。

 永久不滅の愛と共に。


                 兄、ロベルト”


マルタはこれを読み返し、そして薬と一緒に子瓶に入れた。ダイニングに戻ると、未だお婆さんは気持ち良さそうにすやすやと眠っていた。その寝顔は幸福そうで、まるで昔に戻っているかのような無邪気な寝顔だった。マルタはお婆さんを起こさないように気をつけながら、寝室まで彼女を運んだ。寝ている人間というものは細腕の少女にはかなり重たかったが、何とかベッドに寝かしつける事ができた。それから、マルタはお婆さんが明日目覚めた時寂しくならないように、ベッドのすぐそばに自分の座る揺り椅子を持って来た。シャルルは…まだ戻って来ない。でも、きっとお婆さんは目が覚めて、このお父さんからの贈り物を見つけて、きっと凄く嬉しそうな顔で笑うのだ。ああ、安心したら眠くなってきてしまった。薄目で時計を見ると11時58分だった。後、2分。シャルル…早く… ね。マルタは子瓶を大切に抱えたまま、揺り椅子にもたれ、深く深く眠りに落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ