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残りの2分
突然、シャルルは小さく悲鳴を上げた。
「ハンス!今、何時!?」
「え!?今…」
ハンスはポケットから懐中時計を取り出し視線をを落とす。
「11時58分。」
「帰らなきゃ!」
シャルルは大慌てでハンスの服を掴むと、山犬に乗り込んだ。
コチ、コチ、コチ…
ハンスから借りた懐中時計をシャルルは見つめていた。秒針の音がゆっくりと、大きくこだましている。来る時は何て速いのだろうと思った、山犬の走る速度が今ではもどかしく感じる。ああ…間に合わない、とシャルルは思った。川に差し掛かった。それは、一瞬の事だった。ハンスの背中にふっと冷たい風が過る。
「…シャルル?ちゃんと捕まって…」
振り返るハンスの瞳に映ったもの、それは…川に向かって身を踊らせるシャルルの姿だった。
「シャルル…!!!」
シャルルの体はそのまま、激流の中に吸い込まれ、あっと言う間に小さく流されていった。幼きハンスは呆然と、ただただ突然の事態に放心していた。